オランダのハーグで行われていた核安全保障サミットに関しては、同時に実現した日米韓の3カ国首脳会談のことばかりが話題になっていましたが、「本論」であるべき「核」に関しても、日本に関わる動きがありました。
日本の安倍政権は、東海村の実験装置の高濃縮ウランとプルトニウムをアメリカにすべて返還することで合意したのです。その一方で、これとは別に日本が大量にプルトニウムを保有していることへの批判が、各国の記者からの質問という形で安倍首相に向けられたという一幕もあったようです。
まず、基本的な問題として、どうして日本がプルトニウムを保有していることが国際社会で問題になるのでしょうか? これは、いわゆる核兵器保有5大国(=国連の常任理事国)「以外」で、核兵器に転用可能な大量のプルトニウムや濃縮ウランを「正式に」保有しているのは日本だけだからです。
この「正式に」というのは、IAEA(国際原子力機関)とNPT(核不拡散条約)、そして2カ国同士の原子力協定という枠組みの中で承認された形で保有しているという意味です。勿論、イラン、北朝鮮、イスラエル、パキスタン、インドといった「核不拡散の枠組み」から逸脱した存在として、プルトニウムもしくは濃縮ウランを持っている国はあるわけですが、そうではない、つまり「正式に」大量に持っているのは5大国以外では日本だけです。
では、どうして日本の場合は認められてきたのかというと、それは日本が「核燃料サイクル」を政策として決定し、国際社会に対して宣言して承認してもらっているからです。この核燃料サイクルというのは使用済み核燃料を再処理して得られるプルトニウムを、2つの方法でエネルギー源として「再利用」するという構想です。
一つは、MOX燃料と言って、濃縮ウランにプルトニウムを混ぜて、通常の原子炉で燃やすというもので、和製英語では「プルサーマル」と言われて既に実用化しています。もう一つは、プルトニウムを使った高速増殖炉という技術の実用化を目指した動きです。
ですが、現在の日本では、プルサーマルを含めた原発の再稼働には世論が大変に慎重になっています。また、高速増殖炉の実験炉「もんじゅ」に関しては周辺技術の運用ミスが重なる中で多くの批判を浴びているのが現状です。本当は冷却材にナトリウムを使った「もんじゅ」が失敗だとしても、冷却材をビスマスに変更して再設計することには十分に意義があるとは思うのですが、政治的には困難が伴うでしょう。
いずれにしても、日本の現状としてはプルトニウムを持っていても「使っていないじゃないか」ということになるわけです。そうなると、日本に対して批判をしたいと思えば「核兵器保有を企図している」という言い方が出来てしまうことになります。
では、今回の安倍政権の動きはどういう意味があるのかというと、とりあえずそうした海外の懸念を受け止めているというメッセージにはなったと思います。勿論、日本が核武装する懸念などというのは、根も葉もない話ですが、余計な批判を受けるような問題は抱えておかない方が良いわけです。
では、どうしてアメリカに処分を依頼するような形で「返却」したのでしょうか? また、その「返却」の申し出について、オバマ大統領はどうして大きく評価をしたのでしょうか? これだけのニュースを見ると「日本はアメリカの子分だから、危険なプルトニウムは親分のアメリカに返さなくてはならない」というニュアンスで受け止める向きも出てくるかもしれません。
ですが、それは違うと思います。
これは、アメリカのエネルギー政策の現状に沿った動きであり、日本がアメリカの子分であるから「プルトニウムを減らせ」とアメリカに言われているのでありません。なぜならば、アメリカ自身も保有しているプルトニウムを減らそうとしているのです。
例えば、先ほど申し上げた「MOX燃料」に関しては、アメリカは「プルサーマル機」の商用運転などの実用化はしていませんでした。ですが、長期的なエネルギー戦略の中で実用化を模索はしていたわけで、実際にサウスカロナイナ州で「MOX燃料工場」の建設プロジェクトがスタートしていたのですが、これを今年の3月に「中止」するという決定が出ています。
オバマ政権は、久々に原発の新設を認可して東芝=ウエスティングハウス社のAP1000という最新世代の原子炉によるジョージア州の発電所が着工されています。ですが、一方ではシェールオイルなどの産出が増える中で、一層のエネルギー自立、エネルギー多様化が進んでいます。そんな中、先進性はあっても当面の採算性の見通しのないMOXは断念するということになりました。
では、どうしてアメリカは日本にもエネルギー政策への同調を求めているのでしょうか? これは日米関係の中で、こうしたエネルギーや安全保障に関する重要な点では歩調を揃えたいということもありますが、もっと単純な話として「全世界のプルトニウム総量をとにかく減らしたい」という政策を推進しているからだと考えられます。
そんなわけで、少なくともアメリカは「親分だからいくらでもプルトニウムが持てる」一方で、日本は「子分だから不要なプルトニウムは手放さなくてはならない」というような非対称な話ではありません。
現在の国際社会では、核不拡散というのは大きなテーマであり、とりあえず中国もロシアも入った形で、IAEA=NPTの体制というものが機能しています。その一方で、北朝鮮やイランにおける核開発の動きがあり、また盗難によって核物質がテロリストの手に渡る危険性なども指摘されています。そのような危機意識の中で、今回の「核燃料の返却」という判断があったと理解できます。
日本の安倍政権は、東海村の実験装置の高濃縮ウランとプルトニウムをアメリカにすべて返還することで合意したのです。その一方で、これとは別に日本が大量にプルトニウムを保有していることへの批判が、各国の記者からの質問という形で安倍首相に向けられたという一幕もあったようです。
まず、基本的な問題として、どうして日本がプルトニウムを保有していることが国際社会で問題になるのでしょうか? これは、いわゆる核兵器保有5大国(=国連の常任理事国)「以外」で、核兵器に転用可能な大量のプルトニウムや濃縮ウランを「正式に」保有しているのは日本だけだからです。
この「正式に」というのは、IAEA(国際原子力機関)とNPT(核不拡散条約)、そして2カ国同士の原子力協定という枠組みの中で承認された形で保有しているという意味です。勿論、イラン、北朝鮮、イスラエル、パキスタン、インドといった「核不拡散の枠組み」から逸脱した存在として、プルトニウムもしくは濃縮ウランを持っている国はあるわけですが、そうではない、つまり「正式に」大量に持っているのは5大国以外では日本だけです。
では、どうして日本の場合は認められてきたのかというと、それは日本が「核燃料サイクル」を政策として決定し、国際社会に対して宣言して承認してもらっているからです。この核燃料サイクルというのは使用済み核燃料を再処理して得られるプルトニウムを、2つの方法でエネルギー源として「再利用」するという構想です。
一つは、MOX燃料と言って、濃縮ウランにプルトニウムを混ぜて、通常の原子炉で燃やすというもので、和製英語では「プルサーマル」と言われて既に実用化しています。もう一つは、プルトニウムを使った高速増殖炉という技術の実用化を目指した動きです。
ですが、現在の日本では、プルサーマルを含めた原発の再稼働には世論が大変に慎重になっています。また、高速増殖炉の実験炉「もんじゅ」に関しては周辺技術の運用ミスが重なる中で多くの批判を浴びているのが現状です。本当は冷却材にナトリウムを使った「もんじゅ」が失敗だとしても、冷却材をビスマスに変更して再設計することには十分に意義があるとは思うのですが、政治的には困難が伴うでしょう。
いずれにしても、日本の現状としてはプルトニウムを持っていても「使っていないじゃないか」ということになるわけです。そうなると、日本に対して批判をしたいと思えば「核兵器保有を企図している」という言い方が出来てしまうことになります。
では、今回の安倍政権の動きはどういう意味があるのかというと、とりあえずそうした海外の懸念を受け止めているというメッセージにはなったと思います。勿論、日本が核武装する懸念などというのは、根も葉もない話ですが、余計な批判を受けるような問題は抱えておかない方が良いわけです。
では、どうしてアメリカに処分を依頼するような形で「返却」したのでしょうか? また、その「返却」の申し出について、オバマ大統領はどうして大きく評価をしたのでしょうか? これだけのニュースを見ると「日本はアメリカの子分だから、危険なプルトニウムは親分のアメリカに返さなくてはならない」というニュアンスで受け止める向きも出てくるかもしれません。
ですが、それは違うと思います。
これは、アメリカのエネルギー政策の現状に沿った動きであり、日本がアメリカの子分であるから「プルトニウムを減らせ」とアメリカに言われているのでありません。なぜならば、アメリカ自身も保有しているプルトニウムを減らそうとしているのです。
例えば、先ほど申し上げた「MOX燃料」に関しては、アメリカは「プルサーマル機」の商用運転などの実用化はしていませんでした。ですが、長期的なエネルギー戦略の中で実用化を模索はしていたわけで、実際にサウスカロナイナ州で「MOX燃料工場」の建設プロジェクトがスタートしていたのですが、これを今年の3月に「中止」するという決定が出ています。
オバマ政権は、久々に原発の新設を認可して東芝=ウエスティングハウス社のAP1000という最新世代の原子炉によるジョージア州の発電所が着工されています。ですが、一方ではシェールオイルなどの産出が増える中で、一層のエネルギー自立、エネルギー多様化が進んでいます。そんな中、先進性はあっても当面の採算性の見通しのないMOXは断念するということになりました。
では、どうしてアメリカは日本にもエネルギー政策への同調を求めているのでしょうか? これは日米関係の中で、こうしたエネルギーや安全保障に関する重要な点では歩調を揃えたいということもありますが、もっと単純な話として「全世界のプルトニウム総量をとにかく減らしたい」という政策を推進しているからだと考えられます。
そんなわけで、少なくともアメリカは「親分だからいくらでもプルトニウムが持てる」一方で、日本は「子分だから不要なプルトニウムは手放さなくてはならない」というような非対称な話ではありません。
現在の国際社会では、核不拡散というのは大きなテーマであり、とりあえず中国もロシアも入った形で、IAEA=NPTの体制というものが機能しています。その一方で、北朝鮮やイランにおける核開発の動きがあり、また盗難によって核物質がテロリストの手に渡る危険性なども指摘されています。そのような危機意識の中で、今回の「核燃料の返却」という判断があったと理解できます。