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現代日本で「大家族化」は可能なのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2014年7月22日 11時14分

 安倍首相は先週山口県で行った講演で、少子化対策の一環として「核家族化が進んだ現代、大家族を再びよみがえらせることは並大抵のことではない」とした上で、「大家族で支え合う価値を社会全体で改めて確認すべきだ。大家族を評価するような制度改革を議論すべきだ」と表明したそうです。同時に「第3子以降への手厚い補助」という構想も打ち出しました。

 かなり保守的なムードのする政策提案ですが、仮に大家族でも構わないという若い人々がいて、実際に大家族が機能する風土があるのであれば、別に反対する必要もないと思います。つまり三世代以上が同居ないし、同一敷地内や近所に住むなどして祖父母が子育ての一部を担うことが機能するのであれば、そして機能するような制度を作ってそれが効果を発揮するのであれば、それはそれで良いと思います。

 確かに統計資料を見ても、例えば福井県などは「三世帯同居」と「共稼ぎ」の数字が全国でもトップクラスであり、その結果として女性の高い就業率と高い出生率を実現しています。福井の成功事例について、全国の他の地域に広めることができれば、少子化対策として何らかの成果につながるかもしれません。

 ですが、福井の事例を良く見ていくと、そう簡単ではないことが分かります。まず、地場産業として繊維産業があり、歴史的に女性の雇用が安定していたこと、育休や育児支援の制度が機能していたといった背景があります。また、富山県に次いで平均的な住宅の床面積が広く、各家庭に三世代同居が可能なインフラがあるという強みもあります。

 これは大変に特殊な条件です。反対に言えば、東京、大阪、名古屋、仙台、札幌、福岡といった大都市圏では成立が難しい話です。住宅の問題一つとっても、三世代同居に加えて、第3子ということになると、まず条件的に非常に困難であろうと思います。

 加えて、一つの「世代の年数」が拡大しているという問題があります。現在は、団塊二世が出産年齢の最後に差し掛かっている、つまりは幼稚園から小学生の子育て年齢になっています。ここでの「子どもと親の年齢差=1世代の年数」というのは35~40前後に拡大しています。そしてその子供の祖父母、つまり団塊一世と、その子の年齢差(1世代の年齢)というのは、おそらくは30弱~35でしょう。ちなみに、親の年齢というのは夫婦の平均で考えています。



 これに加えて、第3子は第1子と比較すると、普通の場合は年齢で4歳は離れることになります。ということは、これからの政策によって「三世代同居+第3子」を奨励したとして、その第3子と「おじいちゃん、おばあちゃん」の年齢差は大雑把に見積もって「33+37+4=74」ということになります。

 ということは、幼稚園の年長で「おじいちゃん、おばあちゃん」が79、小学校に上がる頃で80、中学に進む頃には86という年齢になります。つまり、年齢が離れすぎているのです。小さな子供をケアするには、祖父母の方はかなり体力が落ちてきている年齢であり、その次の段階として例えば祖父母をケアするには、子供の方は心構えとしても注意力のうえでも幼すぎます。

 もちろん祖父母が衰えたとして、そのケアは第3子ではなく長兄なり長姉が行うのであれば、年齢差は「マイナス4」の「70」になりますが、やはり85歳を越えた祖父母世代と、15歳かあるいはそれより若い孫の世代が相互にケアをしている、その間の現役世代は夫婦で共稼ぎという構図は、かなりムリがあるのではないかと思います。

 祖父母世代と孫の世代の年齢差が60前後であれば、孫が手のかかる幼い時期には、祖父母はケアをするだけの十分な体力があると思いますし、また祖父母がケアを必要とする頃には、孫世代は高校生になっていて精神的にも体力的にも「愛情の恩返し」ができる可能性が高いでしょう。ですが、年齢差が74~75以上になると、三世代同居のメリットが機能する年数は非常に短くなる危険があります。

 そうなると、結局は現役世代が、高齢な親のケアと、幼い子どものケアの双方を背負う形となり、夫婦での社会貢献や経済活動は限定されてしまうと思います。

 ということであれば、改めて親の元気なうち、つまり自分の年齢として20代のうちに2人も3人も産んでおく、そうして祖父母との年齢差が開かないようにしておいて、現役世代は三世代同居のメリットを享受して社会で活動するという方向に持っていかないといけないでしょう。



 その場合、親の方はキャリア形成ができないうちに産休や育休を何度も取ると、生涯賃金が下がるという問題もあります。また、そのような事情もあって実際の出産トレンドに関しては高年齢化が進んでおり、この流れを逆転させるのは大変に難しいと思います。

 問題はそれだけではありません。孫と祖父母世代の年齢差を縮めることができて60前後になっても、これからの社会では孫が乳幼児の段階では祖父母世代がまだ仕事を辞められない可能性が高くなります。つまり年金受給年齢が繰り下がっていくことで、まだまだ現役世代になるからです。これでは孫のケアはフルタイムではできません。

 そう考えれば、思想的に保守的だとか、福井や富山のような大きな家が必要だとかいう以前に、三世代同居の「大家族」を復活させれば、家庭内で子育てをしながら「第3子」も産めるようになるという話が成立する条件は、実はかなりハードルが高いと言いますか、ヒットするゾーンが狭い話です。

 実際は孫と祖父母の年齢差が大きすぎて両方共にケアを受ける側に回るケースがあり、また年齢差を縮めることができると、今度は三世代のうち二世代が現役として働かなくてはならなかったりするからです。やはり、政策論としては核家族をしっかりサポートして、彼らの人生設計の中に子育てとキャリアの両立が可能な制度を、難しさはあってもコツコツと作っていくしかないのだと思います。

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