計算は苦手、どう頑張っても駄目。これって、きっと生まれつきなんだ。そう思って諦めているあなた、降参するのはまだ早い。
イギリスで行われたある実験で、被験者の脳に微弱な電気ショックを与えたら暗算や記憶の能力に改善が見られたという。しかも、結構その効果は持続するらしい。
アメリカ科学振興協会(AAAS)のニュースサイトであるユーレクアラートによると、英オックスフォード大学の研究者ロイ・コーエン・カドシュは「わずか5日間の認知力訓練と無痛かつ非侵襲的(人体に傷をつけない)な脳刺激により、認知に関わる脳機能の持続的な改善をもたらすことに成功した」という(論文の初出は学術誌カレント・バイオロジー)。
実験に参加した被験者25人のうち、半数の13人には脳に無作為な電気的な刺激を与え、掛け算や引き算などの単純な問題を解かせた。一般に、5人に1人はこうした暗算に困難を感じているとされる。
その結果、電気的な刺激を受けた被験者のほうが、受けなかった被験者より明らかに正答率が高かったという。「計算の成績も機械的な丸暗記の成績も、わずか5日間で向上していた。しかも計算力の改善効果は実験の6カ月後まで維持されていた」。カドシュはBBCの取材にそう答えている。
彼はまた、神経画像診断検査の結果、脳の刺激を受けた部分は、他の部分に比べて酸素の消費も栄養分の消費も活発になっていたと話している。
6カ月後、カドシュは実験に参加した被験者13人に再び集まってもらい、同様なテストを受けさせた。すると、6カ月前に脳への刺激を受けた6人は、計算力のテストで対照群の被験者よりも平均して28%速く正しい答えを出せたという。小規模な実験ではあるが、電気的な刺激の効果が長く持続することの証しといえるかもしれない。
リハビリにも効果的?
もちろん、映画『カッコーの巣の上で』の主人公が精神科病院で受けさせられたような恐怖の電気ショック療法ではない。今回の実験で使った電気的刺激は非常に微弱なものだ。
この「経頭蓋ランダムノイズ刺激」と呼ばれる方法は刺激があまりにも微弱なため、「被験者が『ちゃんとスイッチ入ってますか?』と聞くほどだった」と、カドシュはネイチャー誌に語っている。
とはいえ、このような電極刺激装置が近い将来に教育現場に導入されることはないだろう。この技術はまだ新しく、さらなる研究が必要だからだ。
米テレビ局CBSの番組に出演した認知神経科学者のダニエル・アンサリは「実に興味深い発見だ」とコメントしつつ、カドシュの用いた訓練法は「すぐれて独創的なもので、計算の技能習得に使われる在来の方法とは似ても似つかない」ものだと説明していた。
学習障害のある人や、脳卒中などによる神経障害に苦しむ人にとっては、機能回復が期待できる朗報と言えるかもしれない。そして、絶望的な数学恐怖症の学生たちにとっても。
カドシュはネイチャー誌にこう語っている。
「自分は算数が苦手で、それは一生変わらないと信じ込んでいる人もいるようだ。けれど、(今回のささやかな実験結果が正しければ)そう悲観したものでもなさそうだ」
[2013.6.25号掲載]
ファイン・グリーンウッド
イギリスで行われたある実験で、被験者の脳に微弱な電気ショックを与えたら暗算や記憶の能力に改善が見られたという。しかも、結構その効果は持続するらしい。
アメリカ科学振興協会(AAAS)のニュースサイトであるユーレクアラートによると、英オックスフォード大学の研究者ロイ・コーエン・カドシュは「わずか5日間の認知力訓練と無痛かつ非侵襲的(人体に傷をつけない)な脳刺激により、認知に関わる脳機能の持続的な改善をもたらすことに成功した」という(論文の初出は学術誌カレント・バイオロジー)。
実験に参加した被験者25人のうち、半数の13人には脳に無作為な電気的な刺激を与え、掛け算や引き算などの単純な問題を解かせた。一般に、5人に1人はこうした暗算に困難を感じているとされる。
その結果、電気的な刺激を受けた被験者のほうが、受けなかった被験者より明らかに正答率が高かったという。「計算の成績も機械的な丸暗記の成績も、わずか5日間で向上していた。しかも計算力の改善効果は実験の6カ月後まで維持されていた」。カドシュはBBCの取材にそう答えている。
彼はまた、神経画像診断検査の結果、脳の刺激を受けた部分は、他の部分に比べて酸素の消費も栄養分の消費も活発になっていたと話している。
6カ月後、カドシュは実験に参加した被験者13人に再び集まってもらい、同様なテストを受けさせた。すると、6カ月前に脳への刺激を受けた6人は、計算力のテストで対照群の被験者よりも平均して28%速く正しい答えを出せたという。小規模な実験ではあるが、電気的な刺激の効果が長く持続することの証しといえるかもしれない。
リハビリにも効果的?
もちろん、映画『カッコーの巣の上で』の主人公が精神科病院で受けさせられたような恐怖の電気ショック療法ではない。今回の実験で使った電気的刺激は非常に微弱なものだ。
この「経頭蓋ランダムノイズ刺激」と呼ばれる方法は刺激があまりにも微弱なため、「被験者が『ちゃんとスイッチ入ってますか?』と聞くほどだった」と、カドシュはネイチャー誌に語っている。
とはいえ、このような電極刺激装置が近い将来に教育現場に導入されることはないだろう。この技術はまだ新しく、さらなる研究が必要だからだ。
米テレビ局CBSの番組に出演した認知神経科学者のダニエル・アンサリは「実に興味深い発見だ」とコメントしつつ、カドシュの用いた訓練法は「すぐれて独創的なもので、計算の技能習得に使われる在来の方法とは似ても似つかない」ものだと説明していた。
学習障害のある人や、脳卒中などによる神経障害に苦しむ人にとっては、機能回復が期待できる朗報と言えるかもしれない。そして、絶望的な数学恐怖症の学生たちにとっても。
カドシュはネイチャー誌にこう語っている。
「自分は算数が苦手で、それは一生変わらないと信じ込んでいる人もいるようだ。けれど、(今回のささやかな実験結果が正しければ)そう悲観したものでもなさそうだ」
[2013.6.25号掲載]
ファイン・グリーンウッド