アメリカ時間の今月22日、既にオバマ大統領が演説で予告していたように、米軍はシリア領内への空爆を開始しました。例によってTVニュースには「おどろおどろしい」映像があふれています。
夜間に空母から戦闘機が発進する映像や、赤外線映像と思われるコントラストの強い白黒画面での「標的への爆撃成功」映像などですが、イラク、アフガニスタン戦争以来見慣れた映像がTVで報道されると、また新たな戦争が始まったという思いがします。この日の作戦では、45機の米軍の戦闘機(ドローンを除く)が投入され、200発のミサイルで攻撃が行われたと発表されています。
では、これはアフガニスタン戦争、イラク戦争に続く「第三の反テロ戦争」なのでしょうか? あるいは湾岸戦争、イラク戦争に続く「第三のイラク戦争」なのでしょうか? そうした歴史的な定義以前の問題として、これは「アメリカが本格的な戦争に関与していく」ことになるのでしょうか?
どうもその点は不明確なのです。
まず、22日の空爆に関する発表と報道を総合しますと、これまでに「ISISへの対抗」が必要だとして言われてきたストーリーが少し変わっているのです。要するに、クルド人やモスルのキリスト教徒への迫害、米英のジャーナリスト殺害などを続けてきた「ISIS」とNATOなど欧米勢力が戦うという枠組み「だけではない」、今回の空爆はそのように位置づけられるようなのです。
具体的には、3つの新しい条件が加わったと言えます。
一つ目は、「敵はISISだけではない」という問題です。22日の空爆では、ISISの拠点に加えて、「コーラサン」というグループの拠点への攻撃が行われ、この「コーラサン」の拠点を破壊することに成功したという発表がされているのです。
この「コーラサン」ですが、国防総省の発表ではアルカイダの分派だというのです。イエメンなどで戦っていたが、アメリカの執拗な攻撃に耐えかねて逃亡したテロリストなどが、シリア領内で再集結して出来たものです。
しかしアルカイダとは活動方針が違うのだそうです。この「コーラサン」は「欧米への攻撃」を主要な目標に掲げている、従って大変に危険であり、危険が切迫していたので今回の空爆が決断されたというのです。
では、シリア領内で活動している「危険なグループ」というのは、ISISとコーラサンだけかというと、オリジナルのアルカイダも残っているし、その他にももう一つグループがあって、どれも「危険」であると同時に、例えばISISとコーラサンが敵対しているように、相互に抗争していると国防総省は見ているとしています。
二つ目は、この「シリア領内への空爆」ですが、事前にシリアに通告されていたというのです。事実上、アサド政権の了承の下に行われているというわけで、ということは、とりあえず「サリン問題」以来、西側の、そしてアメリカの敵であったはずのアサド政権は、今回の空爆に関しては了承しているということになります。
そうなると、反アサド派の中の「穏健派」の位置づけも変わってくると思いますが、そのあたりはハッキリしていません。一方で、アサド政権のスポンサーの一つであるロシアは、さすがにウクライナ情勢で西側とは敵対していますから、今回のアメリカの空爆を非難しています。
三つ目は、今回の空爆の大義名分としては、アメリカ単独ではなく「アメリカ+5カ国連合」によるものだということになっている点が新しい要素です。その5カ国とは、サウジアラビア、ヨルダン、バーレーン、カタール、UAE(アラブ首長国連邦)です。この顔ぶれですが、どれもスンニ派の君主国ですから、ISISの「カリフ制」などという自称を絶対に許せないという共通点があります。また、とりあえずトルコは利害が濃すぎるし、イランは過去の経緯からまだ関係改善にはお互いに踏み切れないという事情もある中での枠組みだと言えます。
こうした三つの「新しい要素」が加わった中での空爆であるわけですが、では、アメリカとして「本格的な戦争」に突っ込んでいくのでしょうか?
私はその可能性は薄いと思います。それは、国内の厭戦気分であるとか、軍事費が限られているということももちろんあります。今回の作戦については、一週間で1億ドル(約108億円)、仮に1年以上継続したとして年間200億ドル(約21兆円)程度の規模であり、大規模な戦争予算を組むわけではありません。
ですが、それ以上に言えるのは、今回の作戦には「一貫したストーリーがない」ということです。以下、4点指摘しておきましょう。
(1)まず、ISISを叩くことが目的だと思ったら、コーラサンが危険なので主要な目標に加えたというのです。つまり、諜報活動の結果としてISISだけでは「アメリカへの脅威」が薄かったという推察ができますし、別の言い方をすればアメリカが全力を挙げて「対ISIS戦争」を戦うストーリーは既に曖昧になったと言えます。
(2)アサド政権に事前通告しており、事実上アサドの承認の上で行われた攻撃ということになると、「アサドは化学兵器を使用した人類の敵」だから「政権転覆」すべきだというストーリーも崩れています。ということは、今回の空爆は事実上「アサドへの援護射撃」になるからです。同時に「アラブの春」による独裁政権の打倒運動は「正義」だというオバマ政権が一貫させていた態度も曖昧になりました。
(3)イランに関しては、攻撃主体の5カ国の枠組みには入っていないのですが、本稿の時点で「イランにも事前通告をしていた」という報道が流れました。仮にそうだとすると、アメリカのイランとの関係改善は少しずつ進んでいるというニュアンスが濃くなります。それはそれで良いニュースなのでしょうが、イラン国内ではロウハニ大統領の穏健路線に対する反対は収まっておらず、今後の展開はまだ予断を許しません。
(4)オバマ政権は、当初はISISと戦うと言っておきながら、シリア領内の空爆ではコーラサンも標的にしたわけですが、その理由は「米本土テロの危険があった」という説明でした。ですが、その空爆を受けてFBIが言い始めたのは、確かに本土テロの危険は高まっているが、危険なのは「ローンウルフ(一匹狼)」型のテロリストだというのです。もちろん、インテリジェンス(諜報)を得た上で言っているのでしょうが、支離滅裂な印象を与えます。
アメリカが開始したのは「一体誰のための、誰が相手の戦争なのか?」かなり曖昧な作戦となりました。では、オバマは何の考えもなく、無責任に軍事力を行使したのでしょうか?
必ずしもそうとは言えません。明らかに危機的な状況があり、そこに対症療法的に関与を始めた、その限りにおいてオバマにはオバマなりの合理性はあるのだと思います。ですが、アメリカが本格的に「新たな戦争」に突っ込んでいくという理解をする必要はないと思います。
夜間に空母から戦闘機が発進する映像や、赤外線映像と思われるコントラストの強い白黒画面での「標的への爆撃成功」映像などですが、イラク、アフガニスタン戦争以来見慣れた映像がTVで報道されると、また新たな戦争が始まったという思いがします。この日の作戦では、45機の米軍の戦闘機(ドローンを除く)が投入され、200発のミサイルで攻撃が行われたと発表されています。
では、これはアフガニスタン戦争、イラク戦争に続く「第三の反テロ戦争」なのでしょうか? あるいは湾岸戦争、イラク戦争に続く「第三のイラク戦争」なのでしょうか? そうした歴史的な定義以前の問題として、これは「アメリカが本格的な戦争に関与していく」ことになるのでしょうか?
どうもその点は不明確なのです。
まず、22日の空爆に関する発表と報道を総合しますと、これまでに「ISISへの対抗」が必要だとして言われてきたストーリーが少し変わっているのです。要するに、クルド人やモスルのキリスト教徒への迫害、米英のジャーナリスト殺害などを続けてきた「ISIS」とNATOなど欧米勢力が戦うという枠組み「だけではない」、今回の空爆はそのように位置づけられるようなのです。
具体的には、3つの新しい条件が加わったと言えます。
一つ目は、「敵はISISだけではない」という問題です。22日の空爆では、ISISの拠点に加えて、「コーラサン」というグループの拠点への攻撃が行われ、この「コーラサン」の拠点を破壊することに成功したという発表がされているのです。
この「コーラサン」ですが、国防総省の発表ではアルカイダの分派だというのです。イエメンなどで戦っていたが、アメリカの執拗な攻撃に耐えかねて逃亡したテロリストなどが、シリア領内で再集結して出来たものです。
しかしアルカイダとは活動方針が違うのだそうです。この「コーラサン」は「欧米への攻撃」を主要な目標に掲げている、従って大変に危険であり、危険が切迫していたので今回の空爆が決断されたというのです。
では、シリア領内で活動している「危険なグループ」というのは、ISISとコーラサンだけかというと、オリジナルのアルカイダも残っているし、その他にももう一つグループがあって、どれも「危険」であると同時に、例えばISISとコーラサンが敵対しているように、相互に抗争していると国防総省は見ているとしています。
二つ目は、この「シリア領内への空爆」ですが、事前にシリアに通告されていたというのです。事実上、アサド政権の了承の下に行われているというわけで、ということは、とりあえず「サリン問題」以来、西側の、そしてアメリカの敵であったはずのアサド政権は、今回の空爆に関しては了承しているということになります。
そうなると、反アサド派の中の「穏健派」の位置づけも変わってくると思いますが、そのあたりはハッキリしていません。一方で、アサド政権のスポンサーの一つであるロシアは、さすがにウクライナ情勢で西側とは敵対していますから、今回のアメリカの空爆を非難しています。
三つ目は、今回の空爆の大義名分としては、アメリカ単独ではなく「アメリカ+5カ国連合」によるものだということになっている点が新しい要素です。その5カ国とは、サウジアラビア、ヨルダン、バーレーン、カタール、UAE(アラブ首長国連邦)です。この顔ぶれですが、どれもスンニ派の君主国ですから、ISISの「カリフ制」などという自称を絶対に許せないという共通点があります。また、とりあえずトルコは利害が濃すぎるし、イランは過去の経緯からまだ関係改善にはお互いに踏み切れないという事情もある中での枠組みだと言えます。
こうした三つの「新しい要素」が加わった中での空爆であるわけですが、では、アメリカとして「本格的な戦争」に突っ込んでいくのでしょうか?
私はその可能性は薄いと思います。それは、国内の厭戦気分であるとか、軍事費が限られているということももちろんあります。今回の作戦については、一週間で1億ドル(約108億円)、仮に1年以上継続したとして年間200億ドル(約21兆円)程度の規模であり、大規模な戦争予算を組むわけではありません。
ですが、それ以上に言えるのは、今回の作戦には「一貫したストーリーがない」ということです。以下、4点指摘しておきましょう。
(1)まず、ISISを叩くことが目的だと思ったら、コーラサンが危険なので主要な目標に加えたというのです。つまり、諜報活動の結果としてISISだけでは「アメリカへの脅威」が薄かったという推察ができますし、別の言い方をすればアメリカが全力を挙げて「対ISIS戦争」を戦うストーリーは既に曖昧になったと言えます。
(2)アサド政権に事前通告しており、事実上アサドの承認の上で行われた攻撃ということになると、「アサドは化学兵器を使用した人類の敵」だから「政権転覆」すべきだというストーリーも崩れています。ということは、今回の空爆は事実上「アサドへの援護射撃」になるからです。同時に「アラブの春」による独裁政権の打倒運動は「正義」だというオバマ政権が一貫させていた態度も曖昧になりました。
(3)イランに関しては、攻撃主体の5カ国の枠組みには入っていないのですが、本稿の時点で「イランにも事前通告をしていた」という報道が流れました。仮にそうだとすると、アメリカのイランとの関係改善は少しずつ進んでいるというニュアンスが濃くなります。それはそれで良いニュースなのでしょうが、イラン国内ではロウハニ大統領の穏健路線に対する反対は収まっておらず、今後の展開はまだ予断を許しません。
(4)オバマ政権は、当初はISISと戦うと言っておきながら、シリア領内の空爆ではコーラサンも標的にしたわけですが、その理由は「米本土テロの危険があった」という説明でした。ですが、その空爆を受けてFBIが言い始めたのは、確かに本土テロの危険は高まっているが、危険なのは「ローンウルフ(一匹狼)」型のテロリストだというのです。もちろん、インテリジェンス(諜報)を得た上で言っているのでしょうが、支離滅裂な印象を与えます。
アメリカが開始したのは「一体誰のための、誰が相手の戦争なのか?」かなり曖昧な作戦となりました。では、オバマは何の考えもなく、無責任に軍事力を行使したのでしょうか?
必ずしもそうとは言えません。明らかに危機的な状況があり、そこに対症療法的に関与を始めた、その限りにおいてオバマにはオバマなりの合理性はあるのだと思います。ですが、アメリカが本格的に「新たな戦争」に突っ込んでいくという理解をする必要はないと思います。