Infoseek 楽天

ブラジルから見た「ここがヘンだよ日本人」 - 森田浩之 ブラジルW杯「退屈」日記

ニューズウィーク日本版 2014年6月19日 15時53分

 日本代表が第2戦を戦うナタルにいる。空港から市内へ向かう道沿いにはヤシの木が茂っていた。風景も、気温も湿度も、まさに熱帯のそれである。

 ブラジルに来た当初の緊張がほぐれてきたのは、さまざまな景色を目にしたおかげもあるだろう。リオデジャネイロでは貧しい地域にも、豊かでおしゃれなエリアにも行った。ニューヨークに雰囲気が似ている中心部も歩いた。そして今度は熱帯だ。黒いヤギが列をなして道を歩いていたりする。何でもありのブラジルに、いやでも目と体が慣れてくる。

 そんなふうにいくらかブラジル化した頭でワールドカップ関連の日本のニュースを見聞きすると、大きな違和感をおぼえるものが多い。たとえば──

●「ごみ拾いをする日本人を世界が称賛」という話をテレビで延々とやっている

 テレビがこの話を取り上げすぎていると思うかどうかは、もちろん人によって差があるだろう。でも日本が第1戦に負けた後のメディアは「スタンドでごみ拾いをする日本人サポーターの話一色」と表現している人もいて、そう感じられる空気は何だか嫌だなと思う。

 ごみを拾う日本人サポーターは、日本代表がワールドカップに初出場した1998年のフランス大会のときにも海外でずいぶん話題になった。ただし当時の報道は「おい見てみろよ、あいつらスタンドのごみを拾ってるぞ!」という、珍種の動物を見つけたようなトーンだった。日本のメディアが「日本人のマナーのよさが世界にほめられました」と盛んに言っていた記憶もない。初出場だったから、もっとほかのことに焦点が向けられていたのか。

 誤解しないでほしいのだが、スタンドでごみ拾いをすることがおかしいと言っているわけではない(ただ、僕自身はやらなかったし、これからもやらないだろう)。むしろ違和感をおぼえるのは、ごみ拾いをしたサポーターのことをやたらと取り上げているというメディアのほうだ。そういうことで「世界」にほめられたといって喜ぶ時代は、もうとっくに過ぎたのではないか。

●官房長官が「W杯での邦人被害は8件」と発表

 僕が見たネット上の記事によれば、官房長官が強盗やひったくりなど計8件が発生していると発表したという。被害にあった方々にはお気の毒としか言いようがないが、果たして政府が件数を集計して「8件」と発表する必要があるのだろうか。そもそも、なんで数えるのだろう?

 メディアからの要請があるためだろうか。日本のメディアは大会期間中のブラジルでの犯罪を、どんなものでも日本人に関連づけて報じたがっているように見える。驚いた記事のひとつが「日本戦開催地のクイアバで暴行事件 米国人女性が被害に」というもの。日本戦の当日に事件が起きたのならまだしも、クイアバで試合が行われるのは10日以上も先だったから、無理やり日本にこじつけて書いているという印象だけが残った。

 なぜそんなひねりまで加えて、「ブラジルは怖い場所」というイメージをつくり上げたいのだろう。僕はこちらに来て、ブラジルの人たちがとてもやさしくて親切なことに驚いているのだが。



●日本が負けても渋谷の交差点は大騒ぎ

 今までサッカーがらみで渋谷のスクランブル交差点が大騒ぎになっていたのは、日本が勝ったからではないということがこれでわかった。じゃあ、あの騒ぎはいったいなぜ起きていたのだろう? 単なる祭りなのか、何かを発散する場なのか、メディアが取材に来るとわかっているから集まっているだけなのか。

 もしギリシャに勝てなかったら、日本代表にとってのワールドカップは事実上終わってしまう。それでも渋谷では、また若者たちがハイタッチを繰り返すのだろうか。

 ひとつ言えるのは、1次リーグでの敗退が決まったスペインや、あるいはブラジルやイングランドだったら、代表が負けて人々があんなふうに騒ぐなんてありえないということだ。べつにスペインやブラジルやイングランドのように振る舞わなくてはならない理由はないが、負けたらしょげるのが普通といえば普通だろう。

 普通ではないことが起こっているのは、なぜだろう。日本人が幸せだからか。それとも、その逆だからだろうか。

 この点だけは、ブラジルにいても日本にいても、すぐにはわかりそうにない。

この記事の関連ニュース