突然の幕切れだった。京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(46)が自ら控訴を取り下げ、死刑が確定した。控訴審の公判に向けて手続きが進んでいたが、犠牲者の遺族は「死刑が確定しても事件に終わりはない」と語った。
「遺族それぞれの思いは違うが、青葉さんが『申し訳ない』との謝罪する気持ちで取り下げたのなら、受け入れられる」。息子が亡くなったある遺族は取材に淡々と答えた。
ただ、かけがえのない命を奪われた思いは変わらず、命をもって償えるものではないとも訴える。この遺族は「裁判が終わり、刑が執行されても、息子は帰ってこない」と胸の内を語った。
京アニ社員だった大野萌さん(当時21歳)の祖父(74)は「被告の主張を思い出すと、取り下げは半信半疑で今ひとつ実感が湧かない」と語る。
毎日、仏壇に手を合わせて孫に話しかけており、取り下げの一報も報告するという。「悲しみを抱えた暮らしはこれからも変わらず続いていく。ただ、本当に極刑になるなら、心が少しは楽になる」と話した。
1審判決からちょうど1年での控訴取り下げだった。京都アニメーションの代理人弁護士は「取り下げがあったことは承知している。状況が定まらないうちは、会社としてのコメントは差し控えさせていただきます」との談話を発表した。
被告、法廷で遺族見ず
1審の法廷で被告が口にしたのは、かつて憧れを抱いた京アニに憎悪を募らせていった人生だった。
幼い頃に両親が離婚し、中学では不登校も経験したが、進んだ定時制高校時代には友人に薦められたゲームにのめり込んだ。専門学校に進むも中退。コンビニエンスストアのアルバイトも8年ほど続けたが、これも人間関係が嫌になって辞めていた。
すさんだ生活で出合ったのが京アニ制作の「涼宮ハルヒの憂鬱」だった。「こんなすごいアニメがあるんだ」と感銘を受け、小説家を志す。だが、京アニのコンクールに応募するも落選。ここから「京アニに小説を盗用された」と思い込むようになっていった。
「最悪のことを考えないといけない」と考えるようになり、「最終手段」として選んだのがガソリンを悪用した放火事件だった。
公判では「京アニなんか、なくなってしまえばいい」と恨みの感情が続いていることも明らかにする一方で、心情の変化ものぞかせた。「人の命を奪うほどなのかと悩むことが多くなった」と述べ、「あまりにも浅はかで後悔が山ほど残る」と反省を口にした。
多くの遺族や被害者が法廷で自らの心情を語った。「極刑を望みます」「許すことはできません」。それらの声には「(死刑で)償うべきだ」と応じた。
「死刑に処する」。2024年1月25日、京都地裁の法廷で裁判長が2度繰り返し、「よろしいですね」と尋ねると、無言のまま深くおじぎした被告。終始うつむきがちで、遺族らに視線を向けることもないまま、車いすを押されて法廷を後にした。【水谷怜央那、鈴木健太郎、土田暁彦】