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安倍首相の「歳末の靖国参拝」が対立軸を固定化する不毛 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2013年12月26日 12時17分

 報道によれば、東京電力が提案していた、柏崎刈羽原発の再稼働を含む再建計画は25日の原賠機構の合意を受けて27日に政府に提出され、来年1月には認定される見通しだということです。ということは、原発再稼働問題に関しては、事実上、安倍政権としては同意していると見るべきでしょう。

 その安倍首相は、同じく25日に沖縄県の仲井眞知事と会談しています。沖縄県としては、在沖米軍の普天間基地を返還して移設するための辺野古沖に関する埋め立てを承認する見通しとなったと報じられています。

 これで懸案だった原発再稼働、辺野古沖埋め立て問題が「前進」する可能性が濃厚となりました。前回の特定秘密保護法と同じように、国論が二分する中で、その溝を埋める努力が見られないまま「決定」が進められています。私は個人的には、柏崎刈羽の再稼働と辺野古沖の埋め立てには反対ではありません。ですが、世論との対話のないままでの進め方には強い疑問を持っています。

 これだけでも強引さとしては十分だと思っていたところに、26日(木)の午前中には安倍首相が靖国神社に参拝するというニュースが飛び込んできました。これは安倍首相の個人的な政治信条ということもありますが、いわゆる保守系の世論に配慮して、政権の求心力を維持するためという解説ができると思います。

 ですが、こうした政治手法には私は反対です。「原発再稼働、辺野古埋め立て、靖国参拝」というのが対立軸の一方であるという「セット定食」にはどうしようもなく不毛なものを感じるからです。

 まず原発再稼働というのは、無制限に化石燃料に依存する中で貿易赤字を累積している現状から脱却して日本経済が破綻するのを回避する立場からは、真剣に検討が必要な問題です。ですが、これと靖国参拝がセットになる必然性はありません。むしろ経済合理性の立場からは、お互いが得をしないナンセンスなレベルに入っている日中、日韓関係について2014年は改善が模索されるべきだからです。

 原発再稼働をすれば、金融危機や国家財政の破綻は遠のくでしょう。ですが、そうした余裕ができたからと言って、アジアの経済安定のために必要な日中や日韓の関係改善を放棄しても良いというはずはないからです。



 一方で、辺野古の埋め立ては、米軍の側に「危険な普天間の使用は早く止めたい」という既定方針があり、同時に「抑止力維持のためには日米合意である辺野古移転を進めて欲しい」という要求があるわけです。これに対しては、普天間返還後の環境問題を「追加の協定で」合意するという方向での沖縄県/安倍政権/米国務省の合意も見えてきたわけです。

 一方で、このように日米関係が動き出している中で、しかもキャロライン・ケネディ駐日大使が着任して「自分は広島には行ったことがあるが、長崎はない」ということから、わざわざ長崎に赴いて平和祈念像に献花をしているなど、日米が「打算ではなく精神的にも緊密な同盟」であるような配慮を強めているわけです。

 その延長上には、来年春のオバマ大統領のアジア歴訪ということがあり、そこで「ひょっとしたら」現職大統領の広島・長崎での献花外交ということも見えて来るかもしれない、私はそんな期待も抱いていました。ですが、今回の靖国参拝で、それも難しくなるように思います。

 安倍首相は否定するかもしれませんが、首相の靖国参拝を歓迎する勢力の中にはサンフランシスコ講和の前提であった極東軍事裁判の正当性に挑戦する思想があるわけで、これは当事者であるアメリカの現在の史観に対する挑戦でもあるわけです。ケネディ大使という人は、クラシックな民主党支持者にとって伝説であるJFKの長女ですから、そのケネディ大使自身がこうした安倍首相の行動を歓迎することは政治的に不可能です。

 いずれにしても、ここ数日の安倍政権の行動は「政治的な信任、政治的な資産」を一気に使いきってでも懸案を片付けてしまおうという焦りのようなものを感じます。もしかしたら、消費税率アップ後の景気の冷え込みを今から恐れているのかもしれません。そうなったら政権を投げ出す覚悟で、今のうちに何でもやっておこう、そんな「駆け込み的」あるいは「先のことは知らない」というようなニュアンスも感じられます。

 もう一つ考えられる「解説」としては、辺野古沖埋め立て問題にしても、原発再稼働にしても、いわゆる「左からの批判」だけでなく「右派からの対米従属批判」や「右派の自然観からの反原発」などもあるわけで、それを「靖国参拝」で封じなくてはならなかったというストーリーです。

 仮にそうだとしても、日本がそのように「面倒くさい国」だということになれば、アメリカとしては少なくともビジネスの話だけは合理的にどんどん進めることができる中国との関係を優先する、長期的にはそんなことにもなりかねないわけで、それも日本の利益になる話ではありません。

 いずれにしても、年明けの日本をめぐる政治経済の情勢は波乱含みになってきました。都知事選の人間ドラマを面白がっている場合ではないと思います。

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