2024年11月の兵庫県知事選を巡り、再選した斎藤元彦知事側から選挙運動の対価として報酬を受け取った疑いがあるとして、兵庫県警と神戸地検は7日、公職選挙法違反の疑いでPR会社などを家宅捜索した。捜査関係者への取材で明らかになった。金銭授受の経緯について捜査を進め、立件の可否を慎重に判断するとみられる。
PR会社は兵庫県西宮市の「merchu(メルチュ)」。女性社長は投開票後の11月20日、斎藤氏の広報全般を任されたとインターネット上に投稿。SNS(ネット交流サービス)の運営について「私が監修者」と述べていた。
公選法では、選挙運動者への金銭や物品の提供(買収)に加え、それらを受け取ること(被買収)を禁じている。大学教授らが斎藤氏を買収、社長を被買収の容疑で刑事告発していた。
告発状では、社長がネット上の選挙運動を含む広報全般の企画・立案を進め、斎藤氏の当選に向けた「選挙運動者」だったと主張。その報酬として斎藤氏側が選挙期間中の11月4日、会社に71万5000円を支払ったとしている。
捜査関係者によると、県警と地検は告発を受理。捜査に乗り出したところ、メルチュ側の強制捜査が必要と判断し、7日に会社など複数の関係先を家宅捜索した。押収した電子データを詳しく分析するなどし、金銭の趣旨などを調べていく方針だ。
斎藤氏側はこれまで、会社に支払った金銭はポスターやチラシなどの製作費で、公選法で認められた正当な支出だと説明。捜査当局の要請を受け、関連資料を提出しているという。
斎藤氏は7日午後、報道陣に「公選法に違反しているという認識はない。捜査には協力したい」と述べた。社長は取材に応じていない。【柴山雄太、木山友里亜】
識者、PR会社社長の投稿に着目
今後の捜査では、斎藤氏側からの支払いが選挙運動の対価に当たるといえるかが焦点となる。
甲南大の園田寿名誉教授(刑事法)はメルチュ社長の投稿内容に着目。斎藤氏とメルチュ側が選挙前に打ち合わせをしていたことが明らかになっているとし、「捜査当局はこの打ち合わせの具体的な内容のほか、前後のメールのやりとりなどから、実態解明を進めるとみられる」と話す。
斎藤氏側はポスター製作などの適法な支出だとしているが、園田氏は「選挙運動にメルチュ側が関わるとする前提があったうえで仕事を発注しているのであれば、違法になる可能性がある」との見方を示した。発注時点での双方の認識がポイントだとする。
一方で、斎藤氏は選挙戦でのSNSの発信について、メルチュ社長はボランティアの一員だったとの認識を示している。園田氏は「社長が主体的にSNS運用など広報全般に関わっていたのであれば、選挙運動者と認定されることもある。その線引きを捜査当局は慎重に見極めるだろう」と語った。【山本康介】