北海道出身のお笑いコンビ「アップダウン」が、北方領土をテーマにした漫才「ふるさと」を完成させた。四島の元住民らから依頼を受け、故郷での体験談を聞き取って制作。領土問題の歴史と元島民らの願いをコミカルかつシリアスに伝える作品で、笑いに包まれた完成披露会の会場では最後に涙を拭う観客の姿も見られた。
アップダウンは1996年、高校の同級生だった竹森巧さん(46)と阿部浩貴さん(47)で結成。「世のためになるエンターテインメント」を追求し、近年はアイヌ民族や特攻隊、原爆などをテーマにした漫才や2人芝居にも取り組んでいる。
笑いで観客を引き込みながら、重みのある歴史やメッセージを伝える――。そんな手法に定評があり、2024年3月、元島民らでつくる「千島歯舞諸島居住者連盟」が、啓発のための漫才を提案。「絶対にやるしかない」と引き受けた2人は、計3回、元島民ら男女計7人に聞き取りを行った。
完成披露会は、1日に札幌市中央区のかでる2・7で北方領土返還要求運動の後継者研修会を兼ねて開催。元島民やその子孫ら約20人が参加した。
漫才は約40分。前半は軽妙な掛け合いで始まり、北方四島の地理や関連する条約を分かりやすく、笑いを交えて解説する。
クジラ漁や競馬など島独自の生活文化も紹介し、芝居や朗読を取り入れた後半では雰囲気が一変。戦後、島に上陸したソ連軍におびえた体験や、樺太で過ごした厳しい収容生活、日本へ引き揚げる際の涙を誘う出来事など、生々しい歴史の断片を伝えている。
上演中の終盤、「我々が想定していたのとは違う証言もありました」と語り始め、「(抑留中に)ソビエト人からパンやお菓子をもらった」「こっそり軍の情報を教えてくれて、北海道に逃げられるようにしてくれた軍人もいた」といったエピソードも紹介した。
北方領土について「日本の古里だった島であり、80年たった今、ロシアの人々の古里でもある。解決の見えない、非常に難しい問題」としながら、「元島民の方たちにとって、風化して無関心になられることが一番苦しい、と知った。この漫才を見てくれた人たちが自分ごととして考えてくれることが、問題解決の第一歩になる」と締めくくった。
千島歯舞諸島居住者連盟の野潟龍彦副理事長は「漫才の域を超えている。感激した」と激賞。元島民3世の立崎直樹さん(49)は「無関心が怖いという気持ちを分かりやすく表現してくれた。特にクライマックスの芝居の部分にはうるっときた」と話した。
漫才「ふるさと」は、この日の参加者の感想を踏まえて改良し、戦後80年にあたる今年、道内外での上演を目指すという。【伊藤遥】