政府の規制改革会議は、労働者派遣法で原則禁止されている30日以内の「日雇い派遣」を見直す意見書を出し、厚生労働省に労働者派遣制度の規制緩和を求めた。これは小さな話のようにみえるが、民主党政権で一貫して強化されてきた雇用規制を緩和する方向に転換する、大きな一歩である。
派遣労働についての政府の方針は、二転三転してきた。2000年代初頭の信用不安にともなう不況の中で、雇用の受け皿として非正社員が活用されるようになり、それまで専門職を中心としていた派遣労働が製造業などにも広がり、26業種になった。日本が「リーマンショック」以降の世界的な不況の中でも、4%前後の低い失業率ですんだのは、こうした雇用形態の多様化の効果が大きい。
ところが2008年末に行なわれた「年越し派遣村」をきっかけにして、派遣労働を敵視する風潮が広がり、あたかも派遣=非正社員であるかのような錯覚にもとづいて、民主党や社民党などが規制強化を主張した。これに押されて、短期派遣や製造業派遣を禁止すべきだという声が強まり、2011年に労働者派遣法が改正されて日雇い派遣が禁止された。これによって労働者の待遇は改善されたのだろうか?
(図)非正社員の構成比(出所:人材派遣協会)
上の図でもわかるように、派遣は非正社員1800万人のうち90万人、5%程度にすぎない。これは最大だった2008年より規制強化で55万人減ったが、その代わりパート・アルバイトが107万人増えた。派遣労働者には、次の仕事を派遣会社が紹介してくれるが、アルバイトには何の保護もない。つまり派遣労働の規制は、それより不安定なパート・アルバイトを増やしただけなのだ。
この結果は最初から予想されたことで、ほとんどの経済学者が規制強化に反対した。にもかかわらず、労働政策審議会の労働者派遣に関する研究会は、派遣労働者の職種を26種に制限していた規制を廃止し、どんな仕事でも企業が無期限に派遣労働者を雇えるようにする一方、今後はすべての派遣労働者を3年で交替させなければならないという改正案の最終報告をまとめた。
これは企業にとっては便利だが、派遣労働者の雇用は不安定になる。労働基準法では3年を超える有期雇用契約が認められないので、今までは無期限に働くことのできたSE・翻訳・放送など26業種の専門職も3年でクビになるのだ。こういう愚かな規制強化が繰り返される一つの原因は、上の「研究会」の委員7人のうち4人が労働法学者で、経済学者が1人しかいないという片寄った構成にある。
法学者は「国民は法に従うものだ」と考え、立法する側の意図の通りに国民が動くと考える傾向がある。これは交通ルールなどでは正しいが、市場経済は法律では動かないのだ。たとえば「すべての企業は生産を倍増しなければならない」という法律をつくったら、GDP(国内総生産)は2倍になるだろうか。
市場は需要と供給で動くので、供給をいくらコントロールしても、需要はコントロールできない。これが社会主義の失敗した理由である。労働市場も同じだ。労働供給の規制を強化して「正社員を増やせ」といえば正社員が増えると思っている労働法学者は、社会主義と同じ錯覚に陥っているのだ。
供給側の労働者をいくら規制しても、需要側の企業は雇用コスト(賃金や待遇)を上げたくないので、派遣労働を規制したら(もっとコストの高い)正社員が増えるのではなく、もっとコストの低いアルバイトが増えるだけだ。上の図のように、規制を強化するほど非正社員は増え続け、労働者全体の38%を超えた。
規制改革会議の提案しているように、派遣規制は撤廃すべきだ。こういう議論に対して「派遣業者のピンハネがけしからん」という話がよく出てくるが、それは派遣労働の市場が小さく、競争がないからだ。派遣会社が増えて競争が激しくなれば、労働者はピンハネする会社には登録しなくなるだろう。労働者をだますような悪質業者は取り締まればいいことで、警察の仕事である。
雇用が多様化する中で、パートやアルバイトのようにまったく雇用保証のない労働者の比重が増えることは好ましくない。雇用がなくなったら次の職場を紹介し、労働者が専門性を生かして働き続ける派遣会社は、労働者のセーフティネットになっているのだ。派遣労働の規制は撤廃し、多様な雇用形態の中から労働者が選べばよい。「正社員」以外の雇用形態を敵視する労働行政も、これを機に転換すべきだ。
派遣労働についての政府の方針は、二転三転してきた。2000年代初頭の信用不安にともなう不況の中で、雇用の受け皿として非正社員が活用されるようになり、それまで専門職を中心としていた派遣労働が製造業などにも広がり、26業種になった。日本が「リーマンショック」以降の世界的な不況の中でも、4%前後の低い失業率ですんだのは、こうした雇用形態の多様化の効果が大きい。
ところが2008年末に行なわれた「年越し派遣村」をきっかけにして、派遣労働を敵視する風潮が広がり、あたかも派遣=非正社員であるかのような錯覚にもとづいて、民主党や社民党などが規制強化を主張した。これに押されて、短期派遣や製造業派遣を禁止すべきだという声が強まり、2011年に労働者派遣法が改正されて日雇い派遣が禁止された。これによって労働者の待遇は改善されたのだろうか?
(図)非正社員の構成比(出所:人材派遣協会)
上の図でもわかるように、派遣は非正社員1800万人のうち90万人、5%程度にすぎない。これは最大だった2008年より規制強化で55万人減ったが、その代わりパート・アルバイトが107万人増えた。派遣労働者には、次の仕事を派遣会社が紹介してくれるが、アルバイトには何の保護もない。つまり派遣労働の規制は、それより不安定なパート・アルバイトを増やしただけなのだ。
この結果は最初から予想されたことで、ほとんどの経済学者が規制強化に反対した。にもかかわらず、労働政策審議会の労働者派遣に関する研究会は、派遣労働者の職種を26種に制限していた規制を廃止し、どんな仕事でも企業が無期限に派遣労働者を雇えるようにする一方、今後はすべての派遣労働者を3年で交替させなければならないという改正案の最終報告をまとめた。
これは企業にとっては便利だが、派遣労働者の雇用は不安定になる。労働基準法では3年を超える有期雇用契約が認められないので、今までは無期限に働くことのできたSE・翻訳・放送など26業種の専門職も3年でクビになるのだ。こういう愚かな規制強化が繰り返される一つの原因は、上の「研究会」の委員7人のうち4人が労働法学者で、経済学者が1人しかいないという片寄った構成にある。
法学者は「国民は法に従うものだ」と考え、立法する側の意図の通りに国民が動くと考える傾向がある。これは交通ルールなどでは正しいが、市場経済は法律では動かないのだ。たとえば「すべての企業は生産を倍増しなければならない」という法律をつくったら、GDP(国内総生産)は2倍になるだろうか。
市場は需要と供給で動くので、供給をいくらコントロールしても、需要はコントロールできない。これが社会主義の失敗した理由である。労働市場も同じだ。労働供給の規制を強化して「正社員を増やせ」といえば正社員が増えると思っている労働法学者は、社会主義と同じ錯覚に陥っているのだ。
供給側の労働者をいくら規制しても、需要側の企業は雇用コスト(賃金や待遇)を上げたくないので、派遣労働を規制したら(もっとコストの高い)正社員が増えるのではなく、もっとコストの低いアルバイトが増えるだけだ。上の図のように、規制を強化するほど非正社員は増え続け、労働者全体の38%を超えた。
規制改革会議の提案しているように、派遣規制は撤廃すべきだ。こういう議論に対して「派遣業者のピンハネがけしからん」という話がよく出てくるが、それは派遣労働の市場が小さく、競争がないからだ。派遣会社が増えて競争が激しくなれば、労働者はピンハネする会社には登録しなくなるだろう。労働者をだますような悪質業者は取り締まればいいことで、警察の仕事である。
雇用が多様化する中で、パートやアルバイトのようにまったく雇用保証のない労働者の比重が増えることは好ましくない。雇用がなくなったら次の職場を紹介し、労働者が専門性を生かして働き続ける派遣会社は、労働者のセーフティネットになっているのだ。派遣労働の規制は撤廃し、多様な雇用形態の中から労働者が選べばよい。「正社員」以外の雇用形態を敵視する労働行政も、これを機に転換すべきだ。