所得税・社会保険料の負担額などを左右する基準として知られる「年収の壁」。昨年12月にまとめられた税制改正案により、その一つである「103万円の壁」が2025年度から緩和される方針が打ち出された。この「103万円の壁」は、学業の傍らアルバイトをする学生にも大きな影響を与えてきた。学生は「年収の壁」にどう対応し、改正の動きをどう受け止めているのか聞いてみた。【法政大・園田恭佳(キャンパる編集部)】
「キャンパる」編集部が実施したアンケートには、大学生・短大生・専門学校生の計73人が回答した。
まず「年収の壁」を知っているか尋ねたところ、9割近い65人が「はい」と答えた。「はい」と回答した人に、その存在をいつ認識したか尋ねてみると、話題となった昨年の衆議院選挙がきっかけと答えたのが3人、それ以前から知っていたのは62人だった。
次に、「年収の壁」を知る65人にアルバイトの経験について尋ねたところ、64人が「ある」と回答。稼いだお金の使い道(複数回答可)は、「娯楽費」(62人)が最多で、「社会経験を積むため」(41人)、「貯金」(26人)が続いた。また、「生活費」(20人)、「学費」(5人)という回答も見られた。
目立つ「年収103万円」超え回避の動き
「年収103万円」を超えると、学生本人に所得税の負担が生じるだけでなく、扶養する親の税負担も重くなる。アルバイト経験のある64人にこれまで年収103万円を超えたことがあるか尋ねると、超えたことがある人は12人、ない人は52人だった。
103万円を超えたことがある12人に親と話し合いをしていたか聞くと、9人が「はい」と回答。103万円超えを繰り返さないような対策(複数回答可)については、「(アルバイトに入る)シフトを減らし収入を調整している」という人が8人と最も多かった。
また、103万円を超えたことがない52人に超えないよう何か対策をしているか複数回答可で尋ねると、同様に「シフトを減らしている」という人が24人、「時給が低い仕事を選んでいる」が2人だった。一方、「特に対策はしていない」という人も28人と半数を超えた。
シフト調整で生じるしわ寄せ
年収103万円を超えないようにアルバイトの稼ぎを調整することで、学生は実際どんな困りごとに直面するのか。記述式で尋ねたところ、「塾講師をしているが、シフトに入れず他の先生に授業を代わってもらった」という声や、「繁忙期なのにシフトにあまり入れず社員に迷惑をかけてしまった」という声など、仲間や勤め先に迷惑をかけたことを挙げる人が多かった。「私立理系に通っているが、アルバイトだけでは学費がまかなえず、あやうく退学処分を受けるところだった」という切実な声も寄せられた。
また「年末にシフト調整をしたせいで、冬休みに使えるお金が減った」「税金や保険料について家族と相談するのが大変だった」「働きたい仕事を諦めた」という回答もあった。
「123万円で妥当」は少数派
25年度からは、学生本人の税負担が生じる基準は123万円に、親の税負担が増える基準額は150万円にそれぞれ引き上げられる。こうした「年収の壁」見直しについて、壁の存在を知る65人に意見を聞くと、「賛成」が48人、「反対」が6人、「分からない」が11人と、賛成が7割を超える結果となった。
賛成の理由としては、「学費や生活費を補うのに103万では不十分。大学生の目線だと、学費1年分を超す金額が妥当」「最低賃金や物価の上昇を考慮すれば、年収の壁も引き上げるべきだ」「働く時間が増加すれば、雇用不足の解消に貢献できるため」という声が聞かれた。
引き上げが不十分だという指摘も多かった。特に学生本人の負担が生じる「123万円」については「妥当」だと答えたのは9人のみ。国民民主党が主張する「178万円まで引き上げるべきだ」という人、「150万円が妥当だ」という人はともに24人いた。
「年収の壁」の引き上げでバイト収入を増やせるとしたら、何に使いたいのか。複数回答可で尋ねると、「娯楽費」が57人で、「貯金」が40人、「生活費」が29人という結果になった。また留学やボランティアなどの課外活動や、投資に使用したいという回答もあった。