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3月14日開業が決まった北陸新幹線に死角はないか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2014年8月28日 11時27分

 開業日は多くの人が予測していた通りでしたが、運行計画は「予想以上」というのが正直なところです。まず、東京-金沢の直通列車ですが、速達型の「かがやき」が1日10往復。更に上越妙高-金沢の間は各駅停車で、高崎-飯山の間の多くの駅にも止まる「はくたか」が14往復。つまり東京-金沢の直通は1日24往復になるのです。更には、東京-長野の「あさま」も1日16往復が残ります。

 また、速達型の「かがやき」の途中停車駅が「大宮・長野・富山」だけ(一部は上野にも停車)という思い切りで、最速の所要時間が富山まで2時間8分、金沢まで2時間28分を実現しているというのも、JR東日本・JR西日本のヤル気を感じさせます。これで「羽田-小松(現在1日12往復)、羽田-富山(6往復)」の航空路は大幅な減便に追い込まれるのは必至でしょう。

 影響を受けるのは航空路だけではありません。新潟・長野・富山・石川の4県については、在来線に大きな影響があります。まず、並行在来線は第三セクターになり、一気に3つの新会社が誕生します。石川、富山の新会社は通勤通学の流動が太い中で経営の安定が期待できますが、新潟の新会社は厳しい経営を強いられるでしょう。

 これに伴って、この第三セクター区間はJRの特急が全廃になります。既に発表されているように、大阪-札幌間の「トワイライト・エクスプレス」が廃止されますが、在来線特急の「はくたか」や「北越」も廃止、更に西から乗り入れてくる「サンダーバード」と「しらさぎ」は金沢止まりとなります。

 その一方で、廃止される特急「北越」に代わって、新潟から直江津経由上越妙高行きの特急「しらゆき」が、更に金沢から福井の区間特急(愛称は未発表)と朝晩の快速列車の運行の計画も発表され、できる限りの配慮がされているといった印象です。

 では、来年3月14日に迫った「金沢延伸」に、死角はないのでしょうか?



 一つ心配なのが、東京駅のキャパシティーです。JR東日本の「東北・上越・北陸・山形・秋田新幹線ホーム」は20番線から23番線の2面4線しかありません。そこを現在は、4分間隔で折り返しができるようなソフト、ハードのインフラがあるのです。素晴らしい「ワザ」を持っている清掃部隊も、その一つです。

 今回の「金沢直通24往復+あさま16往復」の40本も、この4分間隔のスロットに入るということでは問題はありません。問題は、繁忙期や遅延時への対応です。現在のJR東日本はホームや階段等での事故を防止するために、多客時の入場制限についてのノウハウを持っています。ですから、安全面に関してはあまり心配していません。

 ですが、それでも4分ごとに12両編成の北陸新幹線と、17両編成の東北・秋田新幹線などが折り返していく東京駅では、乗客へのサービスのクオリティという面で繁忙時のキャパはかなり心配です。この問題に備えるためには、平常時から東京駅での乗降客を減らしておかねばなりません。

 そこでJR東海が東海道新幹線でやっているように、東京圏での乗降駅を「分散する」作戦が必要になってきます。JR東海は、様々な試行錯誤の結果、現在では「のぞみ」を含めた東海道新幹線の全便を「品川・新横浜」に停車させています。これにより東京での乗降客を減らして、折り返しの時間短縮を実現しているのです。

 JR東日本も、もちろんそのために新幹線の上野駅、そして大宮駅を使っているのですが、カギを握るのは大宮駅だと思います。従来から池袋・新宿などを経由して東京の西側と行き来する人には、東北・上越・北陸新幹線との乗り換えは「大宮が便利」ということが浸透しています。埼京線や湘南新宿ラインが直通しているからです。

 これに加えて来年3月には、新幹線の金沢延伸と同時に東北縦貫線(愛称は「上野東京ライン」)が開通します。つまり、東北線や高崎線の列車(常磐線の一部もそうですが、こちらは大宮は無関係)が、上野、東京経由で品川から東海道方面に直通するのです(一部は品川で折り返す可能性も)。



 こうなると、例えば金沢から来て新橋、品川に行く人にも大宮での乗り換えが便利になります。また、横浜以西の東海道線に行く場合は湘南新宿ラインと上野東京ラインの2つの直通のチョイスができることになります。大宮は埼京線に加えて京浜東北線の始発駅でもあります。

 実は、新幹線の「東京-大宮間」は騒音問題に関する地元との合意事項などのために、最高速度が「110キロ」に規制されています。また新幹線のルートは直線ではなく、大宮から赤羽までは埼京線に沿って西に迂回しています。ですから、東京まで新幹線で行かずに大宮で上野東京ラインに乗り換えても、ダイヤの接続が良ければ東京乗り換えと所要時間は大きくは変わらないはずです。

 もちろんJR東日本もその辺は心得ているようで、現在大宮駅では新幹線コンコースと中央通路の改良工事が急ピッチで進んでいます。この工事の完成も、北陸新幹線と上野東京ラインの開通する「2015年3月中旬」と発表されています。

 これに加えて、いわゆる「エキナカ」サービスで、大宮駅構内の土産物店や弁当販売を、これまで以上に充実させれば、その魅力で大宮乗り換えの乗客を増やすことができるかもしれません。

 北陸新幹線の金沢延伸というインパクトは、北陸から新潟に至る広域圏の鉄道網だけでなく、首都圏の輸送体制にも大きな変化をもたらしていくことになるはずです。

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