2009年から10年にかけて複数のトヨタ車に対して発生した「意図せぬ急加速問題」では、豊田章男社長自身が米議会の公聴会で証言した後に、アメリカの運輸省当局は基本的な自動車の電子制御に関する欠陥はなかったことを明らかにしています。
その一方で、この問題に関する民事訴訟では、トヨタ側は最終的に和解に応じており、その総額に関しては訴訟費用等を入れると30億ドル(3000億円)以上になると言われています。
更にこれに加えて、先週3月19日にトヨタは米司法省との「和解」に応じており、12億ドル(1200億円)の和解金を支払う代わりに「刑事訴追」を免れることとなりました。
この問題をアメリカの三大ネットワークをはじめとしたメディアは、ニュースなどで大きく取り上げています。また、この決定を受けて豊田社長が会見し、「あくまで顧客が第一」だという声明を出したというニュースに関しても、アメリカでは報道されています。
では、なぜ基本的にトヨタは「シロ」であるという証明がされたにも関わらず、ここまでのカネを払わされたのでしょうか?
また、和解金額が確定した際の豊田社長の「顧客が第一」だというコメントにはどんな意味があるのでしょうか?
まずクルマの問題ですが、本体の電子制御には全く問題はなかったことは証明されていますが、一部だけ否定できていない問題があります。それは、日本の設計陣がおそらくは想定していなかった「アウトドア文化好きのアメリカ人向け」の水洗いのできる重たい「フロアマット」が北米のトヨタディーラーによって取り付けられていたという問題です。
オリジナルのクルマの設計で想定していたものよりフロアマットが重すぎるために、金具が折れてしまいマットが滑ってペダルに引っ掛かった、そのためにアクセルが戻らずにクルマが暴走したという事故が起きているのです。
従ってトヨタ側としては、仮に事実関係の詳細を争うようになると、自社の北米販売会社やディーラーに「罪をなすりつける」ことになりかねないわけです。そこは「顧客である北米のディーラー網」を「立てて」本社側が責任を負ったという理解が可能です。
更に、急加速事故の中には、ドライバーのミスで発生したものも数多くあるようです。例えば、アクセルとブレーキの踏み違え事故によって亡くなったケースもあるのです。そうした場合にトヨタ側が徹底的に争うということは、場合によっては死者に責任を押し付けるかどうかを争う法廷闘争になるわけです。
そうしたことをトヨタは避けたかったのでしょうし、仮に全面的に争うようなことになった場合、トヨタ車に搭載されている運転記録システムのデータを使って、事故処理の民事裁定をやり直すことになれば、社会は混乱します。全米の自動車保険制度や自動車事故に関する警察の捜査方法にまで影響を与えることになるからです。
いずれにしても、「トヨタの北米ディーラー網」と「直接の顧客」に責任をなすりつけたり、あるいは彼等と争ったりすることはトヨタとしては回避したわけで、本社が罪をかぶった格好になりました。
ちなみに、刑事上トヨタが「本当に真っ白」だったかというと、情報公開が不十分であるとか、捜査への協力に遅れが出た点など「多少の違法性」は否定しきれないようです。一部推測になりますが、本当にデータを出して協力してしまうと顧客の運転ミスなどのプライバシーを「表沙汰」にしてしまう、という理由もあると思われます。
そんな中で、刑事訴追を免れる代わりに、1200億円という「和解金で済ます」という「ディール」がトヨタと米司法省の間で交わされたということになります。
もう一つ、この「和解」を取り巻く現状としては、GMの問題があります。2009年に政府管理による破綻と再生というプロセスを経たGMは、現場叩き上げの女性経営トップとして、メアリー・バーラ氏がCEOとして経営再建を進めています。ですが、その一方でGMは現在、140万台弱という大規模なリコール問題の渦中にあります。
今回のGMの問題は「イグニッション・スイッチが運転中に切れる」つまり、運転中に「電気系統の故障によるエンスト」が発生するという深刻な問題です。
具体的な現象としては、事故を起こしたクルマはオートマ車ということもあって、即座にエンジンを復活させることは不可能であるばかりか、エンストのためにパワー・ステアリングも効かなくなり「エンジンは死んで、ハンドルも異様に重たくなる」という絶体絶命の状況になるという悪質な欠陥です。
死亡者については、GMが認めたものは現時点では13名ですが、消費者団体の調査では300名に上るという報道もある中、報告が遅れたことに関しても悪質性が高いというので、米政府も世論も激怒しているのです。
GMは2009年に公的資金投入を受けつつ、破綻と再生をしています。その際に「欠陥を隠しつつ」再生をした、つまり再生後に「負担発生」が起きる可能性を知りながら、公的資金注入を受けて、それが年金の支払基金等に回っていたとなれば、悪質性は高いわけです。当時の経営陣の関与が証明されれば、実刑も免れないという声もあります。とりあえず、バーラCEOは議会に喚問されることになりましたが、豊田社長のようにスマートに受け答えて済むということにはなりそうもありません。
GMがそんな「最悪の状況」に陥りつつあるという中で、トヨタとしては和解を急いで「クリーン」な状態で更に販売の攻勢をかけようという判断をした可能性があります。アメリカの報道では、トヨタがここまで「低姿勢」だった以上、GMには「もっともっと厳罰を」という声も大きくなっているのです。
そんなわけで、こうした民事上、刑事上の和解金というのは、一種の政治的コストというようなもので、トヨタとしては戦略的な判断として受け入れているという理解ができます。また豊田社長の言う「顧客が第一」という言葉には、何とも言えない含蓄があります。
その一方で、この問題に関する民事訴訟では、トヨタ側は最終的に和解に応じており、その総額に関しては訴訟費用等を入れると30億ドル(3000億円)以上になると言われています。
更にこれに加えて、先週3月19日にトヨタは米司法省との「和解」に応じており、12億ドル(1200億円)の和解金を支払う代わりに「刑事訴追」を免れることとなりました。
この問題をアメリカの三大ネットワークをはじめとしたメディアは、ニュースなどで大きく取り上げています。また、この決定を受けて豊田社長が会見し、「あくまで顧客が第一」だという声明を出したというニュースに関しても、アメリカでは報道されています。
では、なぜ基本的にトヨタは「シロ」であるという証明がされたにも関わらず、ここまでのカネを払わされたのでしょうか?
また、和解金額が確定した際の豊田社長の「顧客が第一」だというコメントにはどんな意味があるのでしょうか?
まずクルマの問題ですが、本体の電子制御には全く問題はなかったことは証明されていますが、一部だけ否定できていない問題があります。それは、日本の設計陣がおそらくは想定していなかった「アウトドア文化好きのアメリカ人向け」の水洗いのできる重たい「フロアマット」が北米のトヨタディーラーによって取り付けられていたという問題です。
オリジナルのクルマの設計で想定していたものよりフロアマットが重すぎるために、金具が折れてしまいマットが滑ってペダルに引っ掛かった、そのためにアクセルが戻らずにクルマが暴走したという事故が起きているのです。
従ってトヨタ側としては、仮に事実関係の詳細を争うようになると、自社の北米販売会社やディーラーに「罪をなすりつける」ことになりかねないわけです。そこは「顧客である北米のディーラー網」を「立てて」本社側が責任を負ったという理解が可能です。
更に、急加速事故の中には、ドライバーのミスで発生したものも数多くあるようです。例えば、アクセルとブレーキの踏み違え事故によって亡くなったケースもあるのです。そうした場合にトヨタ側が徹底的に争うということは、場合によっては死者に責任を押し付けるかどうかを争う法廷闘争になるわけです。
そうしたことをトヨタは避けたかったのでしょうし、仮に全面的に争うようなことになった場合、トヨタ車に搭載されている運転記録システムのデータを使って、事故処理の民事裁定をやり直すことになれば、社会は混乱します。全米の自動車保険制度や自動車事故に関する警察の捜査方法にまで影響を与えることになるからです。
いずれにしても、「トヨタの北米ディーラー網」と「直接の顧客」に責任をなすりつけたり、あるいは彼等と争ったりすることはトヨタとしては回避したわけで、本社が罪をかぶった格好になりました。
ちなみに、刑事上トヨタが「本当に真っ白」だったかというと、情報公開が不十分であるとか、捜査への協力に遅れが出た点など「多少の違法性」は否定しきれないようです。一部推測になりますが、本当にデータを出して協力してしまうと顧客の運転ミスなどのプライバシーを「表沙汰」にしてしまう、という理由もあると思われます。
そんな中で、刑事訴追を免れる代わりに、1200億円という「和解金で済ます」という「ディール」がトヨタと米司法省の間で交わされたということになります。
もう一つ、この「和解」を取り巻く現状としては、GMの問題があります。2009年に政府管理による破綻と再生というプロセスを経たGMは、現場叩き上げの女性経営トップとして、メアリー・バーラ氏がCEOとして経営再建を進めています。ですが、その一方でGMは現在、140万台弱という大規模なリコール問題の渦中にあります。
今回のGMの問題は「イグニッション・スイッチが運転中に切れる」つまり、運転中に「電気系統の故障によるエンスト」が発生するという深刻な問題です。
具体的な現象としては、事故を起こしたクルマはオートマ車ということもあって、即座にエンジンを復活させることは不可能であるばかりか、エンストのためにパワー・ステアリングも効かなくなり「エンジンは死んで、ハンドルも異様に重たくなる」という絶体絶命の状況になるという悪質な欠陥です。
死亡者については、GMが認めたものは現時点では13名ですが、消費者団体の調査では300名に上るという報道もある中、報告が遅れたことに関しても悪質性が高いというので、米政府も世論も激怒しているのです。
GMは2009年に公的資金投入を受けつつ、破綻と再生をしています。その際に「欠陥を隠しつつ」再生をした、つまり再生後に「負担発生」が起きる可能性を知りながら、公的資金注入を受けて、それが年金の支払基金等に回っていたとなれば、悪質性は高いわけです。当時の経営陣の関与が証明されれば、実刑も免れないという声もあります。とりあえず、バーラCEOは議会に喚問されることになりましたが、豊田社長のようにスマートに受け答えて済むということにはなりそうもありません。
GMがそんな「最悪の状況」に陥りつつあるという中で、トヨタとしては和解を急いで「クリーン」な状態で更に販売の攻勢をかけようという判断をした可能性があります。アメリカの報道では、トヨタがここまで「低姿勢」だった以上、GMには「もっともっと厳罰を」という声も大きくなっているのです。
そんなわけで、こうした民事上、刑事上の和解金というのは、一種の政治的コストというようなもので、トヨタとしては戦略的な判断として受け入れているという理解ができます。また豊田社長の言う「顧客が第一」という言葉には、何とも言えない含蓄があります。