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『ザ・シムズ』最新作はもっとリアルで悩ましい

ニューズウィーク日本版 2014年10月31日 12時49分

 私は首尾よく、近所のイケメンといい感じになっている。趣味は絵画で、友達のマリアとシェアしている家にも自分の絵を飾ってある。職業はプロのゴーストハンター。やりがいもあるし、収入もいい。人生に嫌なことはなく、毎日が輝いている。

 現実の私の話ではない。子供の頃、人生シミュレーションゲーム『ザ・シムズ』(日本名『シムピープル』)でつくり上げた世界の中の話だ。

 これは、勝ち負けを競うゲームではない。「シム」と呼ばれるゲーム内住人の特徴を自分好みに設定し、あとは自由に生活させ、どういう生涯を送るかを見守るというものだ。

『ザ・シムズ』は、多くの子供や若者にとって単なるゲーム以上の存在だった。現実世界の重圧に対処する手だてでもあった。ゲームの中では、どんな自分にもなることができたからだ。

 ゲームが進化するにつれて、ゲーム内のシムたちも進化していった。9月2日にエレクトロニック・アーツ社から発売されたシリーズ最新版『ザ・シムズ4』のシムたちは、一度にいくつもの課題を同時に処理でき、動きもリアルだ。

 プレーヤーは、唇のラインから頬骨の高さに至るまで、徹底してリアルにシムをつくり上げられる。性格は、マザー・テレサのようにも、連続殺人犯のチャールズ・マンソンのようにも設定可能だ。

 では現実の世界と同じように、性差別的なシムや人種差別的なシムもつくれるのか。「できるようになっている。プレーヤーの選択次第だ」と、『ザ・シムズ』を開発するマクシス社のチャーリー・シンハセニは言う。
私ってどういう人間?

 シンハセニによれば、多くのプレーヤーは最初に自分自身を、続いて身近な人たちをゲーム内に再現し、それから架空のキャラクターをつくっていく。そこで私もまず、自分を投影させたシムをつくろうと考えた。

 しかし、簡単ではなかった。私の歩き方ってどんなふう? 間抜けな歩き方なのか、軽やかな歩き方なのか? それとも、偉そうな歩き方? こんな具合に、ことごとく頭を抱えてしまった。それに大人は見えやプライドに邪魔されて、現実の自分にそっくりなシムをつくるのが難しい。



『ザ・シムズ4』では、シムが追求する人生の目的を、創造性、自然、逸脱、知識など多くの選択肢から選べる。私は現実の自分とは異なる「自然」を選び、シムに「フリーランス植物学者」を目指させようかと思った。でも結局、「ベストセラー作家」を目標にすることにした(私はサディストなので)。

 次は、感情、趣味、ライフスタイル、社交の4分野でシムの性格を選ぶ。ここでどういう特徴を選択するかは、プレーヤーの自己評価に大きく左右される。「正気でない」(独り言を言い、感情の動きが唐突なのが特徴)というのが自分にぴったりに思えたが、私は「自信家」と「野心的」を選んだ。

 私のゲームはまだ始まったばかりだが、頭にこびりついて離れない問いがある──私たちは、現実の世界で好きに選べるとしたら、ありのままの自分であり続けるのか、それとも理想の自分を選ぶのか。
おそらく答えは後者なのだろう。しかし、自らが抱く自分のイメージと、ほかの人たちが抱いているイメージは同じではない。では、本当の私とはどういう人間なのか。同僚や家族に尋ねればいいのか。

『ザ・シムズ4』は自我の形成について、特に子供たちに多くのことを教えてくれる独創的なゲームだ。シムの目標を何に設定するかは、実は大きな問題ではない。何を目指すにせよ、シムたちは勝利と敗北を経験しながら生きていくことになる。そう、現実の私たちの人生と同じように。

[2014.9.23号掲載]
ポーラ・メヒア

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