この3月11日は静かな追悼の日にするのが礼儀なのかもしれません。例えば、反原発の集会やデモが9日や10日に行われたというのは、そうした態度自体には誠実なものを感じます。ですが、私にはやはり「あの日」から迷走し始めた日本のエネルギー戦略の問題は、どうしても「この日」に真剣に考えてみたい、そのように思われるのです。
とにかく、現在の日本はエネルギー戦略に関しては深刻な分裂にあり、ともすれば分裂が常態化しつつあるように思われます。
そんな中、例えば東京に関しては株高の影響が消費にプラスの影響を与える中で、景況感は良くなっているわけですが、そのためもあって節電ということは忘れられているようにも思うのです。では、原発稼働ゼロという現状下で、化石燃料だけでエネルギーの供給が確保できているのかというと、問題は深刻です。
とりあえず、火力発電所をフル稼働させているわけですが、そのために化石燃料の輸入が増大しています。更に、この間に円安が進行したこともあって、ここ数カ月の貿易収支はマイナス1・5兆円から2兆円という水準になっており、過去最悪の状況です。
電力会社の経営もそうした燃料高を反映して、東京電力だけでなく、泊原発が停止中の北海道電力なども、危機的な状況にあるわけです。
そう考えると、原発を再稼働するという話になるわけですが、これが国レベルでも各地方のレベルでも合意できないわけです。賛成と反対の双方の立場があって、お互いに一歩も引かない格好になっています。
例えば、日本維新の会では「トルコなどとの原子力協定」に関する賛否で内部分裂が見られます。賛成派、つまりトルコへの原発輸出を支持する立場としては、石原慎太郎氏がいるわけで、石原氏の場合は「核武装」が究極の目的であり、私としても全く支持はできないのですが、とにかく賛成派がいる一方で、大阪を中心としたグループは反対であるわけです。
どうして反対なのかというと、福島第一の事故を経験し、日本が脱原発に向かう現状下で、自分の国は原発依存を脱しようとしているのに、他の国に原発を売るのは不誠実だからという理由です。
それは、確かに誠実な姿勢なのかもしれませんが、今後のエネルギー情勢を考えて、一番安全で信用がおけるという理由で、日本からの輸入を決定したトルコなどからしたら、日本が断ったら、例えば韓国などの技術的に後発の国から輸入せざるを得なくなるわけです。
また、事故機は「第1世代」の米GE製であって、トルコ等が買おうとしているのは、それから比べると「第3世代プラス」という新しい技術の搭載された日本製です。トルコから見れば、GE製の旧型が事故を起こしたからと言って、「第3世代プラス」の日本製を拒否する理由にはならないわけです。
そうではあるのですが、維新の会の場合は、一方で「自分がやめようとしている原発を輸出するのは不誠実」だという意見があり、一方では「核武装を見据えた核開発が自分の文明観」などという極端な立場があるわけです。これでは、意見が一本化するはずはありません。
似たような構図が、総理大臣の「家庭内」にも見られるようです。政府は、原発再稼働と、電力会社の経営再生を狙った「エネルギー基本計画案」を策定しています。ここでは「ベースロード電源」という考え方が導入されています。耳慣れない言葉ですが、要するに電力需要の波に関わらず最低限の需要をコンスタントに担う部分という意味です。これは他ならぬ安倍政権の方針であるわけです。
ですが、首相夫人である安倍昭恵氏は、報道によれば都内で居酒屋を経営し「放射線が検出されそうもない西日本の食材」を中心に提供する一方で、脱原発の立場を明確にしています。これに対して首相は「家庭内野党」だとして、夫人との意見の相違があることを隠そうとはしていません。
このエピソードに関しては、当初は「スキャンダル」だというニュアンスでも受け止められていたのですが、今では既成事実化しています。そして、むしろ「家庭内の意見不一致」を隠さないことが夫妻の「誠実さ」のようなニュアンスも出てきているように思われます。
それどころか、考えてみれば多くの日本の、特に東日本の家庭では、原発再稼働問題に関して、このような「家庭内での意見不一致」というのは「よくある話」であるわけです。そう考えると、総理夫妻の状況は、東日本のこの世代の夫婦間にある問題を「典型的に代表している」とすら言えることにもなります。
選挙結果というのもよく分かりません。2012年末の衆院選で自民党が勝って安倍政権が発足した際には、「脱原発的なムードは不信任された」という解説がされ、選挙結果も何となくそんな印象でした。ですが、その安倍政権は、現在まで再稼働には慎重なままです。
2014年2月の都知事選も「脱原発」が争点になりかけたわけですが、結果は曖昧なままに終わりました。脱原発のエネルギーは、党派を超えたものにはならなかったのでしょうし、雪という悪天候を超えて有権者を投票所に向かわせるパワーにはならなかったのです。というと少々言い過ぎで、「脱原発に関する判断をするという有権者へのムリな期待」が雪に勝てなかった、あるいは組織票には勝てなかったという感じでしょうか。
いずれにしても、エネルギー政策に関しては、痛々しい分裂と奇妙な均衡が固定化しつつある、そんな印象を持ちます。
ここは、脱原発への年限を「0年(即時)、5年、10年、15年、20年、25年」ぐらいに分けて、その場合のGDPの推移と、貿易赤字、為替レート、国家債務、破綻リスクなどのシミュレーションを行う、それも政府だけでなく、民間のシンクタンクや、コンサルティング・ファームなどのコンペにするのです。コンペと言っても、優劣を問うのではなく、「各シミュレーション」を並べて、お互いにパラメータの批判をし合って、議論を深めることを提案したいと思います。
小泉純一郎氏も、とりあえず「即時脱原発」を主張するものの、経済的な問題としての可能・不可能に関しては官僚がしっかり検討するのを期待する、そんなようなことを言っていました。
とにかく、決断を先送りしていてはダメだと思います。ウクライナのように原発依存は止められない一方で、天然ガス代が払えないために戦車に踏み込まれるような事態(私はそう見ています)は、日本の場合は現実感に乏しいと思います。ですが、そうならないためにも、この「3周年」を契機として実務的な議論を進めなくてはいけないと思うのです。
とにかく、現在の日本はエネルギー戦略に関しては深刻な分裂にあり、ともすれば分裂が常態化しつつあるように思われます。
そんな中、例えば東京に関しては株高の影響が消費にプラスの影響を与える中で、景況感は良くなっているわけですが、そのためもあって節電ということは忘れられているようにも思うのです。では、原発稼働ゼロという現状下で、化石燃料だけでエネルギーの供給が確保できているのかというと、問題は深刻です。
とりあえず、火力発電所をフル稼働させているわけですが、そのために化石燃料の輸入が増大しています。更に、この間に円安が進行したこともあって、ここ数カ月の貿易収支はマイナス1・5兆円から2兆円という水準になっており、過去最悪の状況です。
電力会社の経営もそうした燃料高を反映して、東京電力だけでなく、泊原発が停止中の北海道電力なども、危機的な状況にあるわけです。
そう考えると、原発を再稼働するという話になるわけですが、これが国レベルでも各地方のレベルでも合意できないわけです。賛成と反対の双方の立場があって、お互いに一歩も引かない格好になっています。
例えば、日本維新の会では「トルコなどとの原子力協定」に関する賛否で内部分裂が見られます。賛成派、つまりトルコへの原発輸出を支持する立場としては、石原慎太郎氏がいるわけで、石原氏の場合は「核武装」が究極の目的であり、私としても全く支持はできないのですが、とにかく賛成派がいる一方で、大阪を中心としたグループは反対であるわけです。
どうして反対なのかというと、福島第一の事故を経験し、日本が脱原発に向かう現状下で、自分の国は原発依存を脱しようとしているのに、他の国に原発を売るのは不誠実だからという理由です。
それは、確かに誠実な姿勢なのかもしれませんが、今後のエネルギー情勢を考えて、一番安全で信用がおけるという理由で、日本からの輸入を決定したトルコなどからしたら、日本が断ったら、例えば韓国などの技術的に後発の国から輸入せざるを得なくなるわけです。
また、事故機は「第1世代」の米GE製であって、トルコ等が買おうとしているのは、それから比べると「第3世代プラス」という新しい技術の搭載された日本製です。トルコから見れば、GE製の旧型が事故を起こしたからと言って、「第3世代プラス」の日本製を拒否する理由にはならないわけです。
そうではあるのですが、維新の会の場合は、一方で「自分がやめようとしている原発を輸出するのは不誠実」だという意見があり、一方では「核武装を見据えた核開発が自分の文明観」などという極端な立場があるわけです。これでは、意見が一本化するはずはありません。
似たような構図が、総理大臣の「家庭内」にも見られるようです。政府は、原発再稼働と、電力会社の経営再生を狙った「エネルギー基本計画案」を策定しています。ここでは「ベースロード電源」という考え方が導入されています。耳慣れない言葉ですが、要するに電力需要の波に関わらず最低限の需要をコンスタントに担う部分という意味です。これは他ならぬ安倍政権の方針であるわけです。
ですが、首相夫人である安倍昭恵氏は、報道によれば都内で居酒屋を経営し「放射線が検出されそうもない西日本の食材」を中心に提供する一方で、脱原発の立場を明確にしています。これに対して首相は「家庭内野党」だとして、夫人との意見の相違があることを隠そうとはしていません。
このエピソードに関しては、当初は「スキャンダル」だというニュアンスでも受け止められていたのですが、今では既成事実化しています。そして、むしろ「家庭内の意見不一致」を隠さないことが夫妻の「誠実さ」のようなニュアンスも出てきているように思われます。
それどころか、考えてみれば多くの日本の、特に東日本の家庭では、原発再稼働問題に関して、このような「家庭内での意見不一致」というのは「よくある話」であるわけです。そう考えると、総理夫妻の状況は、東日本のこの世代の夫婦間にある問題を「典型的に代表している」とすら言えることにもなります。
選挙結果というのもよく分かりません。2012年末の衆院選で自民党が勝って安倍政権が発足した際には、「脱原発的なムードは不信任された」という解説がされ、選挙結果も何となくそんな印象でした。ですが、その安倍政権は、現在まで再稼働には慎重なままです。
2014年2月の都知事選も「脱原発」が争点になりかけたわけですが、結果は曖昧なままに終わりました。脱原発のエネルギーは、党派を超えたものにはならなかったのでしょうし、雪という悪天候を超えて有権者を投票所に向かわせるパワーにはならなかったのです。というと少々言い過ぎで、「脱原発に関する判断をするという有権者へのムリな期待」が雪に勝てなかった、あるいは組織票には勝てなかったという感じでしょうか。
いずれにしても、エネルギー政策に関しては、痛々しい分裂と奇妙な均衡が固定化しつつある、そんな印象を持ちます。
ここは、脱原発への年限を「0年(即時)、5年、10年、15年、20年、25年」ぐらいに分けて、その場合のGDPの推移と、貿易赤字、為替レート、国家債務、破綻リスクなどのシミュレーションを行う、それも政府だけでなく、民間のシンクタンクや、コンサルティング・ファームなどのコンペにするのです。コンペと言っても、優劣を問うのではなく、「各シミュレーション」を並べて、お互いにパラメータの批判をし合って、議論を深めることを提案したいと思います。
小泉純一郎氏も、とりあえず「即時脱原発」を主張するものの、経済的な問題としての可能・不可能に関しては官僚がしっかり検討するのを期待する、そんなようなことを言っていました。
とにかく、決断を先送りしていてはダメだと思います。ウクライナのように原発依存は止められない一方で、天然ガス代が払えないために戦車に踏み込まれるような事態(私はそう見ています)は、日本の場合は現実感に乏しいと思います。ですが、そうならないためにも、この「3周年」を契機として実務的な議論を進めなくてはいけないと思うのです。