(4月22日掲載の「アメリカなき世界に迫る混沌の時代【前編】」から続く)
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領に、ロシア陣営にとどまるよう激しい圧力をかけている。そのためヤヌコビッチは、EU(欧州連合)との連携を強める「連合協定」の調印を見送った。しかし国民の多くは協定を支持。04年のオレンジ革命を思わせる大規模な抗議行動を起こした。
アメリカなき世界で最も危険な事態に陥るのはアジアだろう。中国、日本、韓国、台湾が数十年にわたり競い合う地域で、くすぶる領有権問題が戦火を起こしかねない。火種の1つは南シナ海における中国の好戦的な姿勢。もっと深刻なのは、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を主張する中国と日本の対立だ。13年11月、中国が東シナ海上空に日本のものと重なる防空識別圏(ADIZ)を新たに設定し、紛争の不安が高まった。
アメリカの安全保障の傘のおかげで何十年もの間、アジア主要国間の不和は休眠状態にあった。アメリカがいなければ、アジアはとうの昔に破滅的な軍拡競争に突入していただろう。実際、今回の中国の挑発行為には国内問題で手いっぱいのアメリカを試す意図がありそうだ。
オバマのうたうアジア重視戦略は今のところ中途半端な状況にある。しかし領有権をめぐる緊張を背景に、2014年にはその立て直しを図るだろう。14年4月にオバマがアジアを歴訪する際は、同盟国である日本と韓国の懸案事項を優先議題にすることが期待される。
冷戦時代は単純だった
アジア以外でも14年は騒然とした年になりそうだ。各地で選挙が行われ、世界人口の約40%が投票をする。ブラジルやチリ、ギリシャ、マレーシア、タイ、トルコを揺るがしたような中間層による抗議デモが世界各地で起き、政府を試練にさらすだろう。北アフリカと中東の広い範囲ではアラブの春の余震が続く。エジプトやリビア、チュニジアの暫定政府は権力の確立に苦労し、シリアの恐ろしい人道危機は収まりそうもない。
一方、アメリカ国内は平穏だ。オバマは退任間近の時期に入り、支持率も民主党をまとめる力も低下している。民主党は14年の上下両院選挙で、負けをどこまで抑えられるかが試されるはずだ。第二次大戦以降、大統領在任6年目の中間選挙で政権与党は平均して下院で29座席、上院で約6議席を失っている。
アメリカが外国で新たな冒険を始めることもないだろう。オバマにとって14年の最優先事項は世界に対するアメリカの関与の縮小だ。具体的にはアフガニスタンから米軍を撤退させ、解決不能な問題を抱える中東から距離を置くことだ。
過去10年、アメリカの他国への介入がさまざまな結果を生んだことを考えれば、それを避けようとするのも理解できる。10年以上にわたるアフガニスタンとイラクにおける戦闘で多大な国費を使ったと、アメリカ国民は感じている。テロなどの予測不能な攻撃を受けないためにアメリカは世界の舞台から遠ざかり、喜んで傍観者となるだろう。
しかし少なくとも冷戦以前からの数十年で、今ほど世界的な騒乱の危機にあったことはない。アメリカなき世界では、混乱の可能性は飛躍的に高まる。アメリカは困難から逃げるのか対処しようとするのか、その問いに答えるのはアメリカ人自身だ。
なぜ世界の主導的役割を果たすべきかをアメリカ国民に説明することは、以前ほど簡単ではない。ソ連の脅威を喧伝できた冷戦時代はもっと単純だった。
アメリカのある世界、なき世界はあらかじめ決められたものではなく、選択の問題だ。アメリカがこの単純な真実を思い出し、そして他の国々がそれを受け入れるのに新たな悲劇を必要としなければいいのだが。
[2013.12.31号掲載]
★ウィリアム・ドブソン(スレート誌政治・外交担当エディター)
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領に、ロシア陣営にとどまるよう激しい圧力をかけている。そのためヤヌコビッチは、EU(欧州連合)との連携を強める「連合協定」の調印を見送った。しかし国民の多くは協定を支持。04年のオレンジ革命を思わせる大規模な抗議行動を起こした。
アメリカなき世界で最も危険な事態に陥るのはアジアだろう。中国、日本、韓国、台湾が数十年にわたり競い合う地域で、くすぶる領有権問題が戦火を起こしかねない。火種の1つは南シナ海における中国の好戦的な姿勢。もっと深刻なのは、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権を主張する中国と日本の対立だ。13年11月、中国が東シナ海上空に日本のものと重なる防空識別圏(ADIZ)を新たに設定し、紛争の不安が高まった。
アメリカの安全保障の傘のおかげで何十年もの間、アジア主要国間の不和は休眠状態にあった。アメリカがいなければ、アジアはとうの昔に破滅的な軍拡競争に突入していただろう。実際、今回の中国の挑発行為には国内問題で手いっぱいのアメリカを試す意図がありそうだ。
オバマのうたうアジア重視戦略は今のところ中途半端な状況にある。しかし領有権をめぐる緊張を背景に、2014年にはその立て直しを図るだろう。14年4月にオバマがアジアを歴訪する際は、同盟国である日本と韓国の懸案事項を優先議題にすることが期待される。
冷戦時代は単純だった
アジア以外でも14年は騒然とした年になりそうだ。各地で選挙が行われ、世界人口の約40%が投票をする。ブラジルやチリ、ギリシャ、マレーシア、タイ、トルコを揺るがしたような中間層による抗議デモが世界各地で起き、政府を試練にさらすだろう。北アフリカと中東の広い範囲ではアラブの春の余震が続く。エジプトやリビア、チュニジアの暫定政府は権力の確立に苦労し、シリアの恐ろしい人道危機は収まりそうもない。
一方、アメリカ国内は平穏だ。オバマは退任間近の時期に入り、支持率も民主党をまとめる力も低下している。民主党は14年の上下両院選挙で、負けをどこまで抑えられるかが試されるはずだ。第二次大戦以降、大統領在任6年目の中間選挙で政権与党は平均して下院で29座席、上院で約6議席を失っている。
アメリカが外国で新たな冒険を始めることもないだろう。オバマにとって14年の最優先事項は世界に対するアメリカの関与の縮小だ。具体的にはアフガニスタンから米軍を撤退させ、解決不能な問題を抱える中東から距離を置くことだ。
過去10年、アメリカの他国への介入がさまざまな結果を生んだことを考えれば、それを避けようとするのも理解できる。10年以上にわたるアフガニスタンとイラクにおける戦闘で多大な国費を使ったと、アメリカ国民は感じている。テロなどの予測不能な攻撃を受けないためにアメリカは世界の舞台から遠ざかり、喜んで傍観者となるだろう。
しかし少なくとも冷戦以前からの数十年で、今ほど世界的な騒乱の危機にあったことはない。アメリカなき世界では、混乱の可能性は飛躍的に高まる。アメリカは困難から逃げるのか対処しようとするのか、その問いに答えるのはアメリカ人自身だ。
なぜ世界の主導的役割を果たすべきかをアメリカ国民に説明することは、以前ほど簡単ではない。ソ連の脅威を喧伝できた冷戦時代はもっと単純だった。
アメリカのある世界、なき世界はあらかじめ決められたものではなく、選択の問題だ。アメリカがこの単純な真実を思い出し、そして他の国々がそれを受け入れるのに新たな悲劇を必要としなければいいのだが。
[2013.12.31号掲載]
★ウィリアム・ドブソン(スレート誌政治・外交担当エディター)