日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告(70)の役員報酬を有価証券報告書に過少に記載したとして、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)に問われた日産元代表取締役、グレッグ・ケリー被告(68)の控訴審判決で、東京高裁は4日、懲役6月、執行猶予3年とした1審・東京地裁判決(2022年3月)を支持し、被告側、検察側双方の控訴を棄却した。
1審判決は起訴内容の一部を有罪と認定し、大半を無罪としていた。全面無罪を訴えるケリー元代表取締役側と全面有罪を主張する検察側がともに控訴していた。
ケリー元代表取締役はゴーン前会長と共謀し、10~17年度分の有価証券報告書に役員報酬計約91億円を記載しなかったとして起訴された。
1審の公判では、司法取引に応じ、不起訴処分となった日産の元秘書室長が、ゴーン前会長の指示で「報酬隠し」を実行し、ケリー元代表取締役も関与したと証言。検察側はこの証言を根拠にケリー元代表取締役に懲役2年を求刑した。
これに対し1審判決は、司法取引で得た証言は慎重に信用性を検討すべきだと指摘し、元秘書室長の証言の多くを否定した。ゴーン前会長が約91億円の虚偽記載をしたことは認定しつつ、ケリー元代表取締役が共謀したのは裏付け証拠がある17年度分の約17億円のみだったとしていた。
控訴審で検察側は「(元秘書室長の)記憶に曖昧な点はあるが、証言は一貫しており信用できる」と無罪部分の破棄を求め、弁護側は「証言は変遷しており、信用できない」と改めて全面無罪を訴えていた。
ゴーン前会長は保釈中だった19年12月にレバノンに逃亡した。東京地検は20年1月に入管法違反容疑で前会長の逮捕状を取ったが、国際手配された前会長の公判が開かれるめどは立っていない。
ケリー元代表取締役は1審判決後に米国に帰国し、高裁での審理には出廷しなかった。【巽賢司】