中国の李克強首相がイギリスを訪問しています。これに先立って、中国サイドから李首相のエリザベス女王との面会要求があり、「応じないなら訪問を中止する」という圧力を加えていたという報道がありました。
この「事件」ですが、色々な解説がされているようです。例えば、そのイギリスのキャメロン首相が、2012年にチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と会談したことに対して、中国当局は報復としてキャメロン首相が訪中した際に、李首相が「会食をキャンセル」するという嫌がらせをしていたとか、その流れで、今回もキャメロン首相に対して圧力をかけようとしているといった報道もあります。
また、最近では国家元首ではないドイツのメルケル首相が女王に面会しているという例があり、メルケル氏が面会できるのなら、李首相も面会できるだろうという「メンツの問題」があるという説もあります。
ですが、私は少し違う見方をしています。というのは、似たような事件があったからです。
それは2009年の事件です。中国政府は習近平副主席(当時)の訪日に際して天皇陛下との会見を求めていました。日本の外務省は中国政府に対して早く申請を行うよう促したのですが、慣例とされていた30日前までの申請はされませんでした。
ですが、最終的に中国からは直前に要請があり、例外的な対応として天皇陛下は習近平氏との会見を行っています。この際に、例外的な対応に難色を示した羽毛田宮内庁長官(当時)と、中国の意向を汲んだ鳩山由紀夫首相、小沢一郎民主党幹事長(いずれも当時)との間に対立があったと報じられました。
この2つの事件は類似しています。いずれも、外交慣例にやや反するようにして「国家元首格でない中国の政治家が、外国の国家元首格の君主に対して面会をするように、ゴリ押し的な要請」をしているということが共通しています。
では、中国という国はそのような「恫喝的な外交」で外交面でのパワーを見せつける、そのような行動を「一貫した国家意志」としているのでしょうか? また、そのような「振る舞い」が中国の外交力を高めると信じているのでしょうか?
私はそうは思いません。
では、どうして「ゴリ押し」的な外交が目立つのでしょうか? そこには2つの要素があると思います。
1つは、何らかの派閥的な「内部の政治力学」が動いている、そんな匂いがします。例えば、李克強首相の場合は、共産主義青年団という派閥の出身であるとされます。仮にその共青団のメンバーが、外交の実務レベルにいたとして、李首相が「私でもエリザベス女王に面会できるだろうか?」と尋ねたとします。そうした場合には、派閥のボスに忠誠を誓うということが、担当者に取っては国益よりも、省益よりも優先する、そんな心理が働いて、外から見れば「ゴリ押し」という行動になるのかもしれません。
2009年の習近平氏の日本に対する対応も同様です。「自分はまだ次期主席という存在だが、ここで日本の天皇に面会しておけばハクが付くというのは本当か?」と習氏が尋ねたところ、出身派閥である太子党の外務官僚が「ここぞ」とばかりに思い切り「頑張ってしまった」ということなのかもしれません。
もう1つは、他でもないこの習近平氏と、李克強氏の間に権力闘争があるという見方です。当人同士は国家主席と首相という職責を淡々とこなしているだけかもしれませんが、両者の間には派閥抗争のメカニズムを背景とした確執があるという見方もあります。
更に言えば、経済の近代化へ向けて厳しく引き締めようという李首相と、問題を先送りしようという習主席の間には、政策面での綱引きがあるという見方もあります。それは正に綱引きであり、両者が対立することで現在の中国経済の均衡が保たれているという見方も可能かもしれません。
そう考えてみると、2009年に習近平氏が天皇会見にこだわったのと、今回李首相が女王面会にこだわったのは、相互に政治的な権威を誇示するためには、必要であったという可能性もあるわけです。
ちなみに、既にイギリスに到着している李首相に関して、BBC(電子版)は記事としては人権問題などについて厳しいことも書いていますが、記事内の李首相の紹介では笑顔の写真を使用しており、キャメロン首相との「ツーショット」も双方笑顔の友好ムードのものを使っています。イギリスとしては、国家のインフラ整備に関して、依然として中国マネーの投資を期待する、それが今回の首脳会談のテーマであることに変わりはないようです。
一方で、アメリカの各メディアは、この「面会強要事件」に関しては、ほとんど取り上げていません。今日のアメリカは、8月上旬に米証券市場への上場が予想される中国IT業界の巨人「アリババ・グループ」に関して、第二弾の上場目論見書が公開されたところ、業績予想がやや低めに修正されたのを嫌気して、関連の株が下げています。
いずれにしても、イギリスもアメリカも、中国の動向に関しては非常に神経を使っています。同時に経済的な関係に関しては成果が出るのなら、その成果を実現したいという点では、決して後ろ向きではありません。その辺の複雑で微妙なニュアンスの中に、現在の英中関係、米中関係があるように思います。
この「事件」ですが、色々な解説がされているようです。例えば、そのイギリスのキャメロン首相が、2012年にチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と会談したことに対して、中国当局は報復としてキャメロン首相が訪中した際に、李首相が「会食をキャンセル」するという嫌がらせをしていたとか、その流れで、今回もキャメロン首相に対して圧力をかけようとしているといった報道もあります。
また、最近では国家元首ではないドイツのメルケル首相が女王に面会しているという例があり、メルケル氏が面会できるのなら、李首相も面会できるだろうという「メンツの問題」があるという説もあります。
ですが、私は少し違う見方をしています。というのは、似たような事件があったからです。
それは2009年の事件です。中国政府は習近平副主席(当時)の訪日に際して天皇陛下との会見を求めていました。日本の外務省は中国政府に対して早く申請を行うよう促したのですが、慣例とされていた30日前までの申請はされませんでした。
ですが、最終的に中国からは直前に要請があり、例外的な対応として天皇陛下は習近平氏との会見を行っています。この際に、例外的な対応に難色を示した羽毛田宮内庁長官(当時)と、中国の意向を汲んだ鳩山由紀夫首相、小沢一郎民主党幹事長(いずれも当時)との間に対立があったと報じられました。
この2つの事件は類似しています。いずれも、外交慣例にやや反するようにして「国家元首格でない中国の政治家が、外国の国家元首格の君主に対して面会をするように、ゴリ押し的な要請」をしているということが共通しています。
では、中国という国はそのような「恫喝的な外交」で外交面でのパワーを見せつける、そのような行動を「一貫した国家意志」としているのでしょうか? また、そのような「振る舞い」が中国の外交力を高めると信じているのでしょうか?
私はそうは思いません。
では、どうして「ゴリ押し」的な外交が目立つのでしょうか? そこには2つの要素があると思います。
1つは、何らかの派閥的な「内部の政治力学」が動いている、そんな匂いがします。例えば、李克強首相の場合は、共産主義青年団という派閥の出身であるとされます。仮にその共青団のメンバーが、外交の実務レベルにいたとして、李首相が「私でもエリザベス女王に面会できるだろうか?」と尋ねたとします。そうした場合には、派閥のボスに忠誠を誓うということが、担当者に取っては国益よりも、省益よりも優先する、そんな心理が働いて、外から見れば「ゴリ押し」という行動になるのかもしれません。
2009年の習近平氏の日本に対する対応も同様です。「自分はまだ次期主席という存在だが、ここで日本の天皇に面会しておけばハクが付くというのは本当か?」と習氏が尋ねたところ、出身派閥である太子党の外務官僚が「ここぞ」とばかりに思い切り「頑張ってしまった」ということなのかもしれません。
もう1つは、他でもないこの習近平氏と、李克強氏の間に権力闘争があるという見方です。当人同士は国家主席と首相という職責を淡々とこなしているだけかもしれませんが、両者の間には派閥抗争のメカニズムを背景とした確執があるという見方もあります。
更に言えば、経済の近代化へ向けて厳しく引き締めようという李首相と、問題を先送りしようという習主席の間には、政策面での綱引きがあるという見方もあります。それは正に綱引きであり、両者が対立することで現在の中国経済の均衡が保たれているという見方も可能かもしれません。
そう考えてみると、2009年に習近平氏が天皇会見にこだわったのと、今回李首相が女王面会にこだわったのは、相互に政治的な権威を誇示するためには、必要であったという可能性もあるわけです。
ちなみに、既にイギリスに到着している李首相に関して、BBC(電子版)は記事としては人権問題などについて厳しいことも書いていますが、記事内の李首相の紹介では笑顔の写真を使用しており、キャメロン首相との「ツーショット」も双方笑顔の友好ムードのものを使っています。イギリスとしては、国家のインフラ整備に関して、依然として中国マネーの投資を期待する、それが今回の首脳会談のテーマであることに変わりはないようです。
一方で、アメリカの各メディアは、この「面会強要事件」に関しては、ほとんど取り上げていません。今日のアメリカは、8月上旬に米証券市場への上場が予想される中国IT業界の巨人「アリババ・グループ」に関して、第二弾の上場目論見書が公開されたところ、業績予想がやや低めに修正されたのを嫌気して、関連の株が下げています。
いずれにしても、イギリスもアメリカも、中国の動向に関しては非常に神経を使っています。同時に経済的な関係に関しては成果が出るのなら、その成果を実現したいという点では、決して後ろ向きではありません。その辺の複雑で微妙なニュアンスの中に、現在の英中関係、米中関係があるように思います。