今年に入って東京の寄席4軒の集客が好調だ。なかでも正月興行が開けた新宿・末広亭の下席夜の部(30日まで)は、玉川太福(だいふく)さん(45)が浪曲師としては60年以上なかったトリを初めて務めた。同世代の落語家らも共演し、連日、立ち見が出るほどの大入りだ。
太福さんは2007年、玉川福太郎さんに入門。その直後に師匠を不慮の事故で失ったが、一門の姉弟子や先輩浪曲師の薫陶を受け、力をつけてきた。三味線の曲師は師匠の妻、玉川みね子さんや、みね子さんの弟子、玉川鈴(りん)さんらが務める。
玉川一門のお家芸「天保水滸伝」などの古典に加え、山田洋次さんも絶賛する「男はつらいよ」シリーズ、さらに上司と部下の日常をコミカルに描いた「おかず交換」などの「地べたの二人」シリーズでは、お客さんをたっぷり笑わせてくれる。
所属する落語芸術協会(芸協)によると、芸協の寄席では、落語風にアレンジした落語浪曲を手がけた二代目広沢菊春(1964年、50歳で死去)が60年11月に川崎演芸場でトリを務めたという記録が残る。資料だけでははっきりしないが、それ以降60年以上なかったのは確かだという。
3000人以上も浪曲師がいた全盛時代から衰退期を経た浪曲。今は、人気復興を目指す過程で亡くなった太福さんの師匠・福太郎や国本武春の思いを継いだ世代が活躍の場を広げている。若手が入門し、若い世代の客が足を運んでいる。
末広亭の寄席では15分程度の出番だった。だが、トリではたっぷり三、四十分の持ち時間で落語ファン、浪曲ファンそれぞれに、じっくり聞かせ、時には笑わせる。
太福さんは「時間に追われずやれるので、初舞台のような気持ちになった。お客さんがこなかったら次はないと思っていたので、多くの方にお越しいただき、落語の寄席に初めて来た浪曲ファンもかけつけてくれて、本当にありがたい」と話す。
太福さんは2月2日昼、浅草・木馬亭の浪曲定席でトリを取るほか、夜6時からは同じ木馬亭の月例独演会に出演する。【油井雅和】