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文豪もすなる「カンニング」 電子機器ハイテク化で「いたちごっこ」

毎日新聞 2025年1月18日 5時30分

 大学入試のシーズンがやってきた。受験生の努力が報われるためには、試験が公平・公正に実施される必要がある。ただ、カンニングに代表される不正は昔からあり、誰もが知る文豪も手を染めたことを白状している。時代は移り変わっても、対策が強化されれば日々ハイテク化する電子機器で抜け穴を狙うという「いたちごっこ」が続いている。

 大学入学共通テストに向けて大学入試センターがホームページ上に掲載した「受験上の注意」には次のような記載がある。

 <試験時間中に、次のものを使用してはいけません。(中略)携帯電話、スマートフォン、ウエアラブル端末(スマートウオッチやスマートグラス等。)、タブレット端末(略)>

 スマホについては以前から記載があったが、スマートウオッチ(腕時計型の電子端末)やスマートグラス(眼鏡型の電子端末)に言及したのは初めてとなる。

 ここまで細かく記載された理由は、2024年2月の早稲田大の入試で起きた不正だ。

 受験生の男性がスマートグラスで問題を撮影し、ネット交流サービス(SNS)を通じて外部に流出させた。外部から早大に通報があり発覚し、警視庁は男性を偽計業務妨害容疑で書類送検した。

「隣の人に見せて貰った」

 大学入試での不正は昔から存在する。さかのぼれば、文豪・夏目漱石や俳人・正岡子規も大学予備門(旧制一高の前身)の入試でカンニングしたことを後に明かしている。漱石はエッセー「私の経過した学生時代」で以下のように振り返っている。

 <確か数学だけは隣の人に見せて貰(もら)ったのか、それともこっそり見たのか、まアそんなことをして試験は漸(や)っと済(すま)したが、可笑(おか)しいのは此(こ)の時のことで、私は無事に入学を許されたにも関(かかわ)らず、その見せて呉(く)れた方の男は、可哀想にも不首尾に終(おわ)って了(しま)った>

 1980年には早大の入試問題が漏れていたことが発覚。受験生側から多額の金が流れ、大学職員らが窃盗などの容疑で逮捕された。06年の大阪府立大大学院入試では男性教授が女子学生2人に問題と解答の一部を教え、試験が無効となった。08年には東京大大学院の入試問題を作成した男性准教授が複数の学生に問題を漏らして懲戒解雇された。

 近年も、カンニングペーパーを使うなど「古典的」と思える手法が確認されているが、より目立つのは24年の早大の事件のように、通信機能のある電子端末を悪用するケースだ。

 22年の共通テストでは大阪府内の会場で、受験生の女性がスマホを上着の袖に隠して問題を撮影。外部の男性を介し、家庭教師紹介サイトで知り合った東大生らにSNSで送信して回答を求めていた。女性は失格になり、警視庁が書類送検した。

 三重県の会場では、股の間にスマホを挟んで参照できる状態にしていた受験生もいた。試験監督が不審な動きに気づいて失格になっている。

 不正が起きるたび、大学入試センターや文部科学省、各大学は試験監督による巡回を強化したり、不正が確認された場合には警察に通報する旨を受験生向けに周知したりと対策を強化してきた。

 ただ、スマホはもちろん、スマートウオッチやスマートグラスを試験会場に持ち込むこと自体は現在も禁止されていない。数十万人が一斉に試験を受けるテストで所持品検査などを行うのは多大なコストがかかる上、受験生の負担も大きくなるためだ。

 通信を遮断する装置の導入を検討したこともあるが、全国で100億円のコストがかかると試算され、実現には至っていない。

 22年に起きた問題流出事件を報じる毎日新聞の記事で、入試制度に詳しい識者は「性善説に立った日本の入試制度は限界を迎えている」と指摘した。

 電子機器の小型化・高機能化が急速に進む中、不正をどこまで疑い、受験生の良識をどこまで信じるか。簡単には答えが出ない難問だ。【斎藤文太郎】

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