九州南部や南西諸島に分布するソテツ。奄美地方では、その実を食用とするなど古くから親しまれていますが、そのソテツにいま、壊滅的な被害が広がっています。
ソテツは、国内では九州南部から南西諸島に分布する裸子植物です。年間を通して緑の葉をたたえる姿に南国情緒を感じる人もいるかもしれません。
主に観賞用として世界中で育てられていますが、デンプンが多く含まれていることから奄美地方では食糧難の時代に、食べられてきた歴史があります。
およそ50年前、ソテツの実=奄美の方言でナリを収穫し、粥を作っている様子です。ナリには毒があるため実を砕いた後にしっかりと水にさらす必要があります。
ナリを食べる文化は、今でも残っています。
(記者)「地元食材を扱うこちらのお店では、ソテツの実、ナリを使った味噌が売られています」
(味の郷かさり 吉田茂子代表)「昔からナリ味噌をつくっている。辛くなく食べやすい味につくっている、人気商品でなかなかここに並ぶのが少ない」
奄美市の和田昭穂さん(92)です。30年ほど前から、ナリの粉を麺に練りこんだナリうどんをお店で提供しています。
(ナリうどんをつくる 和田昭穂さん・92)「古い食文化、これを何とか守っていきたいと思って。同年配で食べたのがいる、たくさんいる。そのころはそれしかなかったから」
かつて食糧難を救ったソテツ。奄美の文化と密接に関わってきた植物に、およそ2年前から異変が起きています。
和田さんの店のまわりでは、1年におよそ2トンのナリを収穫することができました。しかし、すべてのソテツの葉が茶色や白く変色し枯れてしまっています。
原因は外来種の害虫ソテツシロカイガラムシ。2年前、奄美大島で国内で初めて確認されました。寄生した葉を取り除き薬をまく必要がありますが繁殖力が高く被害は拡大しています。
92歳の和田さんもソテツがこんな状態になるのを見るのは初めてだと話します。
(和田昭穂さん)「200年か300年かソテツは生えてるが、ないですよ今まで、こんなに全滅するということは。これはすごいわ」
龍郷町の安木屋場集落にはソテツの群生地があり、観光名所の一つとなっていましたが、一面茶色に染まっています。
県によりますと、奄美大島の道路や公園などではおととしの初確認以降およそ7000本の被害が出ているということです。最初の被害が確認された奄美市は、「およそ8割のソテツが被害を受けている」とみています。
市は、今年2月、市内に109ある自治会や町内会に薬剤を無料で配りましたが、収束は見通せません。
(奄美市農林水産課 積山幸裕課長補佐)「防除をしてもなかなか効果が薄いということは、葉っぱだけではなくて幹の中まで虫が入り込んでいるので、薬剤をまいてもそこまで浸透していないのではないかと。なかなか防除の難しいところ」
県は新たな薬剤の使用も含め、より効果的な防除の研究に取り組んでいるということですが、このままのペースで被害が拡大すれば、奄美大島からソテツがなくなってしまうかもしれません。