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「夢のエネルギー」核融合は実現目前?

ニューズウィーク日本版 2013年11月22日 12時53分

 どこにでもある水に含まれる水素からエネルギーを取り出す「核融合発電」は、世界各地の研究者たちが長年追い求めてきた夢の技術だ。世界のエネルギー市場、ひいては経済に大きな影響を及ぼすはずのこの技術の開発に、かなり近いところまで来ていると専門家は言う。

 水素燃料を詰め込んだごく小さなカプセルに超強力なレーザーを照射し、超高温で原子核と電子がバラバラに飛び交う「プラズマ」を発生させる。こうして太陽など恒星の中心で起きているのと同じような状態──つまり、核融合を引き起こし、膨大なエネルギーを取り出そうというわけだ。うまくいけば1トン前後の水でサンフランシスコくらいの都市が1年間に消費する電力を生み出せるという。

 米ローレンス・リバモア国立研究所(カリフォルニア州)の国立点火施設(NIF)では、プラスチックまたは高密度炭素で作られた直径2ミリほどの燃料ペレット(燃料球)が入った小さな容器(鉛筆に付いた消しゴムくらいのサイズだ)に、192本のレーザーを照射している。

 ペレットの内側には、燃料となる重水素と三重水素(トリチウム)の層がある。どちらも水素の同位体で、重水素は中性子を1つ持っていて、水に多く含まれている。三重水素は中性子を2つ持っており、土壌や海水に含まれるリチウムから生成される。

 燃料ペレットを照射するレーザー光線は50マイクロメートル以内の精度でなければならないが、これは容易なことではない。NIFの研究者に言わせれば、サンフランシスコからロサンゼルスのドジャー・スタジアムに向けて野球のボールを投げ、ストライクを取るようなものだ。

 問題はそれだけではない。レーザーに狙い撃たれたペレットはあっという間に超高温になり、プラズマが発生する。そんな状態で中身の均質さや元の形を維持するのは非常に難しい。発生する圧力にばらつきがあれば、ペレットは平たくなったり細長くなったりしてしまう。

 ペレットの外殻の厚みにはどうしても不均等な部分ができるため、レーザー照射を受けた際にそこから壊れてしまうこともある。そうするとカプセルの素材が核融合反応に干渉する恐れがある。「小さな氷が熱いコーヒーの中に飛び込むようなものだ」とNIFのエドワード・モーゼス所長は言う。

 NIFではこの問題を、1回当たりのレーザー照射の時間を調節して乗り越えることにした。おかげでペレットが壊れることはほとんどなくなったという。



「点火」まではあと一歩

 モーゼスによれば、史上最大級の科学の進歩はすぐそこだ。「この数週間で、(ペレットに照射する)エネルギー量は1年前の4倍に達した。『点火』まではあと一歩だ」

 研究者たちが目指しているのは核融合反応が連続して起き、投入したものよりも大きなエネルギーが発生する「点火」と呼ばれる段階だ。点火に至るためには、レーザーを今よりも20〜25%高速化する必要があるとモーゼスは考えている。

 いったん点火にたどり着けば、エネルギーを電力に換えるのはそう難しくないだろうとモーゼスは言う。核融合で発生した中性子は、周囲を覆うリチウムの層に飛び込む。するとリチウムの温度が上昇するので、この熱で水を蒸気にしてタービンを回せば電気の出来上がりだ。

 ここまでくれば、これまでの発電とそう変わりはない。「公害とは無縁で、燃料として少しの水を使うだけで済むという点が違うだけだ」と、モーゼスは言う。

[2013.11.19号掲載]
ロクサンヌ・パーマー

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