お菓子界の「王朝」はと問われれば、やっぱり「ブルボン」と答えたくなる。クッキーや米菓、スナックなど幅広く手がけ、華やかなラインアップは社交界さながら。そんな顔ぶれを生かしたのが「プチ」シリーズだ。スティック状のパッケージに一口サイズのお菓子が詰め込まれ、現在24種類が販売されている。多彩な「プチ」を通じて、ブルボンの魅力に迫りたい。
それにしても、ブルボン(新潟県柏崎市)のお菓子を「駄菓子の国」の欄で取り上げて良いものか……。昨年11月に創業100周年を迎えた大手メーカーで、高級感あるお菓子も多数手がけるブルボン。悩んだ末に連絡したら、快く取材OKの答えが。懐が深い! ちょっとほっとする。
勢いづいて、まずはプチシリーズ全種類を食べてみよう。一番人気の「プチチョコラングドシャ」は我が家でも定番。「プチうす焼」や「プチポテトうすしお味」などもサクサク食べてしまう。梅ちりめん味の薄焼きせんべい「プチじゃこっと梅」や、野菜のうまみとスパイスを利かせた「プチうましおプレッツェル」など、初めて食べたけど癖になりそうな味もある。大きさ、量もちょうどいい。
子どもからお年寄りまで食べやすく
プチシリーズの発売は1996年。一人でも食べられて、持ち運びがしやすく、どこでも気軽に食べきれる商品として開発された。さまざまな種類のお菓子の大きさを一口サイズに統一した。お菓子を小さくすると生地の大きさを一様に作るのが難しくなる。それでも、子どもからお年寄りまで食べやすいサイズにこだわった。
スティック状のパッケージにも理由がある。実はこの形状、持ち運びやすいだけでなく、割れづらくなる。細長いトレーに並べることで、袋の中でお菓子同士がぶつかり合うのを防げるのだという。お出かけにも向いているのは、カバンの隙間(すきま)に入れやすいから、だけではないんですね。
ところで、プチシリーズに採用される味は、どのように決まるのですか? 「お客さまの味の好みの傾向や、市場の動向を調べながら開発しています」とは広報担当者の答え。だから、多くの人に愛される味ばかりなのか。
ただ、中には「攻めた」商品も。2023年夏に期間限定で発売した「プチラムネ風味ビスケット」は、青いラムネ風味クリームを青いラムネ風味ビスケットでサンドした。青! ちょっとギョッとするが、夏祭りをイメージし、ワクワク感や季節感を取り入れたと聞けば納得できる。
カラフルでかわいいクマのキャラクター「プチクマ」も人気だ。パッケージにはそれぞれ異なるプチクマが描かれている。公式サイトでは、プチクマたちが暮らす「プチアイランド」を紹介している。優しいリーダーの「プチ」、天真らんまんでフットワークの軽い「チィ」、といった具合だ。
「地方でもお菓子工場を」
ブルボン創業のきっかけは、1923年の関東大震災だった。東京方面から地方へのお菓子供給がストップしてしまったのだ。窮状に心を痛めた創業者の吉田吉造さんが「地方でもお菓子の量産工場が必要だ」と決意し、翌24年に「北日本製菓」として柏崎市でビスケットを作り始めた。
それだけに、災害時の支援には重きを置いている。ミネラルウオーター事業に参入した際は、生産開始日だった95年1月17日に阪神大震災が起きたため、生産してストックする予定だった水を急きょ、救援物資として神戸市などに送り続けた。「災害発生時には支援を優先することが創業の原点であり、当社のDNAです」と広報担当者は話す。
今もその思いは忘れていない。阪神大震災から30年を目前にした昨年12月には、神戸学院大(神戸市)、兵庫県と連携し「しゃりもにグミ想(おも)いをつなぐシトラスミックス味」を発売した。爽やかなかんきつ系の味わい。パッケージの表面には「平凡な日々、その尊さを今感じてみませんか?」など学生が考案した8パターンのメッセージが、裏面には震災30年の県特設ホームページにつながるQRコードが、それぞれ載っている。
被災地を支援したり、自治体と災害支援協定を結んだりするほか、災害時にも利用できるお菓子や飲料、食品の開発・製造にも取り組んでいる。「災害や社会的困難が起きた時に、役に立てる企業であり続ける」とは、創業時から大切に受け継がれている思いだ。
プチシリーズの参考価格は80円(税別)。作り方や工場の設備を常にブラッシュアップし、価格の維持に努めている。プチシリーズだけでなく、「多様化するニーズを満たす価値ある製品を、お求めになりやすい価格で提供できるよう取り組んでいきたい」と夢を語る広報担当者。日常でも災害時にも、ほっとできるひとときを――やさしさに満ちた「王朝」が、そこにはあった。
社名の語源は謎のまま
「ルマンド」や「アルフォート」など人気のお菓子もたくさんある。高級感漂うお菓子が手ごろに食べられるのはありがたいですね。一方でバーガーを模したチョコレート菓子の「エブリバーガー」や、歯ごたえを残したアルデンテのかみ心地が魅力の「フェットチーネグミ」などは、何だかユーモラスで楽しい。
「ブルボン」の名称は1961年、当時専務だった3代目社長の吉田高章さんが「高級感がある洋風のお菓子や飲料、食品にマッチするように」とブランド名として考えた。89年には社名も「ブルボン」に変更した。ただ、語源は定かではないのだという。てっきり、フランスの「ブルボン王朝」が由来だと思っていました。これは革命的新事実!【水津聡子】