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アニメ「鬼滅の刃」でも使われた毛筆書体 亡き父の字を後世に…フォントに込められた「昭和」への思い 鹿児島

MBC南日本放送 2025年1月8日 19時16分

今年は、昭和100年にあたる節目の年です。MBCでは「昭和からのメッセージ」と題し、かつての映像とともに昭和をひも解き、今を生きる私たちへのヒントを探ります。

今回は、アニメ「鬼滅の刃」でも使われた毛筆書体のフォント。文字に込められた昭和への思いです。

鹿児島県さつま町に本社がある昭和書体です。社員は4人で、10センチ四方の枠に手描きした字をスキャンして読み込んでデータ化し、誰でも使えるフォントとして販売しています。

これまでに手がけたフォントは92商品、64万字以上に上ります。

(昭和書体 坂口茂樹会長)「手書きの文字は表情がある。力の入り具合、勢い、はね、かすれが全部違う。文字が生きている、生命がある字に」

フォントを生み出してきたのは、会長・坂口茂樹さんの父・綱紀栄泉さんです。人気アニメ・鬼滅の刃や、ドラマ、食品包装など、さまざまな場面で使われてきました。

もともとは看板店を経営していた栄泉さん。開業したのは昭和35年=1960年です。そのころ、日本は高度経済成長期の真っ只中。東京オリンピックの聖火リレーに鹿児島も沸きました。

まちは活気にあふれ、テレビ、洗濯機、冷蔵庫が「三種の神器」として家庭に普及。70年代にかけて、団地の開発や交通網の整備も進みます。

暮らしが便利になり、デザインや看板制作にコンピューターが導入され、手描きの業者が次第に廃業。そうした中、「栄泉さんの筆文字を後世へ残したい」と、茂樹さんが始めたのがフォント事業です。

(綱紀栄泉さん)「生きている間は、元気な間は書こうと。私から筆を取れば何も残らない」

フォント事業を始めたのは、平成18年=2006年でしたが、屋号に選んだのは「昭和書体」でした。

(昭和書体 坂口茂樹会長)「昭和はすごく中身が濃い。戦争もあった。日本が変わったのも昭和。昭和の発展はものすごかった。平成の時代に昭和を引っ張って、この時代も昭和に近いイメージ、勢いがないといけないだろう」

「平成」の時代に「昭和」を掲げて、64の書体を書き上げた栄泉さんは、3年前の令和4年、腎臓の病気で亡くなりました。

(昭和書体 坂口茂樹会長)「親父の場合は文字を書いているのではなくて、文字という絵を描く。見た時にかっこいいようにって。「毛筆書体だけは書き手がいなくなっても、いなくなったら、なおのこと必要とされるのではないか」

宮崎県延岡市に栄泉さんの思いを継ぐ書家がいます。西村一華さん、57歳です。

書家として制作活動を続けながら、週5日、幼稚園児から大人までが通う書道教室を開いています。

(生徒)「とても元気、おちゃめ」
(生徒)「教えるときに、ぐんっていって、ぴょんってやるんだよとか、擬音が多くておもしろい」

デジタルの世界でも毛筆の温かさを伝えたいと、7000字のフォント制作に挑戦しました。1年2か月かけて、去年8月、「華龍書体」が完成。現在、第2弾に取りかかっています。

(書家・西村一華さん)「試行錯誤しながら、この中にどんな風に入れたらいいのかなって。(栄泉さんを)映像でしか見ていないが、書く時の姿勢や目、雰囲気が、本当に(書くことが)好きなのが伝わるし、文字に対しての敬意や愛情のようなものを感じる。たくさんの種類を書かれたことは、本当に素晴らしいことだと思う」

フォント事業を始めて20年目となる昭和書体。今、力を入れるのは、海外への発信です。英単語を選ぶと、その意味を持つ日本語に変換したフォントが出てくる商品を作りました。

「さつま町から世界へ」。毛筆の奥深さを伝え、書家の技術を残そうと挑戦は続きます。

(昭和書体 坂口茂樹会長)「あの時代を生きた人が今を作っている。あの人、昭和だよねって言うのは古い意味ではなく、懐かしいとか気持ちいいとかプラスな話でマイナスな言葉ではない。懐かしいふるさとみたいな昭和を、令和の昭和を作っていきたい、残していきたい」

昭和の息づかいを一字一字に込めて。時代に合わせた形で伝え続けます。

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