在日米軍および軍人・軍属に関する法的地位を定めた「日米地位協定」に関しては、米兵が刑事事件を起こした場合の日本側への引き渡しに制限がある点が問題になっています。ですが、この問題に関しては、取り調べプロセスの可視化、特に弁護人の同席が認められていない日本の刑事司法制度に自国民を引き渡すことへの米軍組織としての強い抵抗感があり、日本側の制度改革がなければ交渉自体が困難というのが実情です。
取り調べプロセスの可視化の問題は刑事司法の根幹に関わる問題ですから、地位協定問題を理由に「外圧に屈した」格好で制度改正を行うというのは、国家の独立性を揺るがせてしまいます。そう考えると、この可視化問題については日本の司法改革の一環として進むのを待つしかないわけです。この点から改定論議を進めるというのは現時点では非現実的です。
ですが、現在、沖縄県の仲井眞知事が提起しているのは別の問題です。今回の改定論議は、「環境条項」を新設するというのが中心で、返還が予定される米軍基地の敷地に関して、返還前のタイミングでの環境調査(アセスメント)や浄化措置(クリーンアップ)を行うためのルール作りをしようというものです。
この問題ですが、同じ改定論議と言っても、犯罪容疑者の引き渡しに関わる議論とは性質が違います。アメリカの国務省は「協定改定の必要性は認めない。当面は運用で対応する」と言っていますが、これは「とりあえずのリアクション」であって、いずれは真剣な外交交渉へと進むのではないかと思われます。
まず、この改定論議が直接的に意味するのは「普天間基地の返還」です。本当に普天間を返還するのであれば、基地跡地の環境浄化は必須です。ですが、その浄化にかかるコストを全て日本側が負担するというのは、沖縄の世論としても、日本全体の世論としても納得感は薄いと思われます。また、返還の準備作業の一環として、事前に日本側が調査をするというのも必要な措置です。
こうした問題は、米国務省の言うような「運用で対応」というレベルを超えていると思います。地位協定に「環境条項」を入れて、双方がキチンとした合意に基づいて作業と費用の分担を行うということは何としても必要であると思います。
アメリカ側から見ていますと、基地返還後の環境汚染問題ということでは、プエルトリコのビエケス島にあった海軍射撃場のケースが思い起こされます。ビエケス島というのは、プエルトリコ本島の東10キロちょっとの沖合にある島ですが、長い間、米海軍が様々な種類の砲弾を着弾させる射撃場として使用していました。
1990年代になって各種の砲弾の爆発による環境汚染が問題となると、抗議活動がだんだんとエスカレートしていきました。重金属類から弱い放射性物質など、色々と毒性のある物質がこの島を汚染していたのです。抗議活動は、最初はプエルトリコ人だけの運動だったのですが、1999年頃からはアメリカ本土からも環境活動家たちが参加して大きな運動になっていったのです。
有名なエピソードとしては、2001年の4月に、以前から環境運動家として活動していたロバート・ケネディ・ジュニア氏(故ロバート・ケネディ司法長官の息子、JFKの甥)がビエケス島に乗り込んで「砲弾の飛び交う射撃訓練の近くでキャンプをする」という実力行使に出たという「事件」があります。
ケネディ氏は逮捕されてしまいます。これに対しては、ニューヨークの元知事であるマリオ・クオモ氏(現知事のアンドリュー・クオモ氏、CNNキャスターのクリス・クオモ氏の父親)が弁護士として奔走したのですが、ケネディ氏は収監されてしまいました。ちなみに、アンドリュー・クオモ現ニューヨーク州知事は、その逮捕されたロバート・ケネディ・ジュニアの娘と結婚していたのです(その後、離婚)。
結果的にブッシュ政権は、「反テロ戦争」遂行に向けて国内の分裂を避けるため、おそらくはヒスパニック票の支持を失いたくないという計算からか、2003年になって、このビエケス島の射撃場を閉鎖するという判断に追い込まれました。プエルトリコと環境運動の側としては勝利した格好となったのです。
このロバート・ケネディ・ジュニアという人は、現駐日大使のキャロライン・ケネディ氏の「いとこ」に当たります。この2人、2008年の大統領選でキャロライン氏はおじのエドワード・ケネディ上院議員と一緒にオバマを支持した一方、ロバート氏の方はヒラリー・クリントンを支持し、対応が分かれました。
またキャロライン氏自身は、元「いとこの娘婿」であったアンドリュー・クオモ現ニューヨーク州知事との間で、2008年にヒラリーが「上院議員から国務長官への転出」したときには、「ニューヨーク州選出の上院議員」の座を争ったこともあります。
そんなわけで、離婚やら対立やらのファミリードラマが絡まる中での1つの重要な事件として、「ケネディ家とビエケス島」の問題というのは大きなつながりがあるのです。ですが、いくら大統領選で支持候補が異なったとか、議員のイスを争ったというエピソードがあったにしても、キャロライン・ケネディという人は、ニューヨークのリベラルな政界の中にいたわけです。ということは、政治的にはこの「ビエケス島問題」に関しては、環境保護側の視点で関わっていたのは間違いないと思います。
勿論、この問題は日米中の3カ国の外交と安全保障も絡みますし、普天間返還ということは辺野古の問題、あるいは垂直離着陸機のオスプレイ増備といった問題とも「セット」になっているのは事実です。そうした複雑な背景に関しては、もしかしたらケネディ大使は目下のところは「学習中」なのかもしれません。
ですが、とりあえず普天間の返還を前提にして、新たに「環境条項」を設ける地位協定の改定という形で日米合意に持っていくのは、大変に意味のあることだと思います。こうしたタイミングで、「ビエケス島の射撃場を閉鎖に追い込んだ」政治的経緯に関わるケネディ家のキャロライン・ケネディ氏が駐日大使であることも、何かの縁なのだと思います。
取り調べプロセスの可視化の問題は刑事司法の根幹に関わる問題ですから、地位協定問題を理由に「外圧に屈した」格好で制度改正を行うというのは、国家の独立性を揺るがせてしまいます。そう考えると、この可視化問題については日本の司法改革の一環として進むのを待つしかないわけです。この点から改定論議を進めるというのは現時点では非現実的です。
ですが、現在、沖縄県の仲井眞知事が提起しているのは別の問題です。今回の改定論議は、「環境条項」を新設するというのが中心で、返還が予定される米軍基地の敷地に関して、返還前のタイミングでの環境調査(アセスメント)や浄化措置(クリーンアップ)を行うためのルール作りをしようというものです。
この問題ですが、同じ改定論議と言っても、犯罪容疑者の引き渡しに関わる議論とは性質が違います。アメリカの国務省は「協定改定の必要性は認めない。当面は運用で対応する」と言っていますが、これは「とりあえずのリアクション」であって、いずれは真剣な外交交渉へと進むのではないかと思われます。
まず、この改定論議が直接的に意味するのは「普天間基地の返還」です。本当に普天間を返還するのであれば、基地跡地の環境浄化は必須です。ですが、その浄化にかかるコストを全て日本側が負担するというのは、沖縄の世論としても、日本全体の世論としても納得感は薄いと思われます。また、返還の準備作業の一環として、事前に日本側が調査をするというのも必要な措置です。
こうした問題は、米国務省の言うような「運用で対応」というレベルを超えていると思います。地位協定に「環境条項」を入れて、双方がキチンとした合意に基づいて作業と費用の分担を行うということは何としても必要であると思います。
アメリカ側から見ていますと、基地返還後の環境汚染問題ということでは、プエルトリコのビエケス島にあった海軍射撃場のケースが思い起こされます。ビエケス島というのは、プエルトリコ本島の東10キロちょっとの沖合にある島ですが、長い間、米海軍が様々な種類の砲弾を着弾させる射撃場として使用していました。
1990年代になって各種の砲弾の爆発による環境汚染が問題となると、抗議活動がだんだんとエスカレートしていきました。重金属類から弱い放射性物質など、色々と毒性のある物質がこの島を汚染していたのです。抗議活動は、最初はプエルトリコ人だけの運動だったのですが、1999年頃からはアメリカ本土からも環境活動家たちが参加して大きな運動になっていったのです。
有名なエピソードとしては、2001年の4月に、以前から環境運動家として活動していたロバート・ケネディ・ジュニア氏(故ロバート・ケネディ司法長官の息子、JFKの甥)がビエケス島に乗り込んで「砲弾の飛び交う射撃訓練の近くでキャンプをする」という実力行使に出たという「事件」があります。
ケネディ氏は逮捕されてしまいます。これに対しては、ニューヨークの元知事であるマリオ・クオモ氏(現知事のアンドリュー・クオモ氏、CNNキャスターのクリス・クオモ氏の父親)が弁護士として奔走したのですが、ケネディ氏は収監されてしまいました。ちなみに、アンドリュー・クオモ現ニューヨーク州知事は、その逮捕されたロバート・ケネディ・ジュニアの娘と結婚していたのです(その後、離婚)。
結果的にブッシュ政権は、「反テロ戦争」遂行に向けて国内の分裂を避けるため、おそらくはヒスパニック票の支持を失いたくないという計算からか、2003年になって、このビエケス島の射撃場を閉鎖するという判断に追い込まれました。プエルトリコと環境運動の側としては勝利した格好となったのです。
このロバート・ケネディ・ジュニアという人は、現駐日大使のキャロライン・ケネディ氏の「いとこ」に当たります。この2人、2008年の大統領選でキャロライン氏はおじのエドワード・ケネディ上院議員と一緒にオバマを支持した一方、ロバート氏の方はヒラリー・クリントンを支持し、対応が分かれました。
またキャロライン氏自身は、元「いとこの娘婿」であったアンドリュー・クオモ現ニューヨーク州知事との間で、2008年にヒラリーが「上院議員から国務長官への転出」したときには、「ニューヨーク州選出の上院議員」の座を争ったこともあります。
そんなわけで、離婚やら対立やらのファミリードラマが絡まる中での1つの重要な事件として、「ケネディ家とビエケス島」の問題というのは大きなつながりがあるのです。ですが、いくら大統領選で支持候補が異なったとか、議員のイスを争ったというエピソードがあったにしても、キャロライン・ケネディという人は、ニューヨークのリベラルな政界の中にいたわけです。ということは、政治的にはこの「ビエケス島問題」に関しては、環境保護側の視点で関わっていたのは間違いないと思います。
勿論、この問題は日米中の3カ国の外交と安全保障も絡みますし、普天間返還ということは辺野古の問題、あるいは垂直離着陸機のオスプレイ増備といった問題とも「セット」になっているのは事実です。そうした複雑な背景に関しては、もしかしたらケネディ大使は目下のところは「学習中」なのかもしれません。
ですが、とりあえず普天間の返還を前提にして、新たに「環境条項」を設ける地位協定の改定という形で日米合意に持っていくのは、大変に意味のあることだと思います。こうしたタイミングで、「ビエケス島の射撃場を閉鎖に追い込んだ」政治的経緯に関わるケネディ家のキャロライン・ケネディ氏が駐日大使であることも、何かの縁なのだと思います。