DV(家庭内暴力)被害者支援に取り組む徳島市の一般社団法人「白鳥の森」が、男性DV被害者を支援する人材を養成する講座を4月から始める。男性被害者が自身の経験を生かし、同じように苦しむ男性をサポートすることを目指す。2024年7月に男性被害者の自助グループ「希望の船」を設立した同法人が、さらなる支援体制の充実を図る。1日に同市であった希望の船の会合には、東京や長野など全国から被害男性やその家族ら約20人が集まり、つらい体験を語り合った。【川原聖史】
「避妊をしない性行為を強要されたこともある」。交際中の女性から時間的な拘束やデートDVを受けていた20代後半の男性は、声を震わせながら打ち明けた。一方、関東地方の60代の女性は、妻から精神的な嫌がらせなどのモラルハラスメントを受けているという30代の長男に代わって参加。「息子を助けるために何ができるのか。希望の船で学ぼうと考え徳島に来た」と話した。長男は「男はへこたれてはいけない」というプライドがあり、我慢しているという。女性は「男性DV被害者の自助グループが全国に増えてほしい」と訴えた。
白鳥の森は23年度、徳島県の事業の一環で男性DV被害者20人へのアンケートを実施。菜箸で刺される▽自分の連れ子を虐待する▽収入を全て没収される――といった身体的、精神的、経済的DV被害の実態が示された。
同法人代表理事の野口登志子さんは、男性被害者同士で語り合う自助グループの必要性を実感。これまでに相談を受けた人たちに自助グループの発足を提案したところ、全員が「ぜひやりたい」と賛同してくれたという。希望の船は、24年度の同県の事業の一環で県から補助金を受けて設立し、これまでに計4回の会合を開いた。
遠方からの参加者も多い。野口さんは「全国的に男性DV被害者支援の受け皿が少ない」と現状を語る。各自治体のDV被害者支援センターでは「男性=加害者」と考える相談員も多く、追い詰められた男性被害者が相談に行っても支援につながらなかったケースもあるという。
「男性は女性よりも強くなくてはならない」という社会の偏見は根強い。野口さんは「男性自身が、女性からDVを受けていると自覚していないケースも多い」と指摘する。また、自治体などが開設している男性対象のDV相談窓口は週1回などと頻度が少なく、時間も限定されていることが多い。野口さんは「被害者支援に男女差別があってはいけない」と警鐘を鳴らす。
実情をきちんと理解できる人材を養成しようと、4月からは男性支援者養成講座「希望の架け橋」を開催する方針だ。これまで白鳥の森が関わった相談者から「自分の被害体験を生かし、苦しんでいる人の力になりたい」という申し出もあったという。講座はリモート受講も可能で、全3回を予定。10人前後を同法人のホームページで募集する。講師は、同法人に関わっているDV問題に詳しい濱野滝衣弁護士らが務め、被害者支援に必要な法律やスキルを学ぶという。
警察庁によると、23年の配偶者からのDV被害相談件数のうち男性からは2万4684件で、全体の27・9%を占めた。前年よりも約2000件多くなっており、男性からの相談件数は年々増加傾向にある。
「希望の船」「希望の架け橋」への問い合わせは白鳥の森ホームページ(http://swanforest.or.jp)。