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変質する「航空会社のマイレージ・サービス」その背景は? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2014年2月27日 12時31分

 アメリカを中心とした世界の航空会社の多くは「マイレージ・サービス」という制度を設けています。マイレージ、つまり乗客は飛行した距離に応じた「マイル」を自分の会員アカウントに貯めていき、そのマイルが一定のレベルに貯まると無料航空券がもらえるという仕組みです。

 この「マイレージ」ですが、従来は文字通り「飛行マイル」がベースとなっていました。例えば、ニューヨークからロサンゼルスへの大陸横断であれば片道2500マイル、ニューヨークから東京であれば6700マイルという具合です。その「還元率」はどうかというと、だいたい4~5往復すると1往復がタダというレベルですから、乗客としては熱心にマイルを貯めようとする、従って「他の系列に浮気はしない」という一種の「囲い込みマーケティング」が成立するわけです。

 この「マイレージ」には更にエリート会員制度というものがあり、米系の大手の場合ですと年間2万5千マイルを飛ぶと「ヒラ」の会員から「エリート初級」に昇格し、更に中級、上級、特級と段階を上がっていくと、優先搭乗の権利であるとか、アップグレード権など色々な特典が加わっていくわけです。

 ところが、最近になって各航空会社は「無料航空券の付与」の根拠となるポイントを「マイル基準」から「金額基準」へと変えつつあります。例えば、ユナイテッド航空は、今年に関しては「無料航空券の付与」に関しては「マイル基準」での算定を続けるものの、来年の「エリート資格」の審査に当たっては、「金額基準」を併用すると発表しています(対象は米国居住者のみ)。

 つまり、従来であれば暦年1年間で2万5千マイル飛べば、無条件で「エリート初級」に昇格できたのですが、2014年の実績で2015年の会員資格を審査する際には、「2万5千マイル」の飛行に加えて、航空券に「2500ドル」以上を払ったという条件をクリアしていないといけないのです。エリート資格の「特級」に到達するには「10万マイル」の飛行距離と「1万ドル(約100万円弱)」を使わないといけないというわけです。デルタも同様の措置を取っています(但し「特級」は12万5千マイルと1万2500ドル)。

 そのデルタ航空は今週になって、来年2015年のエリート資格の算定だけでなく、無料航空券付与の算定基準も「マイル」ではなく「使った金額」をベースにすると発表しました。他社が追随するかどうかは、分からないのですが、既に格安航空会社(LCC)の中には金額ベースを採用している会社があり、ホテルなどの他の「ポイント・サービス」では金額基準が多いことから踏み切った、デルタはそう宣言しています。

 こうした動きの背景には何があるのでしょうか?

 理由としては、割引率が低い切符を買わざるを得ないビジネス客を優遇しようということがあるようです。同じ大陸横断便の場合、急な出張が入ったために往復600ドルや700ドルの切符を買わざるをえないビジネス客と、早めに予約できるので400ドル程度の安い値段でチケットを買うことのできる個人の「バーゲンハンター」が、どちらも獲得マイル数では「往復5000マイル」で同じだというのは不公平。デルタなど、各航空会社はそのような説明をしています。



 ですが、そのウラには更に別の2つの事情があるようです。一つには、米系の場合ですが、昨年のアメリカン航空とUSエアウェイズの合併により、国際線を含めた巨大な路線網を擁する「大手キャリア」は3社に統合されたのですが、各社ともにエリート資格制度を中心とした「ブランドへのロイヤリティ(忠誠心)」がかなり浸透しています。つまり「大手に乗る人は他社に浮気はしない」という「囲い込み」が相当に進んでいるわけです。ですから、「支払金額」でエリート資格や無料航空券付与を行うという「不利益変更」をやっても顧客は「ついて来るだろう」という判断があるのだと思われます。

 もう一つはアメリカを中心とした「航空券の高騰」の固定化という問題があります。2001年の9・11テロでの需要の落ち込み、更にはリーマン・ショックなどもあり、米系の大手は90年代と比較するとフライトの便数も座席数も抑制気味となっています。そうした需要と供給のバランス、また3社寡占という状況、更には原油価格の高騰という要素も加わって、航空券は高値安定が続いているわけです。

 例えば、年間10万マイル乗るという「上級エリート会員」になるのは、長距離の海外出張を年間6回も7回もこなしていないと維持できないわけですが、これに「年間1万ドル」という条件が加わるというのは、要するにニューヨーク・東京の往復について「平均1300ドル程度」払って欲しいということになるわけです。実は現在のチケット相場からすると、それほど「難はない」レベルの設定なのですが、良く考えてみれば2000年代まではニューヨーク・東京は閑散期で700ドルぐらいであったわけですから、あくまで「現在の高い価格水準」が前提になっているというわけです。

 今回のエリート資格付与の条件にしても、そうした「高値安定」が前提となった設定となっていると考えられます。では、米系の航空会社は苦しい経営が続いているのかというと、現在は各社ともに経営は安定しているわけです。そんな中で、顧客への「囲い込み」を強化してより経営を安定させようという動き、今回のデルタの判断については、そのように見ることが可能です。

 では、乗客としてはLCCに移ればいいのでしょうか? 残念ながらアメリカのLCCも悪天候時のキャンセル条件など、サービスについては大手と比較すると問題が多くビジネス向きではありません。これからは、ボーイング787や737−900の就航が増え、エアバスの新型A350もデビューしますし、燃費の良い航空機がどんどん出てきます。大手よりはリーズナブルな価格で、LCCよりはサービスの安定しているキャリアが出てきて、長距離国内線や国際線をドンドン飛ばす、そんな形で「燃費向上の乗客への還元」を図って欲しいものです。

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