共和党のエリック・カンター議員(下院、バージニア7区選出)といえば、2001年の初当選以来、当選7回を重ねる中で、下院共和党のリーダーとして順調に上り詰め、現在は「多数党院内総務」という「下院議長」に次ぐナンバー2のポジションにいます。
そのカンター議員は、数々の難しい与野党交渉におけるキー・パーソンとして「ねじれ議会」におけるホワイトハウスとの合意形成に大きな役割を果たしてきました。現在のベイナー下院議長は、やがて近い将来にはカンター議員に下院議長職を禅譲するという見方もされていたのです。
ですが、そのカンター議員の政治的パワーは一瞬のうちに消えてしまいました。10日(火)に行われたバージニア7区の予備選で、全く無名の「ティーパーティー系」のデビット・ブラット候補に、得票率55%対45%で完敗を喫してしまったのです。この結果によって、カンター氏は今回の中間選挙への出馬は不可能となりました。
勝ったデビット・ブラット候補というのは、大学の経済学の教師ですが「全く無名」であり、「選挙資金も零細」という中での番狂わせでした。
現職の「下院多数党院内総務」が予備選で負けるというのは、アメリカの憲政史上で言うと前代未聞というのですから大変です。任期は来年まであるカンター氏ですが、この事態を受けて「院内総務辞任」を表明。来月7月の末で、この職から去ることになりました。
アメリカ全国で、この問題の衝撃はまだ収まっておらず、様々な政治評論家やブロガーが「ここぞ」とばかりに色々な見解を書きまくり、喋りまくっています。そんな中で、現時点で私なりに整理をしてみたのが、以下のような理解です。
(1)異常な予備選でした。とにかく投票率が低かったのです。55%対45%というと大差に見えますが、投票率は10%台でした。人口70万の選挙区で、投票総数は6万5000。カンター候補は前回の総選挙では22万票取っているのですが、今回の予備選では2万9000票に過ぎなかったのです。ちなみに、バージニアは完全な「オープン・プライマリー」で党員登録はなく、誰でも双方の政党の予備選に投票できるという条件下での結果です。その結果がこの異常な低投票率です。
(2)では、どうして中道層やカンター支持票が投票所に来なかったのでしょう。それは、カンター候補の選挙戦術の失敗というテクニカルな問題があったようです。「ウチの選挙区はどうせカンターで決まりだから、本選では彼に入れるけど、忙しいから予備選は行かなくてもいいや」的な行動を多くの有権者が取ったことが指摘されています。
(3)世論調査の問題もあります。直前の調査でもカンター候補は65%とか58%という優勢が伝えられる中、陣営にも支持者にも慢心があったようです。
(4)カンター候補はそれでも潤沢な選挙資金を使ってTV広告なども打っていたのですが、「ブラット候補を叩くネガティブ・キャンペーン」を行ったことで、全く無名のバート候補の「知名度アップに手を貸した」という結果になったということもあるようです。
(5)これで、「与野党合意のネゴシエーター」が消えてしまい、米政局の混迷が深刻化しそうです。特に「不法移民の合法化法案」は、カンター候補の奔走により可能性が出てきていたのですが、今回の予備選では「カンターの移民容認政策を許すな」というスローガンを掲げたブラット氏が勝ったこともあり、一気にこの問題は暗礁に乗り上げた格好になります。
(6)不法移民問題に関しては、カンター氏の調整により「共和党内も穏健論に」なってきたトレンドがあり、その上で共和党内で「合法化賛成」という立場を代表してきたマルコ・ルビオ上院議員であるとか、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(ジョージ・W・ブッシュ元大統領の弟)などへの「大統領選への待望論」があったわけです。少なくとも、この動きには大きな影響があるでしょう。
(7)では、ここのところ勢いが消え「もう政治的には死んだ」と言われていた「ティーパーティー」が復権していくのでしょうか? 確かに今回は「大きな政府反対、大企業への優遇反対」を叫んだブラット候補が勝ったわけですが、これが全国的な政治のトレンドにおいて「テイーパーティーの逆襲」の兆候になるかは、全く分かりません。
(8)これで共和党の内紛が深まったとして、民主党、特に今週本を出して「大統領選への事実上の始動体制」に入ったヒラリー・クリントンなどには有利に働くのでしょうか? 必ずしもそうではないという見方があり、私もそう思います。今回の「大逆転」の背景にあるのは、ワシントンの現状への「形にならない不満」であり、その攻撃対象には「共和党のベテラン議員たち」も「オバマ大統領」も等しく入ってくる中で、ヒラリーという人も「閉塞した現状を作った張本人」と見られているからです。
(9)おそらく、今回の驚愕すべき選挙結果が示しているものがあるとすれば、そうした「ハッキリしない不満感、閉塞感」であると思います。仮に今後の政局の中で、共和党にしても民主党にしても「全く新しいタイプの新鮮なキャラクター」が登場した時には、一気にその人物が勢力をつかむ、そんな予兆のようなものを感じるのです。
(10)その「新鮮な何か」に関して言えば、おそらくは「より財政を健全化へ」という方向性に加えて、「より孤立主義的な、よりアメリカ以外のトラブルには関わりたくない」という方向性を内包したものになりそうです。
いずれにしても今回の「カンター落選」の衝撃波は、11月の中間選挙へ向けた政局を大きく揺さぶるだけでなく、2016年の大統領選の行方にも影響を与えそうです。
そのカンター議員は、数々の難しい与野党交渉におけるキー・パーソンとして「ねじれ議会」におけるホワイトハウスとの合意形成に大きな役割を果たしてきました。現在のベイナー下院議長は、やがて近い将来にはカンター議員に下院議長職を禅譲するという見方もされていたのです。
ですが、そのカンター議員の政治的パワーは一瞬のうちに消えてしまいました。10日(火)に行われたバージニア7区の予備選で、全く無名の「ティーパーティー系」のデビット・ブラット候補に、得票率55%対45%で完敗を喫してしまったのです。この結果によって、カンター氏は今回の中間選挙への出馬は不可能となりました。
勝ったデビット・ブラット候補というのは、大学の経済学の教師ですが「全く無名」であり、「選挙資金も零細」という中での番狂わせでした。
現職の「下院多数党院内総務」が予備選で負けるというのは、アメリカの憲政史上で言うと前代未聞というのですから大変です。任期は来年まであるカンター氏ですが、この事態を受けて「院内総務辞任」を表明。来月7月の末で、この職から去ることになりました。
アメリカ全国で、この問題の衝撃はまだ収まっておらず、様々な政治評論家やブロガーが「ここぞ」とばかりに色々な見解を書きまくり、喋りまくっています。そんな中で、現時点で私なりに整理をしてみたのが、以下のような理解です。
(1)異常な予備選でした。とにかく投票率が低かったのです。55%対45%というと大差に見えますが、投票率は10%台でした。人口70万の選挙区で、投票総数は6万5000。カンター候補は前回の総選挙では22万票取っているのですが、今回の予備選では2万9000票に過ぎなかったのです。ちなみに、バージニアは完全な「オープン・プライマリー」で党員登録はなく、誰でも双方の政党の予備選に投票できるという条件下での結果です。その結果がこの異常な低投票率です。
(2)では、どうして中道層やカンター支持票が投票所に来なかったのでしょう。それは、カンター候補の選挙戦術の失敗というテクニカルな問題があったようです。「ウチの選挙区はどうせカンターで決まりだから、本選では彼に入れるけど、忙しいから予備選は行かなくてもいいや」的な行動を多くの有権者が取ったことが指摘されています。
(3)世論調査の問題もあります。直前の調査でもカンター候補は65%とか58%という優勢が伝えられる中、陣営にも支持者にも慢心があったようです。
(4)カンター候補はそれでも潤沢な選挙資金を使ってTV広告なども打っていたのですが、「ブラット候補を叩くネガティブ・キャンペーン」を行ったことで、全く無名のバート候補の「知名度アップに手を貸した」という結果になったということもあるようです。
(5)これで、「与野党合意のネゴシエーター」が消えてしまい、米政局の混迷が深刻化しそうです。特に「不法移民の合法化法案」は、カンター候補の奔走により可能性が出てきていたのですが、今回の予備選では「カンターの移民容認政策を許すな」というスローガンを掲げたブラット氏が勝ったこともあり、一気にこの問題は暗礁に乗り上げた格好になります。
(6)不法移民問題に関しては、カンター氏の調整により「共和党内も穏健論に」なってきたトレンドがあり、その上で共和党内で「合法化賛成」という立場を代表してきたマルコ・ルビオ上院議員であるとか、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(ジョージ・W・ブッシュ元大統領の弟)などへの「大統領選への待望論」があったわけです。少なくとも、この動きには大きな影響があるでしょう。
(7)では、ここのところ勢いが消え「もう政治的には死んだ」と言われていた「ティーパーティー」が復権していくのでしょうか? 確かに今回は「大きな政府反対、大企業への優遇反対」を叫んだブラット候補が勝ったわけですが、これが全国的な政治のトレンドにおいて「テイーパーティーの逆襲」の兆候になるかは、全く分かりません。
(8)これで共和党の内紛が深まったとして、民主党、特に今週本を出して「大統領選への事実上の始動体制」に入ったヒラリー・クリントンなどには有利に働くのでしょうか? 必ずしもそうではないという見方があり、私もそう思います。今回の「大逆転」の背景にあるのは、ワシントンの現状への「形にならない不満」であり、その攻撃対象には「共和党のベテラン議員たち」も「オバマ大統領」も等しく入ってくる中で、ヒラリーという人も「閉塞した現状を作った張本人」と見られているからです。
(9)おそらく、今回の驚愕すべき選挙結果が示しているものがあるとすれば、そうした「ハッキリしない不満感、閉塞感」であると思います。仮に今後の政局の中で、共和党にしても民主党にしても「全く新しいタイプの新鮮なキャラクター」が登場した時には、一気にその人物が勢力をつかむ、そんな予兆のようなものを感じるのです。
(10)その「新鮮な何か」に関して言えば、おそらくは「より財政を健全化へ」という方向性に加えて、「より孤立主義的な、よりアメリカ以外のトラブルには関わりたくない」という方向性を内包したものになりそうです。
いずれにしても今回の「カンター落選」の衝撃波は、11月の中間選挙へ向けた政局を大きく揺さぶるだけでなく、2016年の大統領選の行方にも影響を与えそうです。