それにしても、7年契約総額1億5500万ドル(約161億円)というのには驚きました。米球界にはクレイトン・カーショウ投手(ドジャース、7年で2億1500万ドル)をはじめ、ジャスティン・バーランダー投手(タイガース、7年で1億8000万ドル)、フェリックス・ヘルナンデス投手(マリナーズ、7年で1億7500万ドル)など、ここ数年「信頼できる先発ピッチャー」とは、超大型契約を結ぶ例が出てきていますが、メジャー経験のない田中投手に「年間2000万ドル」を超える額で、しかも7年契約というのは異例です。
確かにここ数カ月、ニューヨークのメディアはヤンキースの経営陣に対して「タナカを取らないと許さないぞ」という猛烈なプレッシャーをかけており、あの「うるさい」ヤンキースファンの間でも「タナカを取れ」の大合唱になっていました。そうした経緯を考えると、確かにこうした額になるのは分かるのですが、それにしても長期・超大型であるのは間違いありません。以下は、長い間ヤンキースファンとしてアメリカ野球を見てきた人間として、この契約に込められた「期待感」をどう「解釈するか」を述べてみたいと思います。田中投手にも参考にしていただければ幸いです。
(1)まず、1億5500万ドルという巨額な数字全てが、税金さえ払えば残りは田中将大という個人あるいは一家の生活費や資産形成に使われていいというのは間違いです。まず総額の5%は代理人のコミッションとして引かれますし、何よりも専属トレーナーや練習施設の維持費など、「ビジネスとしてのプロ野球」を継続していくためのコストは、この「総収入」の中から支払われなくてはなりません。つまりこの金額は個人の収入というより、「田中事務所」という会社の「契約高」だという考え方で自他共に見てゆくのが良いと思います。
(2)では、この金額に対して具体的には何が期待されているのでしょうか? まず「どうして7年契約」なのかという点については、勿論、そのウラには「長期大型契約」を取ることがエージェントの「勲章」であり「収入源」だという実情があるわけです。ですが、オモテの意味としては「長期にわたって活躍して欲しい」という球団とファンからの意味合いがあります。一つ参考になるのは、紹介したバーランダー投手の契約です。バーランダー投手の場合は1億8000万ドルの年俸総額に加えて、7年目の契約最終シーズンに「サイヤング賞」の投票で「トップ5」に入れば2200万ドルのボーナスが付くという付帯条項があるのです。途中でダメにならずに、7年契約を「成功のうちに完走して欲しい」という期待が「ボーナス」として具体化されているのが、いかにもアメリカ的ですが、「7年」という期間への「心構え」としては参考になると思います。
(3)初年度の具体的な数字ですが、できれば「1年目、2年目、3年目」と少しずつ進化するようであって欲しいと思います。勿論、初年度に力を「セーブする」などというのは不可能ですが、イメージとしてやはり「7年」という年数を考えると、せめて最初の3年間はコンスタントな活躍、それも少しずつ進化というのが理想です。その点で考えると、1年目はチームが好調なら17勝、不調なら15勝というあたり、そして負けはヒト桁というのが取りあえずの目標になると思います。いきなり、20勝とか防御率一点台というのが「義務」ではありません。
(4)一方で、ニューヨークのファンも「24勝ゼロ敗」という田中投手の2013年の日本での成績を知っています。そのために、ある種の「ビッグシーズン」を期待しているのは間違いないでしょう。その点で参考になるのは、特にヤンキースの場合は一つの圧倒的な例があります。それは1978年のシーズンのロン・ギドリー投手が「25勝3敗、防御率1.74」という圧倒的な成績でチームを「ワールドシリーズ制覇」に導いたケースです。NYにはこの年のドラマチックなヤンキースの優勝劇を、今でも「人生最大の思い出」として記憶している人がたくさんいます。ギドリー投手の寡黙でクールな性格、そして素晴らしい集中力については、ヤンキースの専属チャンネル「YES」というTV局が1時間番組にしてDVDも発売されていますから、参考にしてもらいたいと思います。
(5)そのギドリー氏は、2006年から2年間そのヤンキースの投手コーチを務めました。決してチームの状態が良くない中でのコーチ業には、苦悩がにじんでおり、現役時代を知るファンには複雑な思いがあったのは事実です。そのギドリー投手コーチの「悩みのタネ」の一つは、井川慶投手との言葉と文化の壁によるコミュニケーション・ギャップでした。非常に残念なことですが、辛口のヤンキースファンは「タナカが第2のイガワにならねばよいが」などという心配をしているのは事実です。田中投手としては、もしもキャンプに小柄で口ひげを生やしたダンディなギドリー氏の姿(時折春季のアドバイザーとしてキャンプに参加することもあるので)を見かけるようなことがあったら、是非自分から自己紹介をして欲しいと思います。この実直な苦労人には何か学ぶものがあると思うからです。井川投手には失礼な言い方になりますが、ギドリー氏に認めてもらうことが「自分はイガワではない」というファンへの宣言にもなると思います。
(6)メジャーのマウンドは、一球一球が真剣勝負であり、その勝負に集中する姿勢や、敵の打者を研究し尽くす姿勢などでは、ヤンキースには黒田博樹という大先輩がいます。日本人同士ということで、お互いに難しさはあるかもしれませんが、是非いいコンビを組んで欲しいし、黒田投手から学ぶべきものは学んで欲しいと思います。
(7)今季のヤンキースは、Aロッドの薬物使用に関する処分事件を引きずり、また主将のジーター選手が選手生命の「最後」を賭けるという事情など色々な問題があります。また、エルズベリー選手や、ベルトラン選手など優秀な攻撃陣を他のチームから招いたのはいいのですが、この2人はどちらかと言えば「寡黙」で「クール」なタイプです。チームが沈滞した場合に、自分から周囲を引きずり回して活性化するようなタイプではないのです。その点で、ブレーブスから移籍してきた正捕手のブライアン・マキャン選手は「ある熱いもの」を秘めているように思います。彼とバッテリーとしていいコンビを組んで、「寡黙な紳士集団」だけではない「新しいチームのケミストリ」を作っていって欲しいと思います。
いずれにしても、4月の開幕が、いや2月末の「スプリングトレーニング戦(オープン戦)」が大変に楽しみです。
確かにここ数カ月、ニューヨークのメディアはヤンキースの経営陣に対して「タナカを取らないと許さないぞ」という猛烈なプレッシャーをかけており、あの「うるさい」ヤンキースファンの間でも「タナカを取れ」の大合唱になっていました。そうした経緯を考えると、確かにこうした額になるのは分かるのですが、それにしても長期・超大型であるのは間違いありません。以下は、長い間ヤンキースファンとしてアメリカ野球を見てきた人間として、この契約に込められた「期待感」をどう「解釈するか」を述べてみたいと思います。田中投手にも参考にしていただければ幸いです。
(1)まず、1億5500万ドルという巨額な数字全てが、税金さえ払えば残りは田中将大という個人あるいは一家の生活費や資産形成に使われていいというのは間違いです。まず総額の5%は代理人のコミッションとして引かれますし、何よりも専属トレーナーや練習施設の維持費など、「ビジネスとしてのプロ野球」を継続していくためのコストは、この「総収入」の中から支払われなくてはなりません。つまりこの金額は個人の収入というより、「田中事務所」という会社の「契約高」だという考え方で自他共に見てゆくのが良いと思います。
(2)では、この金額に対して具体的には何が期待されているのでしょうか? まず「どうして7年契約」なのかという点については、勿論、そのウラには「長期大型契約」を取ることがエージェントの「勲章」であり「収入源」だという実情があるわけです。ですが、オモテの意味としては「長期にわたって活躍して欲しい」という球団とファンからの意味合いがあります。一つ参考になるのは、紹介したバーランダー投手の契約です。バーランダー投手の場合は1億8000万ドルの年俸総額に加えて、7年目の契約最終シーズンに「サイヤング賞」の投票で「トップ5」に入れば2200万ドルのボーナスが付くという付帯条項があるのです。途中でダメにならずに、7年契約を「成功のうちに完走して欲しい」という期待が「ボーナス」として具体化されているのが、いかにもアメリカ的ですが、「7年」という期間への「心構え」としては参考になると思います。
(3)初年度の具体的な数字ですが、できれば「1年目、2年目、3年目」と少しずつ進化するようであって欲しいと思います。勿論、初年度に力を「セーブする」などというのは不可能ですが、イメージとしてやはり「7年」という年数を考えると、せめて最初の3年間はコンスタントな活躍、それも少しずつ進化というのが理想です。その点で考えると、1年目はチームが好調なら17勝、不調なら15勝というあたり、そして負けはヒト桁というのが取りあえずの目標になると思います。いきなり、20勝とか防御率一点台というのが「義務」ではありません。
(4)一方で、ニューヨークのファンも「24勝ゼロ敗」という田中投手の2013年の日本での成績を知っています。そのために、ある種の「ビッグシーズン」を期待しているのは間違いないでしょう。その点で参考になるのは、特にヤンキースの場合は一つの圧倒的な例があります。それは1978年のシーズンのロン・ギドリー投手が「25勝3敗、防御率1.74」という圧倒的な成績でチームを「ワールドシリーズ制覇」に導いたケースです。NYにはこの年のドラマチックなヤンキースの優勝劇を、今でも「人生最大の思い出」として記憶している人がたくさんいます。ギドリー投手の寡黙でクールな性格、そして素晴らしい集中力については、ヤンキースの専属チャンネル「YES」というTV局が1時間番組にしてDVDも発売されていますから、参考にしてもらいたいと思います。
(5)そのギドリー氏は、2006年から2年間そのヤンキースの投手コーチを務めました。決してチームの状態が良くない中でのコーチ業には、苦悩がにじんでおり、現役時代を知るファンには複雑な思いがあったのは事実です。そのギドリー投手コーチの「悩みのタネ」の一つは、井川慶投手との言葉と文化の壁によるコミュニケーション・ギャップでした。非常に残念なことですが、辛口のヤンキースファンは「タナカが第2のイガワにならねばよいが」などという心配をしているのは事実です。田中投手としては、もしもキャンプに小柄で口ひげを生やしたダンディなギドリー氏の姿(時折春季のアドバイザーとしてキャンプに参加することもあるので)を見かけるようなことがあったら、是非自分から自己紹介をして欲しいと思います。この実直な苦労人には何か学ぶものがあると思うからです。井川投手には失礼な言い方になりますが、ギドリー氏に認めてもらうことが「自分はイガワではない」というファンへの宣言にもなると思います。
(6)メジャーのマウンドは、一球一球が真剣勝負であり、その勝負に集中する姿勢や、敵の打者を研究し尽くす姿勢などでは、ヤンキースには黒田博樹という大先輩がいます。日本人同士ということで、お互いに難しさはあるかもしれませんが、是非いいコンビを組んで欲しいし、黒田投手から学ぶべきものは学んで欲しいと思います。
(7)今季のヤンキースは、Aロッドの薬物使用に関する処分事件を引きずり、また主将のジーター選手が選手生命の「最後」を賭けるという事情など色々な問題があります。また、エルズベリー選手や、ベルトラン選手など優秀な攻撃陣を他のチームから招いたのはいいのですが、この2人はどちらかと言えば「寡黙」で「クール」なタイプです。チームが沈滞した場合に、自分から周囲を引きずり回して活性化するようなタイプではないのです。その点で、ブレーブスから移籍してきた正捕手のブライアン・マキャン選手は「ある熱いもの」を秘めているように思います。彼とバッテリーとしていいコンビを組んで、「寡黙な紳士集団」だけではない「新しいチームのケミストリ」を作っていって欲しいと思います。
いずれにしても、4月の開幕が、いや2月末の「スプリングトレーニング戦(オープン戦)」が大変に楽しみです。