寒さが続き、献血者数が落ち込みがちな2月。頼みの綱となるはずの若い世代の献血者数は、ここ20年間で半分以下に減っている。背景を探ると、少子化だけではない要因があるという。そんな中、若者に関心を持ってもらおうと、東京都赤十字血液センターがとった秘策は3種のステッカー。そのアイデアを練った背景を取材した。
社会的意義をさりげなく宣伝
東京都赤十字血液センターが作製したステッカーは、今月28日まで展開している16~39歳向けの普及キャンペーン「誰かを救うのは、あなただ。」用の限定グッズ。優しいタッチのイラストで、風船や花束などのモチーフをあしらい、血液や善意、社会的意義などを表現している。透明のスマートフォンケースなどにはさみ、さりげなく自分が献血をしていることをアピールできる。都内の献血ルームで該当年齢の献血者に配布している。
「献血しようと行動してくださること自体が尊いことですし、たとえ個人の事情で献血ができなくても、献血の大切さを広めてくださることは、社会貢献だと考えました」とキャンペーン企画担当の三宅伽南(かなみ)さん(26)。若者がスマホケースをステッカーなどで自分好みに装飾するデコレーション文化に着目し、キャンペーン限定グッズとして3種類5000枚を用意した。「ステッカーを通じて、若い人たちが献血を日常会話での話題にしてくれたらうれしい」と期待を語る。
減った学校献血 根強い抵抗感
提供された血液は、輸血用の血液製剤や、がんなどの病気の治療に使われる医薬品の製造に用いられる。輸血用の血液製剤は長期保存できず、日本赤十字社が全国の献血ルームや献血バスなどで、国内の血液事業を担っている。16歳から69歳まで献血をすることができ、近年は毎年500万人前後が献血をしている。
ところが全国的にも30代以下の献血者数は減少傾向にあり、厚生労働省のデータでは2003年度は約340万人だったのが、23年度は約160万人で、20年でほぼ半減している。
その背景としては、少子化に加えて大学や高校での学校献血が減少し、体験の機会がないことで「痛そう」「怖い」といったイメージを拭い去ることが難しくなっている可能性があるという。
身近なボランティアとして
東京都内には、血液センターのほか常設の献血ルームが13カ所ある。そのうち、「献血ルーム池袋ぶらっと」は近隣に大学や高校が多く、献血者の半数近くを30代以下が占める。訪れてみると、ラフなトレーナー姿の女子高生(16)の姿があった。都内の高校1年生で、今回が「初献血」だ。「駅の近くでよく献血バスを見かけたので関心を持っていました。1人でもできる身近なボランティアとして、誰かの役に立てるならうれしい」と話す。やはり、周囲に献血の環境があることが大きな要因になるようだ。
その後、献血ルームに訪れた助産師の白石葵さん(26)に話を聞くと、医療職を目指していた高校生時代に献血を始め、今回が15回目という。「普段はお産の現場で血液を使う立場です。感謝の気持ちで献血しています」と話した。
早いうちの経験が将来への布石に
血液センターによると、現在、輸血が必要な患者の約85%は50歳以上だが、献血者の約60%は50歳未満。現在の中高年世代がやがて献血可能な年齢の上限を超え、若者の献血離れが進んでいくと、将来、医療現場における血液の安定的な供給に支障が出る恐れがあるという。
そのためには若いうちの献血経験が重要視されている。「過去に献血の経験があると、その後も足を運んでくださる方が多い印象があります。若い人に関心を持ってもらうことが将来への布石になります」と三宅さんは話す。
別の日、池袋駅前では「命を救う献血にご協力ください」というはつらつとした声が響いていた。見ると、献血バスが待機し、ボランティアの学生数人が通行人に呼び掛けている。そのうち大学2年の小林遼平さん(21)は、16歳で始めてこれまでに計54回、献血したという。「輸血を受けて元気になった患者さんから感謝の声を聞くこともあって、誰かの役に立っていることが実感できます。旅行先でご当地の献血ルームを訪ねる『献血旅行』も楽しいですよ」と話していた。【山崎明子】