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モディが安倍に期待する訪日の「土産」とは?

ニューズウィーク日本版 2014年9月2日 18時38分

 まるでボリウッド映画のワンシーンのようだった。紅茶売りの息子でカーストの下層に属する者が国家最高位にまで上り詰め、ムガル帝国時代の城塞であるデリーの赤い城で独立記念日の演説を行う。その雄姿を見上げるのは、インド国旗をなびかせる大勢の支持者たちだ。

 映画ではない。インドの新首相ナレンドラ・モディが、約3カ月前の総選挙で大勝してから行った最も劇的な演説だ。自らを「プライム・ミニスターではなくプライム・サーバント(公僕)だ」と称し、ポピュリスト的な文言を振りまきながら、勤勉、改革、良い統治、発展によるインドの復活を唱えた。

 5月の選挙時から続く「モディ・フィーバー」はいまだ衰えていない。グジャラート州首相時代、国を上回る経済成長を同州にもたらしたモディ。その経済手腕に、国民の期待は大き過ぎるほど膨らんでいる。

 だがモディの仕事は国民に期待を抱かせることではない。その段階は既に終わり、これからのモディを待ち受けるのはもっと困難な責務だ。持続可能な成長のために抜本的な改革を断行しながら、貧困や州首相の専横、汚職などの社会的病巣と戦わなければならない。

 8月15日の独立記念日の演説で、モディは外交についてほとんど触れなかった。任期最初の2年間は、外交よりも内政に時間と労力を割くためだ。

インフラ投資への期待

 だからこそ、今月末に予定されているモディの訪日と安倍晋三首相との会談は、彼が州首相として来日した際と変わらないはずだ。インドに投資を呼び込むセールスマンぶりを発揮し、国内事情を語るだろう。

 加えて首相となった今、アジアにおける中国の台頭や、日本とインドの安全保障戦略における緊密な連携なども議題に上るはずだ。ただインド国民がモディに期待するのは外交ではなく「飯の種」。モディも訪日で国民が望む成果を挙げたいと思っている。

 グジャラート州首相時代、モディは官僚的で面倒な手続きを排除することで、多くの外資を呼び込み名をはせた。特に日本企業の誘致が得意で、60社ほどの日系企業が同州で操業している。駐インド大使の八木毅は、さらに40社が加わる予定だと地元紙に語っている。



 安倍とモディは、メディアの前でよく互いを褒め合いながら友好をアピールしてきた。安倍がインドとより緊密な安全保障関係を築きたいと思うなら、モディに十分な「土産」を渡して帰さなければならない。

 候補の1つが、インフラや製造業の分野で日印が協力するイニシアチブをまとめることだ。インドのインフラは乏しく、約3人に1人は安定した電力供給を受けていない。ほとんどの道路が未整備だし、鉄道や港湾、空港にも投資が必要だ。

 日本企業はこうしたインフラを整備することができる。既にデリーの地下鉄プロジェクトや鉄道網の拡大事業に関わっている。日本の製造業にとってもインドは次の10年間で最も魅力的な国だと、国際協力銀行は昨年行った調査で指摘している。

 注目を集めるこのイニシアチブがまとまれば、モディは就任早々、大きな土産を手に凱旋帰国し、国民に成果を誇示できるだろう。既に一部で起こりつつあるモディ批判は、まだ具体的な成果が見えないことに集中している。時期尚早な非難だが、人々は待てないのだ。

 日印のイニシアチブは日本の企業にとっても有益だ。そして安倍政権も、将来的にアジアの安全保障について熱心に耳を傾けてくれる盟友を得られることになる。

[2014.9. 2号掲載]
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト・ニューアメリカ財団上級研究員)

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