政治家が選挙の時に掲げた公約を任期中に実現して責任を全うできるとしたら、こんなに楽な話はありません。ですが、現代の政治家はそんな「安全運転」では済みません。突発的な事態、誰も予想しなかった事態に遭遇して、公約していない判断、選挙の時点では民意を確認していなかった判断を迫られることが往々にしてあるからです。
ではそれ以外の、つまり公約して民意を確認したとか、政治家の「政治信念」ないしは「イデオロギー」に則って判断すれば良い問題、あるいはそうした思想的な立ち位置そのものに関して言えば、政治家は公約した「立場」通りに行動できるのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
ここにオバマの「不人気」の要因があります。大変なブームを起こして当選してから6年、現在のオバマ大統領の支持率は「40%前後」という低空飛行になっていますが、その原因は公約通りの政治ができなかったところにあります。
では、これは同時期に日本で起きた政権交代による、鳩山政権や菅政権、野田政権という日本の民主党政権の「不人気」と同じなのでしょうか?
私はまったく違うと思います。
まず、日本の「民主党政権の失敗」は、その思想的立ち位置をしっかり宣言しなかったところに問題があります。政権就任前には「供給側の利害ではなく消費者の利害」という軸があったはずですが、この点を徹底できませんでした。また「目先の景気よりも長期的な財政規律」という勇ましい理想論もありましたが、その「痛み」を引き受ける覚悟に欠けていました。更に「対中テンションの軽減とセットの在沖米軍基地削減」という志向もありましたが、これを相手にしっかり告げる勇気に欠けていました。さらには、排出ガス削減という大目標もありましたが、震災後の原子力エネルギーへの忌避感の中で修正も徹底もできなくなりました。
ということで、政策の設計から実行に至るまで、思想の軸が通っていなかったために、統治能力のなさが露呈すると共に民心が離反したわけです。
オバマの場合は違います。
オバマは「自分の思想的なポジション」は明確にしながら、「対立を回避する」という現実的なアプローチ、つまり必要な妥協はするし、政敵である共和党と和解して政治を進めるということも言っていました。つまり「理想は掲げるが現実も重視する」ということです。
ですが、これが上手くいかなかったのです。
例えば先週、ワシントン州の高校で少年が引き起こした銃撃事件は、アメリカを震撼させましたが、こうした銃と銃規制の問題に関しては、オバマ政権というのは、明らかに「規制推進」の立場でした。
ですが、任期中のオバマの「銃規制」に関する成果は、ほとんどゼロです。オバマ政権になってからも、アリゾナ州でのガブリエル・ギフォーズ下院議員への銃撃事件(巻き込まれた犠牲者があり、本人も脳に負傷)、そしてコネティカット州での小学校での乱射事件、あるいはコロラド州の映画館での無差別乱射事件と、銃を使った深刻な事件が頻発しています。
それでもオバマは踏み込んだ銃規制の議論をしていません。その理由は、黒人大統領の自分が銃規制の問題に積極的に介入すると、銃保有派の白人の保守層を激怒させ、銃規制が人種問題に絡められてしまうことをおそれているのだと思います。
人種対立の問題に関して言えば、ミズーリ州ファーガソンで起きた白人警官による黒人青年射殺事件を契機として現在進行形で進んでいる人種対立の問題も、オバマは効果的な「介入」はできていません。黒人である自分が介入すると、問題解決に向けた大統領の権威が機能しなくなると考えたのでしょう。
また、オバマはノーベル平和賞を受賞しておきながら「アフガニスタンでの増派作戦」を実行し、さらには「パキスタンの主権を侵犯した上でのウサマ・ビンラディンの暗殺」という作戦まで遂行しました。これも本来は、平和的な解決をしたいし、特にビンラディンに関しては合衆国憲法に基づく公開法廷で裁きたかったのだと思いますが、そんな「美しい理想論」を掲げていると国家が分裂するとおそれた結果、自分の手を血で汚して済ますことにしたのでしょう。
結果として、オバマ政権は「ある種の疲労感」をにじませています。別の言い方をすれば、国民との誠実な対話を行うことへの疲労感です。
現在のISIL(自称「イスラム国」)の問題では、理想と現実の葛藤という話では済まない、極めて複雑な国際政治的な駆け引きが進行しています。ISILは直接的にはアサド政権と戦っていますが、アサドを応援しているのはプーチンであり、自国民に対してサリン攻撃をした「罪」はまだ背負っている政権ですから「善玉」とは言えません。
またクルド人はISILの直接の敵であり、アメリカはクルド人救援の動きを見せていますが、アメリカが「助けすぎて」、もしクルド人がホンモノの国家主権を持つような事態になれば、トルコとイランは簡単には承認しないでしょう。その複雑な方程式の中で、オバマはこの問題に「解決策」がないことを知っています。それにも関わらず、国民に対して誠実にこの問題を説明することはできていません。
ISILが非人道的だと怒る、その一方で「地上軍は出さない」という矛盾した対応が、「実は最善手」だということをうまく説明できていないのです。
つまりオバマの「不人気」の背景には、「理想を掲げつつ現実に歩み寄ることの必然性」と、「複雑な問題については即時の全面解決を目指さない選択肢が実は最良」であること、この2つが国民に理解されていないという現実があります。
頭脳明晰なオバマがこのような苦境に陥るということは、現代に大衆政治家を生み出すことの困難を示しているように思うのです。日本の民主党がたどった「失敗」とは比べものにならない深刻な問題が、そこには横たわっています。
ではそれ以外の、つまり公約して民意を確認したとか、政治家の「政治信念」ないしは「イデオロギー」に則って判断すれば良い問題、あるいはそうした思想的な立ち位置そのものに関して言えば、政治家は公約した「立場」通りに行動できるのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
ここにオバマの「不人気」の要因があります。大変なブームを起こして当選してから6年、現在のオバマ大統領の支持率は「40%前後」という低空飛行になっていますが、その原因は公約通りの政治ができなかったところにあります。
では、これは同時期に日本で起きた政権交代による、鳩山政権や菅政権、野田政権という日本の民主党政権の「不人気」と同じなのでしょうか?
私はまったく違うと思います。
まず、日本の「民主党政権の失敗」は、その思想的立ち位置をしっかり宣言しなかったところに問題があります。政権就任前には「供給側の利害ではなく消費者の利害」という軸があったはずですが、この点を徹底できませんでした。また「目先の景気よりも長期的な財政規律」という勇ましい理想論もありましたが、その「痛み」を引き受ける覚悟に欠けていました。更に「対中テンションの軽減とセットの在沖米軍基地削減」という志向もありましたが、これを相手にしっかり告げる勇気に欠けていました。さらには、排出ガス削減という大目標もありましたが、震災後の原子力エネルギーへの忌避感の中で修正も徹底もできなくなりました。
ということで、政策の設計から実行に至るまで、思想の軸が通っていなかったために、統治能力のなさが露呈すると共に民心が離反したわけです。
オバマの場合は違います。
オバマは「自分の思想的なポジション」は明確にしながら、「対立を回避する」という現実的なアプローチ、つまり必要な妥協はするし、政敵である共和党と和解して政治を進めるということも言っていました。つまり「理想は掲げるが現実も重視する」ということです。
ですが、これが上手くいかなかったのです。
例えば先週、ワシントン州の高校で少年が引き起こした銃撃事件は、アメリカを震撼させましたが、こうした銃と銃規制の問題に関しては、オバマ政権というのは、明らかに「規制推進」の立場でした。
ですが、任期中のオバマの「銃規制」に関する成果は、ほとんどゼロです。オバマ政権になってからも、アリゾナ州でのガブリエル・ギフォーズ下院議員への銃撃事件(巻き込まれた犠牲者があり、本人も脳に負傷)、そしてコネティカット州での小学校での乱射事件、あるいはコロラド州の映画館での無差別乱射事件と、銃を使った深刻な事件が頻発しています。
それでもオバマは踏み込んだ銃規制の議論をしていません。その理由は、黒人大統領の自分が銃規制の問題に積極的に介入すると、銃保有派の白人の保守層を激怒させ、銃規制が人種問題に絡められてしまうことをおそれているのだと思います。
人種対立の問題に関して言えば、ミズーリ州ファーガソンで起きた白人警官による黒人青年射殺事件を契機として現在進行形で進んでいる人種対立の問題も、オバマは効果的な「介入」はできていません。黒人である自分が介入すると、問題解決に向けた大統領の権威が機能しなくなると考えたのでしょう。
また、オバマはノーベル平和賞を受賞しておきながら「アフガニスタンでの増派作戦」を実行し、さらには「パキスタンの主権を侵犯した上でのウサマ・ビンラディンの暗殺」という作戦まで遂行しました。これも本来は、平和的な解決をしたいし、特にビンラディンに関しては合衆国憲法に基づく公開法廷で裁きたかったのだと思いますが、そんな「美しい理想論」を掲げていると国家が分裂するとおそれた結果、自分の手を血で汚して済ますことにしたのでしょう。
結果として、オバマ政権は「ある種の疲労感」をにじませています。別の言い方をすれば、国民との誠実な対話を行うことへの疲労感です。
現在のISIL(自称「イスラム国」)の問題では、理想と現実の葛藤という話では済まない、極めて複雑な国際政治的な駆け引きが進行しています。ISILは直接的にはアサド政権と戦っていますが、アサドを応援しているのはプーチンであり、自国民に対してサリン攻撃をした「罪」はまだ背負っている政権ですから「善玉」とは言えません。
またクルド人はISILの直接の敵であり、アメリカはクルド人救援の動きを見せていますが、アメリカが「助けすぎて」、もしクルド人がホンモノの国家主権を持つような事態になれば、トルコとイランは簡単には承認しないでしょう。その複雑な方程式の中で、オバマはこの問題に「解決策」がないことを知っています。それにも関わらず、国民に対して誠実にこの問題を説明することはできていません。
ISILが非人道的だと怒る、その一方で「地上軍は出さない」という矛盾した対応が、「実は最善手」だということをうまく説明できていないのです。
つまりオバマの「不人気」の背景には、「理想を掲げつつ現実に歩み寄ることの必然性」と、「複雑な問題については即時の全面解決を目指さない選択肢が実は最良」であること、この2つが国民に理解されていないという現実があります。
頭脳明晰なオバマがこのような苦境に陥るということは、現代に大衆政治家を生み出すことの困難を示しているように思うのです。日本の民主党がたどった「失敗」とは比べものにならない深刻な問題が、そこには横たわっています。