2023年1月に大阪湾で死んだマッコウクジラを紀伊水道沖に沈めるのに、大阪市が当初試算の倍以上となる8019万円で海運業者と随意契約した問題で、市の外部監察専門委員は30日、調査結果を発表した。交渉次第では処理費を最大約1404万円減額できる余地があったと指摘したほか、業者の選定過程で具体的な検討をしなかった点を不適正と認定した。
市民団体からの住民監査請求を受けた市監査委員が24年4月、金額ありきで契約交渉が進められた疑いがあるとして、横山英幸市長に再調査を勧告。市が弁護士らによる外部監察委に調査を依頼していた。
監査委員などによる事実認定では、業者側の窓口は元市職員が務め、旧知だった大阪港湾局の経営改革課長(23年当時)が担当外にもかかわらず金額交渉に関与。この課長は交渉中2回にわたり業者と会食し、局内で契約金額の増額を提案するなどしていた。業者は23年1月25日に8625万円の見積書を提出。港湾局は3月初め、市の積算基準に基づいて3774万円と試算したが、交渉が難航。経営改革課長が交渉役を申し出て、年度末の3月31日に8019万円で契約を締結した。
外部監察委はこうした監査委員の報告などを踏まえ、港湾局が他の業者でもクジラの海洋沈下に対応できるか具体的な検討をしなかった点を不適正と認定。ただ、現場の環境や時間に一定の制約があったことを考えれば、業者選定が恣意(しい)的だったとまでは断定できないとの認識を示した。
契約額の8019万円が過大だったかどうかについては、クジラの沈下後、帰港するまでの引き船作業費を割り増しし、作業後の清掃の有無を十分把握しないまま金額を確定した点などを問題として、3費目で最大約1404万円を減額できる余地があったと指摘した。
一方で、業務の緊急性や特殊性を考えれば、港湾局が業者の見積額を基に積算価格を算出した点はやむを得ないと判断。市の積算基準に該当しない業務が複数あることなどを理由に、「本来の相当な契約金額」を算定するのは難しく、市が損害を被ったと認定するのは困難だと結論づけた。
経営改革課長については、業者の意向に寄り、交渉を誘導するなど「契約締結に大きな役割を果たした」と認めた。ただ、個人的な利益を得た様子はなく、業者から求められるまま価格を定めようとしたとまでは認定できないとした。
組織トップの局長は、業者が提示した見積額を精査せず、年度末に向けて拙速に契約締結を判断したことや、経営改革課長の交渉への関与を容認した点などを問題視。仮に訴訟で市に損害が生じたと認定された場合、局長と経営改革課長らが個人として損害賠償責任を負う可能性にも言及した。
クジラの処理方法を巡っては、埋却や焼却の選択肢もあった中で、専門家から爆発の危険を指摘されたことなどを理由に「海洋沈下を選択せざるを得なかった可能性が高い」とした。ただ、松井一郎市長(当時)の「できれば海に帰してあげたい」という情緒的な発言や海洋沈下の検討を勧める大阪府側の意見に影響され、「拙速感があった」と指摘した。
外部監察委の報告を受け、記者会見した横山市長は「(局長ら個人の)損害賠償責任を問うのは難しいと考えているが、契約事務が不適正、不適切との指摘は重く受け止める」と述べ、組織のガバナンスやコンプライアンス(法令順守)の徹底に努めるとともに、関係職員への懲戒処分を検討する考えを示した。【長沼辰哉】