自民党の総裁特別補佐である萩生田光一衆院議員は、同党の青年局会議の場で、オバマ政権が安倍首相の靖国神社参拝に「失望」を示したことについて「共和党政権のときはこんな揚げ足をとったことはなかった。民主党のオバマ政権だから言っている」と述べたそうです。
このような「民主党は反日」であり、「共和党は親日」という認識は、確かに戦後の日本の政官界には強くありました。また、それなりの理由はあったのです。例えば、民主党は何と言っても第二次大戦を遂行した政党です。FDR(ルーズベルト)にしても、トルーマンにしても戦前の日本にとっては「敵」であり、また彼等の手によってなされた一連の「戦後改革」についても、その「逆コース」に乗って右派的政権を作っていった自民党の多くの人々にとっては反発の対象であったのだと思います。
これに対して、共和党というのは「日本の保守の直接の敵」ではなかったとも言えます。例えばアイゼンハワー大統領は、日本への原爆投下に批判的であったようですし、もっと世代的には若いですが、90年代から2000年代に右派論客として鳴らしたパット・ブキャナンは「先の大戦で日本を敵に回す必要はなかった」という「史観」を披瀝していました。そういえば、第二次大戦中の日系人の強制収容に関して公式謝罪と補償を行ったのも共和党のレーガン政権でした。
また、アメリカの民主党の言う「人権や理念」が日本の保守派の持っている「生存のための現実主義」からは「鬱陶しく」思われるという「相性の悪さ」があったり、逆に共和党が党是としていた自由貿易主義が、「貿易立国時代」の日本には有利な政策と思われていたりというような条件もありました。
ですが、そうした構図の多くは過去のものとなり、現在の国際政治における「共和党と民主党」の対立軸に関しては、複雑な変化と「ねじれ」の中にあるのです。
例えば、日本の文化について「クールジャパン」であるとして、高い関心を示す動きは現在でもアメリカでは根強く続いています。こうした異文化への関心、特にキリスト教的な善悪二元論とは「異なる価値観」に興味と尊敬を示すというのは、アメリカの場合は民主党カルチャーです。JFKが上杉鷹山の思想に私淑していたとか、そのお嬢さんのキャロライン・ケネディ大使が『方丈記』に象徴される日本の世界観に深く共感しているというような例は、決して例外的な事象とは言えません。
特に現在のオバマ政権の姿勢というのは、基本的に明確な親日政権であり、多くの問題に関して「これ以上望みようのない」そして「ブレのない」姿勢で、軍事外交に関しても、二国間の文化や社会的な交流にしても日本を重視していると言って過言ではないと思います。
中国に関する民主党と共和党の立ち位置も大きく変化しています。例えば、2001年から08年に至る共和党のジョージ・W・ブッシュ政権というのは、米ソ冷戦終結後の世界において接近を続けた米中関係を一気に密接な関係にしていった、顕著な親中政権であるという評価が可能です。台頭する中国マネーに米国債の引受をさせる一方で、ウイグル族への弾圧は「イスラム原理主義勢力のテロ活動との対決」だという中国側の「詭弁」を受け入れています。特に江沢民の引退にあたっては、ブッシュはテキサスの私邸に招いて懇談するなど、最大限の接遇もしています。
一方で、オバマ政権は中国の不透明な軍事的拡張に対して明確な懸念を表明し、更にはエスカレーションの目立つ南シナ海での中国海軍の活動に対して「航行の自由」を主張する、その延長上で東シナ海における中国艦艇の活動にも、日本との連携で抑止力行使の立場を明確にしているわけです。
更に世界全体を俯瞰したアメリカの軍事戦略という面で考えると、共和党の政策としては、イラク、アフガンなどの中東から中央アジアにおける影響力維持を依然として再重点課題にしているわけです。その一方で、オバマ政権は明確にアジアの戦略的な重要性を認識するという新しい方針にシフトしているわけで、この点から考えると、日米関係を緊密化して中国の台頭に対するバランスを確保するという政策を強く推進しているのはオバマ政権であって、共和党ではないという指摘が可能です。
萩生田氏としては、2001年の小泉純一郎首相(当時)が現職総理として靖国神社に参拝した際にはブッシュ政権は「文句を言わなかった」一方で、今回のオバマ政権は「文句を言った」ことが気に入らないのかもしれません。
ですが、2001年当時には米中には現在のような緊張はなかったのです。海南島事件に決着を見た後は、米中は接近の過程にあったからです。ですから、日米同盟を緊密にして中国に対して「スキを見せないようにしよう」などと思い詰める必要はありませんでした。日中関係についても、その後の「政冷経熱」という言葉が象徴するように、全体としては現在よりもずっと良好でした。そうした環境の中で、ブッシュ政権としては小泉首相の「戦没者への慰霊」という言い方にあえて反発する必要はなかったのです。
安倍首相が参拝した13年末という時点では、情勢は一変しています。日中関係は非常に悪く、日韓関係までもが自由陣営の仲間とは思えないような悪化を見せています。そのような中で、安倍首相の行動が、アジアにおける日中韓の関係を「無用なまでに悪化させ」ると同時に、「中国がまるで第二次大戦での戦勝国の正義をタダで横取り」するような口実すら与えてしまったわけです。
アメリカの駐日大使館、ならびに国務省の「失望」という発言は、そうした状況の変化の中で出てきたものであって、民主党政権だからというのは誤解も甚だしいと思います。
もっと言えば、現在の共和党の新世代は「オバマのやっている反中国政策」には冷ややかです。仮に、2016年にヒラリーなどの民主党が負けて、ティーパーティー系などの共和党の新世代がホワイトハウスを掌握するようになれば、「衰退する日本」は徐々に切り捨てて、「無駄に中国を敵視することで生じるコスト」を削減にかかる可能性が相当にあると見ておかねばなりません。
このような「民主党は反日」であり、「共和党は親日」という認識は、確かに戦後の日本の政官界には強くありました。また、それなりの理由はあったのです。例えば、民主党は何と言っても第二次大戦を遂行した政党です。FDR(ルーズベルト)にしても、トルーマンにしても戦前の日本にとっては「敵」であり、また彼等の手によってなされた一連の「戦後改革」についても、その「逆コース」に乗って右派的政権を作っていった自民党の多くの人々にとっては反発の対象であったのだと思います。
これに対して、共和党というのは「日本の保守の直接の敵」ではなかったとも言えます。例えばアイゼンハワー大統領は、日本への原爆投下に批判的であったようですし、もっと世代的には若いですが、90年代から2000年代に右派論客として鳴らしたパット・ブキャナンは「先の大戦で日本を敵に回す必要はなかった」という「史観」を披瀝していました。そういえば、第二次大戦中の日系人の強制収容に関して公式謝罪と補償を行ったのも共和党のレーガン政権でした。
また、アメリカの民主党の言う「人権や理念」が日本の保守派の持っている「生存のための現実主義」からは「鬱陶しく」思われるという「相性の悪さ」があったり、逆に共和党が党是としていた自由貿易主義が、「貿易立国時代」の日本には有利な政策と思われていたりというような条件もありました。
ですが、そうした構図の多くは過去のものとなり、現在の国際政治における「共和党と民主党」の対立軸に関しては、複雑な変化と「ねじれ」の中にあるのです。
例えば、日本の文化について「クールジャパン」であるとして、高い関心を示す動きは現在でもアメリカでは根強く続いています。こうした異文化への関心、特にキリスト教的な善悪二元論とは「異なる価値観」に興味と尊敬を示すというのは、アメリカの場合は民主党カルチャーです。JFKが上杉鷹山の思想に私淑していたとか、そのお嬢さんのキャロライン・ケネディ大使が『方丈記』に象徴される日本の世界観に深く共感しているというような例は、決して例外的な事象とは言えません。
特に現在のオバマ政権の姿勢というのは、基本的に明確な親日政権であり、多くの問題に関して「これ以上望みようのない」そして「ブレのない」姿勢で、軍事外交に関しても、二国間の文化や社会的な交流にしても日本を重視していると言って過言ではないと思います。
中国に関する民主党と共和党の立ち位置も大きく変化しています。例えば、2001年から08年に至る共和党のジョージ・W・ブッシュ政権というのは、米ソ冷戦終結後の世界において接近を続けた米中関係を一気に密接な関係にしていった、顕著な親中政権であるという評価が可能です。台頭する中国マネーに米国債の引受をさせる一方で、ウイグル族への弾圧は「イスラム原理主義勢力のテロ活動との対決」だという中国側の「詭弁」を受け入れています。特に江沢民の引退にあたっては、ブッシュはテキサスの私邸に招いて懇談するなど、最大限の接遇もしています。
一方で、オバマ政権は中国の不透明な軍事的拡張に対して明確な懸念を表明し、更にはエスカレーションの目立つ南シナ海での中国海軍の活動に対して「航行の自由」を主張する、その延長上で東シナ海における中国艦艇の活動にも、日本との連携で抑止力行使の立場を明確にしているわけです。
更に世界全体を俯瞰したアメリカの軍事戦略という面で考えると、共和党の政策としては、イラク、アフガンなどの中東から中央アジアにおける影響力維持を依然として再重点課題にしているわけです。その一方で、オバマ政権は明確にアジアの戦略的な重要性を認識するという新しい方針にシフトしているわけで、この点から考えると、日米関係を緊密化して中国の台頭に対するバランスを確保するという政策を強く推進しているのはオバマ政権であって、共和党ではないという指摘が可能です。
萩生田氏としては、2001年の小泉純一郎首相(当時)が現職総理として靖国神社に参拝した際にはブッシュ政権は「文句を言わなかった」一方で、今回のオバマ政権は「文句を言った」ことが気に入らないのかもしれません。
ですが、2001年当時には米中には現在のような緊張はなかったのです。海南島事件に決着を見た後は、米中は接近の過程にあったからです。ですから、日米同盟を緊密にして中国に対して「スキを見せないようにしよう」などと思い詰める必要はありませんでした。日中関係についても、その後の「政冷経熱」という言葉が象徴するように、全体としては現在よりもずっと良好でした。そうした環境の中で、ブッシュ政権としては小泉首相の「戦没者への慰霊」という言い方にあえて反発する必要はなかったのです。
安倍首相が参拝した13年末という時点では、情勢は一変しています。日中関係は非常に悪く、日韓関係までもが自由陣営の仲間とは思えないような悪化を見せています。そのような中で、安倍首相の行動が、アジアにおける日中韓の関係を「無用なまでに悪化させ」ると同時に、「中国がまるで第二次大戦での戦勝国の正義をタダで横取り」するような口実すら与えてしまったわけです。
アメリカの駐日大使館、ならびに国務省の「失望」という発言は、そうした状況の変化の中で出てきたものであって、民主党政権だからというのは誤解も甚だしいと思います。
もっと言えば、現在の共和党の新世代は「オバマのやっている反中国政策」には冷ややかです。仮に、2016年にヒラリーなどの民主党が負けて、ティーパーティー系などの共和党の新世代がホワイトハウスを掌握するようになれば、「衰退する日本」は徐々に切り捨てて、「無駄に中国を敵視することで生じるコスト」を削減にかかる可能性が相当にあると見ておかねばなりません。