アメリカの「ファーストレディ」、ミシェル・オバマ夫人は、3月20日から1週間の予定で中国を訪問しています。2人のお嬢さんと、そして自身の母親まで伴って女性4人での「中国滞在」というわけです。
どうしてこの時期になったのかというと、何よりも今週はオランダのハーグで「核安全保障サミット」が開かれ、オバマ大統領は「出張でワシントンを留守にしている」からです。どうせ「ダンナ抜きなら」母娘三代で春の旅行をというわけです。
ちなみに、ハーグに同行することも検討したのでしょうが、今回は平和な国連の儀式的な会議ではなく、西側対プーチンであるとか、ギクシャクした中でのアジアの首脳外交など「真剣勝負」の仕事が多いわけで、お嬢さんたちを伴ってというのは不適切だと判断したのでしょう。中国では、習近平夫人の彭麗媛氏がすでに接待役になっていて、故宮などを見学したそうです。
またハーグへ出発する前の習近平主席本人も姿を見せて、「中国主席と米ファーストレディの会見」が行われ、これはアメリカでも大きく報じられました。確かに1週間という期間は異例の長さです。
ホワイトハウス側は「あくまで文化交流」だとしていますが、オバマ政権として中国を重視している姿勢を示しているという印象を与えるのは当然でしょう。ファーストレディの「ピンポン外交」などという報道にも、そんなニュアンスを感じます。
では、ミシェル・オバマはこれで「中国寄り」になるのでしょうか? そうは簡単には行かないと思います。というのは、今回の「中国滞在」ということでは、あるもう一人の女性との比較論になるのは避けられないからです。
その女性とは、ヒラリー・クリントンです。1993年に夫のビル・クリントンの大統領就任と共に、ファーストレディとなったヒラリーは、医療保険改革の特命担当を務めるなど「行動するファーストレディ」を実践しました。その象徴的な出来事が、1995年9月に北京で行われた「国連世界女性会議」への参加です。
この頃から、日本の永田町や霞ヶ関では「クリントン政権は本籍左派だから中国重視で、日本は無視される(ジャパン・パッシング)」などと言う被害者意識が始まっていましたが、このヒラリーの中国滞在の際にも似たようなことが日本では言われていました。
ですが、そのヒラリーが世界女性会議で行ったスピーチは「対中国宥和」どころか、「燃えるような勢いと、厳しい論理」によって、人類社会における女性の権利を主張すると共に、人権の無視された社会への告発を含むものでした。この20分のスピーチが世界を変え、ヒラリーという女性の運命を変えたと言っても過言ではないのです。
中でも「女性の人権(ウイメンズ・ライト)の保証されないところでは、人間の権利(=人権、ヒューマン・ライト)が保証されているとは言えない。反対に人権の保証されていないところでは、女性の権利も保証されていないのだ」という言葉は、ヒラリーという女性を語る上では欠かせないものです。
国連の会議ということで、こうしたスピーチが行われることを想定していた当時の江沢民政権は、会議場の周囲から「デモ隊」を徹底的に排除していました。その異様ぶりも含めて、そしてそうした「人権のない状態」への告発を、そのど真ん中で行ったことで、ヒラリーはヒラリーとして少なくともアメリカ社会には認知を受けたのでした。
ミシェルという人は、そのヒラリーには「絶対に負ける訳にはいかない」はずです。ですから、みすみす「親中姿勢の演出」という道具に利用されて終わるはずはないのです。そのミシェルですが、早速21日には北京大学で講演して「この国では、インターネットのアクセス制限や、言論統制を止めるべきだ」と演説、正にヒラリーと同様に「その地に乗り込んで」強いメッセージを発信しはじめています。
勿論、北京大学としては「そんな話を聞いても動揺しない」学生だけをスクリーニングして参加させているのかもしれず、また演説の内容は国内では報道されていないのかもしれません。ですが、少なくともアメリカでは報道されているのです。
ヒラリーが北京滞在を契機として、中国に対して複雑なメッセージを出すようになっていったように、ミシェルも、そしておそらくは両親に似てその国の社会の「自由度」に敏感であるだろう娘たちも、「中国というのは完全に開かれた社会ではない」ということを理解していくでしょう。
その点において、今回の「ファーストレディの中国一週間滞在」という事件が「日本外し」の象徴であるような発想が、仮に出るようであれば、それは「被害妄想」であると思います。ミシェルは4月下旬には日本に来ると思いますが、改めて日本社会の開かれた姿を感じてもらえることと思います。
ただ、私には一点だけ懸念があります。中国は様々な意味でまだまだ開かれた社会ではないわけですが、女性の社会進出、女性の権利という点では、日本にはアドバンテージがないのです。それどころか、中国の方が改善している点が多々あるように思います。
4月の来日時にミシェルが同行して来るのであれば、あるいは仮にオバマ大統領単独である場合でも、この問題、つまり日本社会が女性の権利向上という点で遅れを取っていることには、率直な姿勢を見せつつ、改善への努力を真剣に行っているというメッセージを発信する必要があると思います。
現状では、女性の権利改善という問題は「富裕層、エリート層から」という歪んだ運動になっている傾向もあるわけで、そうした傾向への反省的な観点も安倍政権には期待したいと思います。
どうしてこの時期になったのかというと、何よりも今週はオランダのハーグで「核安全保障サミット」が開かれ、オバマ大統領は「出張でワシントンを留守にしている」からです。どうせ「ダンナ抜きなら」母娘三代で春の旅行をというわけです。
ちなみに、ハーグに同行することも検討したのでしょうが、今回は平和な国連の儀式的な会議ではなく、西側対プーチンであるとか、ギクシャクした中でのアジアの首脳外交など「真剣勝負」の仕事が多いわけで、お嬢さんたちを伴ってというのは不適切だと判断したのでしょう。中国では、習近平夫人の彭麗媛氏がすでに接待役になっていて、故宮などを見学したそうです。
またハーグへ出発する前の習近平主席本人も姿を見せて、「中国主席と米ファーストレディの会見」が行われ、これはアメリカでも大きく報じられました。確かに1週間という期間は異例の長さです。
ホワイトハウス側は「あくまで文化交流」だとしていますが、オバマ政権として中国を重視している姿勢を示しているという印象を与えるのは当然でしょう。ファーストレディの「ピンポン外交」などという報道にも、そんなニュアンスを感じます。
では、ミシェル・オバマはこれで「中国寄り」になるのでしょうか? そうは簡単には行かないと思います。というのは、今回の「中国滞在」ということでは、あるもう一人の女性との比較論になるのは避けられないからです。
その女性とは、ヒラリー・クリントンです。1993年に夫のビル・クリントンの大統領就任と共に、ファーストレディとなったヒラリーは、医療保険改革の特命担当を務めるなど「行動するファーストレディ」を実践しました。その象徴的な出来事が、1995年9月に北京で行われた「国連世界女性会議」への参加です。
この頃から、日本の永田町や霞ヶ関では「クリントン政権は本籍左派だから中国重視で、日本は無視される(ジャパン・パッシング)」などと言う被害者意識が始まっていましたが、このヒラリーの中国滞在の際にも似たようなことが日本では言われていました。
ですが、そのヒラリーが世界女性会議で行ったスピーチは「対中国宥和」どころか、「燃えるような勢いと、厳しい論理」によって、人類社会における女性の権利を主張すると共に、人権の無視された社会への告発を含むものでした。この20分のスピーチが世界を変え、ヒラリーという女性の運命を変えたと言っても過言ではないのです。
中でも「女性の人権(ウイメンズ・ライト)の保証されないところでは、人間の権利(=人権、ヒューマン・ライト)が保証されているとは言えない。反対に人権の保証されていないところでは、女性の権利も保証されていないのだ」という言葉は、ヒラリーという女性を語る上では欠かせないものです。
国連の会議ということで、こうしたスピーチが行われることを想定していた当時の江沢民政権は、会議場の周囲から「デモ隊」を徹底的に排除していました。その異様ぶりも含めて、そしてそうした「人権のない状態」への告発を、そのど真ん中で行ったことで、ヒラリーはヒラリーとして少なくともアメリカ社会には認知を受けたのでした。
ミシェルという人は、そのヒラリーには「絶対に負ける訳にはいかない」はずです。ですから、みすみす「親中姿勢の演出」という道具に利用されて終わるはずはないのです。そのミシェルですが、早速21日には北京大学で講演して「この国では、インターネットのアクセス制限や、言論統制を止めるべきだ」と演説、正にヒラリーと同様に「その地に乗り込んで」強いメッセージを発信しはじめています。
勿論、北京大学としては「そんな話を聞いても動揺しない」学生だけをスクリーニングして参加させているのかもしれず、また演説の内容は国内では報道されていないのかもしれません。ですが、少なくともアメリカでは報道されているのです。
ヒラリーが北京滞在を契機として、中国に対して複雑なメッセージを出すようになっていったように、ミシェルも、そしておそらくは両親に似てその国の社会の「自由度」に敏感であるだろう娘たちも、「中国というのは完全に開かれた社会ではない」ということを理解していくでしょう。
その点において、今回の「ファーストレディの中国一週間滞在」という事件が「日本外し」の象徴であるような発想が、仮に出るようであれば、それは「被害妄想」であると思います。ミシェルは4月下旬には日本に来ると思いますが、改めて日本社会の開かれた姿を感じてもらえることと思います。
ただ、私には一点だけ懸念があります。中国は様々な意味でまだまだ開かれた社会ではないわけですが、女性の社会進出、女性の権利という点では、日本にはアドバンテージがないのです。それどころか、中国の方が改善している点が多々あるように思います。
4月の来日時にミシェルが同行して来るのであれば、あるいは仮にオバマ大統領単独である場合でも、この問題、つまり日本社会が女性の権利向上という点で遅れを取っていることには、率直な姿勢を見せつつ、改善への努力を真剣に行っているというメッセージを発信する必要があると思います。
現状では、女性の権利改善という問題は「富裕層、エリート層から」という歪んだ運動になっている傾向もあるわけで、そうした傾向への反省的な観点も安倍政権には期待したいと思います。