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「マタハラ降格違法」判決をどう生かすか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2014年10月28日 12時56分

 妊娠を理由に管理職から降格されたとして「降格処分」は違法だと訴えていた女性が、最高裁で勝訴しました。報道によれば、妊娠を理由とした「降格処分」は男女雇用機会均等法違反だということで、これで「マタハラ降格」は違法という判例ができたことになります。

 この判決はある意味では画期的だと思います。まず、管理職になる女性は、その業種における業務知識があり、管理職に「抜擢されない」同程度の経験年数を持つ他の人材よりも、スキルも高いと思われます。そのような人材が「働き続ける」ことができるというメッセージを出していくことは、社会として大変に重要です。

 またそのように高スキルの人材は、同じように高い自負心を持っているはずであり、その自負心が仕事のモチベーションと強く関係していることを考えると、降格はそのモチベーションを打ち砕く危険があるわけです。ですから、「マタハラ降格」は違法という考え方は、そうした人材を生かす上で大きな意味があると思います。

 一方で、育休だけでなく、介護の問題などもある中で、一定期間の離職ないし時短勤務が「降格にはならない」ことは、女性だけでなく男性にとっても安心感になると思います。

 では、この「マタハラ降格違法判決」を生かして、降格をしないようにしていけば、何もかもがうまくいくのでしょうか? 必ずしもそうではないと思います。この判決を生かしていくためには、以下の様々な点を考えていかなければならないと思います。

(1)管理職というのは機能です。ですから妊娠や育児を契機として、時短管理職を認めていくのであれば、その管理職が在席していない時間帯に、適切な権限移譲がされること、また時短中の管理職に、自分が在席していない場合に極めて重要かつ例外的な事項が発生した場合には、適切なコミュニケーションの体制が取れることが必要です。つまり、フルタイムでない管理職代行を置く体制、あるいは在宅勤務の体制などが必要になります。

(2)いやそうではない、管理職というのは高度な目標を与えられるもので、そもそも時間管理は関係ないという場合もあります。例えば営業目標を達成していれば、労働時間は問わないような「働き方」や、成果が出ればいいという研究開発の仕事のような場合です。そうした場合は、時短期間中も降格しない代わりに、これまで同様の目標を課することは可能になる場合もあります。少数の「できる」管理職の場合は、時短をしながら成果を出し続けることもあるかもしれません。同様に、時短により著しく成果が下がる場合も職種としてはあると思います。時短中の管理職に何を期待するのかというのは、職種の特性をよく分析しなくてはなりません。

(3)一方で、管理職は機能ではなく階級だという考え方もあります。その場合は過去の実績に基づいて「ご褒美」としての地位があり、その地位に基づいた高給が払われるわけです。そうした場合には、確かに降格することでのモチベーション喪失とか、過去の努力が「精算されない不満」などが生じるわけですが、一方で「全く降格しない」ということですと、時短を取っていない他の従業員との格差は問題になる可能性があります。

(4)問題は時短や育休の対象にならない人材が不公平感を持つことです。この点に関しては、女性も男性も育休を取るとか、時短勤務をするというのが「多数派」になればかなり緩和されます。ある意味では、降格なき時短+育休といった制度を定着させ、会社の業績も個人のパフォーマンスも伸ばすことができるような「成功事例」を作っていくことが大事だと言えます。



 日本の職場の現状を考えると、以上のような論点が出てくるわけですが、これはすべて「日本独自の終身雇用を前提とした年功序列制度」を前提として、そこで女性の妊娠・出産や子育てという事情との「折り合いをつける」という考え方です。

 ですが、これはグローバルなスタンダードから見ると、かなり変わった考え方であることも事実です。

 というのは世界の多くの労働市場では、基本的には「残業手当のつく」一般の社員は法制や組合が保護して時短も育休にも配慮をされる一方で、管理職は成果主義であると同時に雇用の保障はないというのが普通です。

 管理職を目指さない女性が出産や子育てとのバランスが確保される一方で、管理職を目指す女性の場合は、転職を繰り返すキャリア形成の中に「妊娠出産と子育て」の期間を計画的に入れていくことになります。

 今回の「降格違法判決」は生かさなくてはなりません。ですがその一方で、終身雇用や年功序列を前提として管理職という「日本の会社の内輪のサークル」に入ってきた女性だけには手厚い配慮がされ、例えばシングルマザーや非正規労働者の「ワーク・ライフ・バランス」についてまったく改善が進まないのでは困ります。

 またこれからのグローバルな競争の中で、いつまでも終身雇用、年功序列の制度を維持することが可能か、また適切かは議論が分かれるところだと思います。

 そう考えると、今回の判決をどう生かしていくかは、相当に多角的な議論が必要になります。時代を切り開くのは、政治や法制ではなく、具体的な民間企業の中での「圧倒的な成功事例」だと思うのです。

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