2017年の大ヒット作「カメラを止めるな!」の再来かと話題になった、自主製作の時代劇映画「侍タイムスリッパー」(さむタイ、安田淳一監督)の快進撃が止まらない。
24年8月にインディーズ映画の聖地とされる「池袋シネマ・ロサ」(東京都豊島区)で単館上映が始まって以来、大手シネコンや地方の映画館にも広がり、これまでに延べ380館で上映された。24年公開の作品を対象とする「第48回日本アカデミー賞」では、作品賞など7部門で優秀賞に。
今月4日には、安田監督や俳優の田村ツトムさん、庄野崎謙さん、タレントの水道橋博士さんらが登壇するイベントが「浅草フランス座演芸場東洋館」(台東区)で開かれ、会場はさむタイを愛するファン155人の熱気に包まれた。
イベントで最優秀賞の「予行演習」も
日本アカデミー賞の最優秀賞は、3月の授賞式で発表される。4日のイベントでは、さむタイが最優秀賞に選ばれたとの想定で、授賞式の「予行演習」も行った。
作品を7回見たという来場者の三瓶(みかめ)秀夫さん(58)は「最初は映画の内容に衝撃を受けました。僕は57歳の監督とほぼ同い年だが、よく製作に踏み切れたなと。監督のように、全財産をつぎ込むような冒険はできない」と語った。
同じく来場者の佐々木広恵さん(57)も、12回見ている熱狂的ファンだ。
「1回目は予備知識ゼロで、『こんなにいい映画、なぜ宣伝していないの? もったいない』と驚きました。翌日、会社の同僚数人に紹介すると『とても面白かった』と好評だった。自分の手柄ではないけれど、作品が褒められて鼻が高いです」
繰り返し見る理由については、「見るたびに新しい発見がある。泣けなくなったら見るのをやめようと思っているけれど、毎回感動するシーンが違う」と話す。
安田監督によると、作品の興行収入は現在約9億円に達しており、今後さらに増える見込みだ。ロングラン上映は喜ばしいことだが、興行収入は上映終了後に支払われるという。
佐々木さんは「早くこの映画が終わって、監督にギャラが入ってくれたらいいのだけれど」としつつ、「映画館で見られなくなるのは悲しい」と複雑そうだった。
映画関係者、ファンに育ててもらった
さむタイは、映画関係者からも高い評価を得ている。
大手シネコンの公式サイトのトップページには作品を紹介するバナーが一定期間掲示されていたといい、安田監督が関係者にその理由を問うと「この作品がヒットしなければ、日本の映画界はだめになってしまう」との言葉が返ってきたという。
安田監督は「作品を愛してくださっている映画関係者やファンの方々に育ててもらいました。言葉では言い尽くせないほど感謝しています」と話していた。【杉田寿子】