俳優・作家の中江有里さんと写真家・初沢亜利さんが、東日本大震災と原発事故で被災した福島県浜通りに滞在し、エッセーや写真などの作品を通じて福島の「今」を伝えるプロジェクト「風と書の対話記」に取り組んでいる。25日に同県双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館で開かれた記者会見で、中江さんは「作品を通じて浜通りへの関心を高める橋渡しになればうれしい」と語った。
このプロジェクトは、被災地の芸術活動を支援する経済産業省の「ハマカルアートプロジェクト2024」の一環。東京大大学院・開沼博准教授の研究室を中心に、被災12市町村での滞在中に記録した写真や音、エッセーなどを通じて、被災地の人々のリアルな姿を多面的に発信することを目指す。
中江さんと初沢さんは、昨年11月ごろから浪江町を拠点に滞在し、地域住民の人々と交流を重ねてきた。
中江さんは、14年に東京電力福島第1原発などを視察しており、「当時は物々しい光景が広がっていてショックを受けた。『自分なりに何ができるのか』という思いを約10年間抱えていた」と振り返る。これまで計15日ほど浪江町で過ごし、元旦には同町請戸地区で初日の出を見たり、伝承館で語り部の話に耳を傾けたりしてきた。「原発事故で避難し、家に戻ったら動物に荒らされて悲しかったと話す住民の生々しい声を聞くこともある。一方で前に進んでいる町の変化も感じる。作品制作はこれからだが、浪江で感じた感情や熱を体に取り入れて言葉にしたい」と語った。
初沢さんは、震災から14年目を迎える今だからこそ、浜通りを撮る意味があるという。「原発事故の被害を撮影する人々は多くいたが、再生に向けて変化する町の姿を撮ろうとしている写真家は少ない」と感じるからだ。2カ月ほど浪江町で過ごし、飲み屋で出会った人々などを通じて地域のイベントに顔を出してシャッターを切ってきた。初沢さんは、「生活者の思いに近づき、大切な状況に目を向けた写真を撮っていきたい」と話す。
完成した作品は、3月に東京都内で開かれるアートイベントなどで展示する予定。開沼准教授は「地域住民との関係を深めながら、浜通りの『普通』の感覚や日常を掘り起こして作品で表現し、広く発信していきたい」と話す。【松本ゆう雅】