障害のある人もない人もみんなが楽しめる競技を企画して実践するインクルーシブ運動会が川崎市立東橘中(同市高津区)で開かれた。1年生の生徒たちが体を自由に動かせない人や知的障害のある人らを各クラスに迎え、交流を重ねながら競技を練り上げた。
女子栄養大(埼玉県坂戸市)の深田耕一郎准教授(福祉社会学)らが中心となって取り組んでいる授業で、今回で5回目を迎えた。昨年11~12月の総合学習の時間に準備が進められ、運動会は同20日に実施された。
生徒たちは「インクルーシブ」は「仲間外れにしないこと」、「合理的配慮」は「その人の話をよく聞いた上でのサポート」などと大切な言葉の意味を学んだ上で、参加した当事者と向き合った。
車椅子を使っている藤吉さおりさん(51)らを迎えた6組は帽子や鉢巻きを奪い合うのではなく、互いの的にボールを当てて競うなど特別な形式の騎馬戦を実施した。藤吉さんは「自分たちが思いつかない方法を考え出してくれた」と語る。
体を徐々に動かせなくなる難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)のある高野元(はじめ)さん(59)が参加した3組は特別なルールを盛り込んだ借り物競走を考案した。
高野さんは車椅子を使っているほか、声を出せないためヘルパーにひらがなの書かれた透明な文字盤を顔の前に掲げてもらい、目の動きやまばたきで伝えたい言葉を知らせて意思疎通している。
生徒たちは高野さんと公平な形で勝敗を争えるようにキャスター付きの椅子を使い、借り物の内容を仲間に伝えて取りに行ってもらう際には口頭ではなく文字盤を使って知らせるルールを考えた。
準備を重ねる中、文字盤に慣れた生徒がヘルパーを介さず高野さんと直接交流する姿も。3組の生徒は障害のある人のイメージが変わったといい「優しい笑顔を見られて人生を元さん(高野さん)らしく生きているんだと思った」と感想を語る。別のクラスの生徒からは「障害や違いはあってもみんなで楽しく過ごせる」といった声が上がっていた。
高野さんは、体調を崩して運動会には参加できなかったが「私の特徴を実にうまくルール化した」と生徒たちをたたえ、このような交流の機会が教育現場で広がることを望んでいる。【銭場裕司】