火星の地表と地下氷の関係について研究してきた高知大理工学部の長谷川精(ひとし)准教授(惑星地質学)と、同大卒業生で岡山大大学院の佐古貴紀さんらのチームが、地下氷のある地点を高精度で推定することに成功した。2040年代に本格化するとみられる有人火星探査において、氷(水)は飲料や、化学反応で水素と酸素に分けて燃料としても利用できる。高確度で氷のある場所が推定できたことは、世界の火星探査計画に大きく貢献しそうだ。
40億年前の火星には地表に液体の水があったとされるが、現在は気温の低さと乾燥により地表に水はなく、もともとあった水の一部が地下数十センチから数メートルに大量の氷として存在するとみられる。将来の有人探査に向けて、太陽光発電を考慮し、火星のなるべく低緯度側で地下氷が豊富にある場所の推定が求められていた。
長谷川准教授のチームは、地球の米アラスカ州、カナダ、ロシアなどの永久凍土(2年以上通年で地温がセ氏0度以下の土壌)の地表にある「周氷河地形」と似た地形が、火星の地表にもあることに着目した。周氷河地形は、地下の水分が季節によって膨張と収縮を繰り返して亀裂ができることで生まれ、「ポリゴン地形」という多角形の地形が代表的だ。
チームは23年夏、永久凍土帯の南限域に当たるモンゴルで調査を行い、ドローンで上空からポリゴン地形を確認。掘削したところ、地下氷が地表から1・8メートル程度の深さにあることなどが判明した。研究の結果、ポリゴン地形の種類の違いによって地下氷がある深度や量が違うことも分かった。
この成果をもとに、今度は米航空宇宙局(NASA)の火星周回衛星が撮影した高解像度の地表画像4789枚を肉眼で見て、浅い地下に大量の氷があると思われる種類のポリゴン地形が、火星地表のどこにあるかを調査。その結果、3エリアに対象となるポリゴン地形が集中していることが判明した。地下氷があると有力視されていたエリアの一部では、存在する可能性は低いことが分かるなど、これまでの研究を覆す内容もあった。
研究結果は24年12月に米科学誌に掲載された。チームはこの結果をもとに、30年代に計画されている日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)による着陸探査の具体的な着陸候補地も提案している。
長谷川准教授は「これほど高精度に地下氷のある地点を絞り込めた研究は、これまでなかった。10~15年先の着陸探査を想像しながら、今後も日本を含む世界の火星探査計画に貢献できる研究を進めたい」と話している。【小林理】