今週、成田空港発のニューヨークJFK行きの全日空10便が飛行中に、乗客の男が泥酔して暴力行為をはたらいたり暴言を吐いたりしたため、同機はアラスカ州のアンカレジ空港に着陸し、容疑者は地元の警察に引き渡されたという報道がありました。
記録を見ますと、同機は午前11時10分に成田を離陸してから、約7時間25分後の現地時間午前12時35分にアンカレジに着陸。約4時間半後の午前5時2分に同空港を離陸して、JFKには午後3時11分に到着しています。予定より約6時間遅れての到着でした。この影響で、折り返しのJFK発の9便成田行きも6時間遅れ、また同経路の「遅便」である1009便も「早便の9便より先に出す」わけには行かなかったのでしょう、1時間遅れとなっています。
報道によれば「男性は周りの乗客や客室乗務員に向かって大声でわめき出した。おとなしくするよう機長が警告したが、従わなかった」といいます。AP電によれば、容疑者はFBIの取り調べを受けているそうですが、ジンのストレート(小瓶と思われます)を4本とビールを2本飲み、客室乗務員がそれ以上のアルコールの提供を断ったところ、逆上したということのようです。
ところで、公空上を飛行している航空機の場合、原則として裁判権は航空機の「登録国」にあるという考え方があります。1963年に成立した「航空機内で行なわれた犯罪その他ある種の行為に関する条約(別名、東京条約)」では、そのような考え方が打ち出されているからです。
ですから、全日空機の場合は基本的に捜査権や裁判権は日本に属することになるわけです。ですが、今回はアンカレジに着陸して容疑者をFBIに引き渡した、つまり一見すると日本国としては国家主権を行使すべきところが「そうではない」格好になっています。ですが、私はこの機長の、そして全日空の判断は正しいと思います。3つ理由を述べます。
1つ目は、東京条約の指定は「絶対」ではないということです。航空機は余程のことがない限り離陸した土地に戻ることはあり得ないことから、犯罪捜査を迅速に行い、証拠を保全するために「登録国主義」ではなく「着陸国主義」で対処をするということがオプションで設定されています。ですから、今回は機長がそのオプションを選択したというのは条約違反ではないし、その条約を批准している日本国の法令に違反することにもならないと思われます。米国としては、米国領空内で違法行為が発生したという観点、また米国を着陸地とした航空機内での犯罪ということで逮捕が可能だったと理解できます。(注:東京条約の主旨は、機内の治安確保における機長権限の強化にあります。その点で、今回の機長の措置は条約の精神に沿うものと言って良いと思います。また、この東京条約に関しては「着陸国主義」の強化の方向で改訂が進んでいます。これは要するに「着陸国でちゃんと逮捕・拘禁する」ということを義務化する方向なのですが、今回の場合はちゃんとFBIが動いてくれたわけで、その点でも条約の考え方、そして現在考えられている改訂の方向性に沿う動きになったと言えます。)
2つ目としては、容疑者の暴力が切迫していた場合に、状況を早急にコントロールすることが必要になるということがあります。報道によれば暴れ始めたのは離陸後4時間経過した時点であったようで、仮にそうであれば恐らくは新千歳にダイバートするよりも、アンカレジが近かったと思われます。国内で最も近い空港は中標津だったかもしれませんが、中標津は大型機材ではムリでしょう。最近は、日本でも法令が改正されて、機内暴力に対しては機長の判断で手錠を使用したりできるようになっていますが、泥酔客を階下などのスペースに閉じ込めてJFKまで飛ぶなどというのは非現実的であり、着陸したのは正しいと思います。
3つ目としては、とにかく容疑者の身柄引き渡しと最低限の捜査、そして給油といった作業に時間がかかる以上、乗客に対して遅延を最低限で済ますためにも、経路地のアンカレジに降りるしかなかったということがあると思います。アンカレジに降りるのであれば、その結果として、米国に対して被害を申告して捜査権行使を要請したということになったわけです。
いずれにしても、日本の航空会社は乗客を必要以上に「甘やかしている」というイメージが、日本の国内外にあります。今回の毅然とした措置によって、そうした妙なイメージが払拭されていくとしたらそれは悪いことではないと思います。
記録を見ますと、同機は午前11時10分に成田を離陸してから、約7時間25分後の現地時間午前12時35分にアンカレジに着陸。約4時間半後の午前5時2分に同空港を離陸して、JFKには午後3時11分に到着しています。予定より約6時間遅れての到着でした。この影響で、折り返しのJFK発の9便成田行きも6時間遅れ、また同経路の「遅便」である1009便も「早便の9便より先に出す」わけには行かなかったのでしょう、1時間遅れとなっています。
報道によれば「男性は周りの乗客や客室乗務員に向かって大声でわめき出した。おとなしくするよう機長が警告したが、従わなかった」といいます。AP電によれば、容疑者はFBIの取り調べを受けているそうですが、ジンのストレート(小瓶と思われます)を4本とビールを2本飲み、客室乗務員がそれ以上のアルコールの提供を断ったところ、逆上したということのようです。
ところで、公空上を飛行している航空機の場合、原則として裁判権は航空機の「登録国」にあるという考え方があります。1963年に成立した「航空機内で行なわれた犯罪その他ある種の行為に関する条約(別名、東京条約)」では、そのような考え方が打ち出されているからです。
ですから、全日空機の場合は基本的に捜査権や裁判権は日本に属することになるわけです。ですが、今回はアンカレジに着陸して容疑者をFBIに引き渡した、つまり一見すると日本国としては国家主権を行使すべきところが「そうではない」格好になっています。ですが、私はこの機長の、そして全日空の判断は正しいと思います。3つ理由を述べます。
1つ目は、東京条約の指定は「絶対」ではないということです。航空機は余程のことがない限り離陸した土地に戻ることはあり得ないことから、犯罪捜査を迅速に行い、証拠を保全するために「登録国主義」ではなく「着陸国主義」で対処をするということがオプションで設定されています。ですから、今回は機長がそのオプションを選択したというのは条約違反ではないし、その条約を批准している日本国の法令に違反することにもならないと思われます。米国としては、米国領空内で違法行為が発生したという観点、また米国を着陸地とした航空機内での犯罪ということで逮捕が可能だったと理解できます。(注:東京条約の主旨は、機内の治安確保における機長権限の強化にあります。その点で、今回の機長の措置は条約の精神に沿うものと言って良いと思います。また、この東京条約に関しては「着陸国主義」の強化の方向で改訂が進んでいます。これは要するに「着陸国でちゃんと逮捕・拘禁する」ということを義務化する方向なのですが、今回の場合はちゃんとFBIが動いてくれたわけで、その点でも条約の考え方、そして現在考えられている改訂の方向性に沿う動きになったと言えます。)
2つ目としては、容疑者の暴力が切迫していた場合に、状況を早急にコントロールすることが必要になるということがあります。報道によれば暴れ始めたのは離陸後4時間経過した時点であったようで、仮にそうであれば恐らくは新千歳にダイバートするよりも、アンカレジが近かったと思われます。国内で最も近い空港は中標津だったかもしれませんが、中標津は大型機材ではムリでしょう。最近は、日本でも法令が改正されて、機内暴力に対しては機長の判断で手錠を使用したりできるようになっていますが、泥酔客を階下などのスペースに閉じ込めてJFKまで飛ぶなどというのは非現実的であり、着陸したのは正しいと思います。
3つ目としては、とにかく容疑者の身柄引き渡しと最低限の捜査、そして給油といった作業に時間がかかる以上、乗客に対して遅延を最低限で済ますためにも、経路地のアンカレジに降りるしかなかったということがあると思います。アンカレジに降りるのであれば、その結果として、米国に対して被害を申告して捜査権行使を要請したということになったわけです。
いずれにしても、日本の航空会社は乗客を必要以上に「甘やかしている」というイメージが、日本の国内外にあります。今回の毅然とした措置によって、そうした妙なイメージが払拭されていくとしたらそれは悪いことではないと思います。