私たちのスマートフォンやカーナビの位置情報の精度を高める日本版GPS衛星を搭載したH3ロケット5号機があさって2月2日、打ち上げられます。準備が進む種子島宇宙センターから中継です。
ロケットは私の後方の組み立て棟の中にあって、あさって2日の打ち上げに向けた準備が着々と進められています。
H3・5号機に搭載されているのは、スマートフォンやカーナビで使う位置情報の精度を高めるための日本版GPS衛星「みちびき6号」です。
国は「みちびき」を来年度までに今回を含め3機を打ち上げて7機体制とし、日本の衛星だけで安定した位置情報を提供できるようにする計画です。
みちびき6号を載せた日本の新たな主力ロケット「H3」。従来のH2Aロケットは、1基ずつの受注生産でしたが、新たなH3は、大量生産する自動車工場のように、生産を自動化してコストを抑えた「ライン生産」に変わりつつあります。
製造現場を取材しました。
世界で勝ち抜くために…
衛星の打ち上げ受注ビジネスにおいて日本が世界で勝ち抜くためにJAXAや三菱重工などが開発したH3ロケット。H3が目指すのは「低コスト化」です。
H2Aのロケットの打ち上げ成功率は98%と世界最高水準ですが、海外勢に比べコストが3割ほど高いことがネックでした。このため、H3は、従来の半分のおよそ50億円に抑えることを目指しています。
コストダウンの鍵は、機体をつくる愛知県の工場にありました。国家プロジェクトだけに機密事項の多い工場内部。
ロケットの組み立てに欠かせない、留め具の「鋲」です。これまでは人の手で打ち込んでいましたが、H3ではロボットが担います。
髪の毛の10分の1の大きさ、数ミクロン単位のずれも許されないロケット製造。必要な位置に穴をあけ、直径や深さを計測したうえで、鋲を打ち込みます。
ロケットの1段目と2段目をつなぐ接続部分に使われる鋲だけでも、2万3000以上。鋲を受け渡すロボットと、鋲を打つロボットが2台1組となり鋲を打ち込みます。
自動化によって作業にかかる人員は半分以下になりました。
ロボットだけでなく…
ロケット製造にはロボットだけでなく、3次元の立体物をつくる「3Dプリンタ技術」も導入。
およそ500もの部品を人の手で組み合わせて作っていたエンジンの噴射器は、3Dプリンタによって一体的に作り出すことが可能に。部品の数も3分の1に減りました。
また、ロケット全体の電子部品のおよそ9割に自動車用などの部品を使うことで、コストカットにつなげています。
従来の1基ずつの受注生産から、「ライン生産」に転換することで、受注から打ち上げまでの期間を2年から1年に短縮。
年間の打ち上げ回数はH2Aの2倍以上となる6回を目指しています。
”機械に頼れない工程”
自動化が進むロケット製造の現場ですが、機械に頼れない工程もあります。
(藤本美里さん)「スリーブと配管をくっつける作業をしている」
燃料を燃焼させたときに発生するガスが通る配管の溶接です。細い配管を通るガスの流れが一定になるように見えない管の内側も均一に溶接する必要があります。
この作業を担うのが、鹿児島市出身の藤本美里さん(26)です。
工業用の内視鏡で確認しながら指先から伝わる感覚を頼りに溶接をしていきます。勘と経験が必要なだけに、機械には頼れません。
(藤本美里さん)「中々自分の思うようなものができないところが楽しい」
藤本さんは、鹿児島工業高校で溶接を学び、2017年に三菱重工に入社しました。初めての女性技術者として、エンジンに使われる部品の溶接を担当しています
(藤本美里さん)「幼いころからものづくりに興味があった、鉄砲のおもちゃを分解してまた組み立てる遊びをよくしていた」
技術者の思い
初号機で失敗を経験し、去年打ち上げに初成功したH3。
ロケット製造に欠かせない溶接を担う藤本さんは、先輩の背中を追いながら機械には出来ない技術に磨きをかけています。
(木村幸治作業長)「先輩からの技術を盗もうという気持ちが伝わってくるので、そういうところは素晴らしい」
(藤本美里さん)「男性だけがやる仕事ではないと思うので、自分が第一人者ととしてできるのはうれしい。自分が好きなことや目標に向かって誰でも出来ると伝えたい」
自動化が進むロケット製造ですが、こうした技術者の技や思いも込められていました。H3ロケット5号機は、あさって2月2日午後5時半に打ち上げ予定です。
MBCでは打ち上げの様子をライブ配信でお伝えします。