「トランプ」という名前のステーキハウスが東京都府中市にあり、トランプ氏の米大統領就任式の前後にキャンペーンを開催中――。
そんなうわさを聞きつけ、足を運んでみた。あのトランプ氏を意識してつけた名前なのか。店主は「トランプ推し」なのだろうか。【杉田寿子】
「トランプ」は2020年1月23日にオープンした。店主の飯森洋平さん(44)に聞くと、やはり店名の由来は、あの大統領だという。
「ありきたりの名前ではなく、みんなの心にひっかかる名前って何だろう?」
そう考えていた時に「トランプ……。トランプ大統領って、一度聞いたら忘れられないよな」と思いついた。強いヒール(悪役)の印象があるのも、ステーキにぴったりと感じた。
こだわりは「企業秘密」の塩
横浜市の人気ハンバーグ店でアルバイトをしていた16歳の時から数えて28年間、炭火で肉を焼き続けている飯森さん。サーロインステーキは注文を受けてからカットし、「企業秘密」というこだわりの塩を振り、炭火でじっくりと火を入れる。
こんがりと格子状の焼き目をつけてから、重しを置いてじっくりと火を通し、肉汁を対流させるのがポイント。ステーキ皿を覆い尽くすほど大きな肉は、ジュージューとおいしそうな音を立てていた。
ほおばると柔らかく、肉汁がじゅわーとほとばしる。オリジナルのオニオンソースも絶品だが、ガーリックパウダーとしょうゆをかけるシンプルなアレンジも、肉の味をダイレクトに感じられるのでおすすめだ。
うちがやらなくて、誰がやる
「第2次トランプ政権」を記念し、「トランプ」では通常3980円(税抜き)のサーロインステーキ400グラムを、1000円引きの2980円で提供している。
「トランプ大統領の就任式に、なにかイベントをやらないの?」と複数のお客さんや仕入れ業者から聞かれるうちに、「うちがやらなくて、誰がやるのか」と思うに至った。
一般的な飲食店の原価率は30%が目安と言われているのに対し、サーロインステーキの原価率は50%。毎日平均10食程度の注文がある。
「正直赤字ですが、お客さんが喜んでくれるなら」と当初の1月31日までの予定を延長するという。各日、「肉が無くなるまで」提供する。
トランプファンの罵倒も
しかし、強引な政治手法や過激な言動で厳しい批判を浴びてきたトランプ氏。その名を冠することにデメリットもあるのではないか。
「正直、政治にはあまり興味がない」という飯森さん。店を訪れた「本物」のトランプファンと話しているうちに、政治的な考えの違いを理由に罵倒されたこともあるという。
過去には「来店したこともない人から、口コミで悪い評価をつけられた」そうだ。その時には「追跡」して事実確認し、投稿削除を直談判した。
ただ、不動産王として成功を収めたトランプ氏をビジネスマンとして尊敬している。
「トランプさんは経営者の先輩としても、人間的にも魅力的。お店を続ける限り、僕はずっとトランプさんを背負って生きていきます」
「トランプ」の店内にはトランプ氏のフィギュアや帽子などが至る所に飾られていた。
ランチに訪れた常連客の佐藤大太(だいた)さん(59)は「店主が本当に『トランプ大好き』だと聞いて、最初は戸惑った。でも、お店の魅力はやはり店主の人柄。優しくて誠実で、トランプとは逆みたい」と笑った。
トランプ氏は大のステーキ好きとして知られる。飯森さんは「日本を訪れた際には、ぜひお店に絶品のステーキを食べに来てほしい!」と力を込めた。