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オバマ民主党大敗、その理由と今後の政局 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2014年11月6日 11時35分

 本稿の時点では、上院の結果は未確定です。アラスカ州とバージニア州では僅差のために勝敗が決定しておらず、またルイジアナ州では12月の決選投票に持ち込まれています。ということで3議席が未定なのですが、それでも共和党が52、民主党が45(会派を組む無所属を含む)となり共和党の過半数が確定しました。

 なお未確定の3議席に関しては現時点での開票結果から予測すると、アラスカは共和党、バージニアは民主党が取る公算が大きいようです。また、ルイジアナはまだ1カ月あるので何が起きるかわかりませんが、それでも現時点での票をベースに考えると2位、3位連合の共和党が有利。そうした要素を加えると、共和党54議席に対して民主党は46議席という議席配分になる可能性が濃厚です。

 これで共和党のミッチ・マコネル上院議員が「多数派の上院院内総務」として強大な権力を手にすることになります。下院も共和党が議席を伸ばして戦後最大の250に到達する勢いですから、まさにオバマのホワイトハウスは窮地に陥っています。

 民主党のここまでの大敗は、私も予想していませんでした。直前の時点では民主党は負けるとしても、その理由には「景気拡大が遅すぎるし実感がない」ということ、「複雑な世界情勢に関して国民への説明が不足している」ことの2点を感じていました。しかしこれだけの大きな負けとなると、もう少し深刻な理由があると考えたほうが良いようです。

 まず景気に関しては、拡大の実感不足だけでなく「今の景気が遅かれ早かれ失速して再度深刻な不況になることへの不安感」が出てきているのだと思います。量的緩和(QE)という流動性供給の終了が決定した今、仮に利上げが早すぎたり、あるいは中国経済の失速が世界不況を誘発したりする危険性があるとして、それに対処する現政権に不安を感じているのだと思います。

 次に国際情勢に関しては、「アメリカはもう一度、世界の警察官になるべき」というような誇大妄想的な感覚というよりも、ISIL(自称「イスラム国」)のような得体の知れないグループが再びテロ活動を行うのではないかという「漠然とした不安」があるように思います。



 そのような「不安感」の中で、例えばエボラの問題にも過敏になるわけです。西アフリカで人道支援をしてきた医療従事者は、オバマの言うように「ヒーロー」なのか、あるいはクリス・クリスティー知事(ニュージャージー州)の言うように「住民感情を考えると強制隔離」すべきなのか。アメリカの世論全体では後者に共感する感覚があるのは確かです。

 もちろん、アメリカ人の全員がこうした「不安感」に引っ張られているのかというと、必ずしもそうではなく、依然として理想主義に燃える人々、そしてマイノリティを中心に、「自分たちの権利主張」を胸を張ってアピールする人も多いわけです。ですが、2008年にオバマを大勝させたこうした層は、今回は投票所に行かなかったのです。

 今回の選挙結果を見れば、アメリカは「内向き」であり、何よりも「世界情勢や景気の不透明感」に怯えているのだと言えます。今後の政権運営においては何よりもこの点、特にQE終了後の景気の足を引っ張らない経済政策が必要でしょう。この点でオバマはより踏み込んだ妥協をしていかなくてはならないと思います。

 具体的には、「増税で格差是正を」という姿勢は引っ込めざるを得ないでしょうし、現在の原油安で満足せずに国内のエネルギー開発を推進するなど、共和党の主張を取り入れていくことは避けられません。

 さて、今回民主党は歴史的な大敗を喫しましたが、同じ民主党とはいえヒラリー・クリントンは「そんなに傷ついていない」という見方があります。また、共和党が躍進する中で上下両院ともに多くの女性議員が誕生し、「女性大統領誕生は当然」というムードもさらに濃くなっています。今回の選挙が「オバマ時代の終わりの始まり」を告げる一方で、これを契機にヒラリー待望論はむしろ加速するように思います。

 対する共和党では、先ほど紹介したクリスティー知事が全国を応援演説で回っており、2016年へ向けて有力大統領候補としての認知を固めたようです。また、今回圧勝して再選されたウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事を加えたこの2人は、「行政のコストカッター」の実績をアピールすることで大統領選の予備選挙を「引っかき回す」存在になっていくでしょう。

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