中国政府は最近、不動産部門のテコ入れを図っているが、不動産市場は相変わらず苦戦している。中国の民間会社2社の調査によれば、国内主要288都市の8月の新築住宅価格は前月比で0・3%下げ、5カ月連続の下落となった。前年同月比では3%上昇したが、伸びは鈍化している。
住宅価格が下がり続ければ、中国経済全体に重大な脅威となるだろうと専門家は懸念を示す。しかも国外で不動産を購入する中国人が増えている中、中国の不動産市場が崩壊すれば大量の資金が国外流出し、バンクーバーやニューヨークやシドニーのように遠く離れた市場でも住宅価格が上昇する恐れがある。
中国は不動産部門に依存しており、GDPの伸びの16〜20%が不動産投資によるものだ。近年、輸出競争力が低下するなか、固定資産への投資によって高い経済成長率を維持してきた。
どんな仕組みか説明しよう。国有銀行が地方政府への融資を拡大、地方政府はその資金を不動産開発業者に貸し、都市部に近代的な高層マンションが建設される。市民は国内の不安定な株式市場に投資する代わりに貯金をはたいて不動産を買い、富裕層は投機目的で複数のマンションを買いあさる......。
この繰り返しが中国の開発業者を儲けさせ、建設ラッシュを招き、好況を維持してきた。その一方で住宅ブームはバブルの懸念をあおってもいる。不動産ブームの過熱を抑制しようと、中国の主要都市では過去1年間、住宅購入が制限され、2軒目の頭金の最低比率が引き上げられている。
海外の高級物件が人気
しかし不動産市場が冷え込んだら、これからも住宅を買いたい中国人はどこに投資すればいいのか。
投資先として魅力を増しているのは外国だ。中国政府は市民が国外に持ち出せる金額を1人5万ドルまでに厳しく制限しているが、他人と協力して規制をかいくぐることはできる。「銀行口座を交換するなどの方法で最大100万ドルを国外に持ち出せることも多い」と、中国経済に詳しいエコノミストのパトリック・チョバネクは言う。
現に過去1年間、アメリカで住宅を購入する中国人が急増している。中国人による不動産購入は今年3月までに50%増加し、時価総額は現在220億ドルに達している。中国人富裕層を引き寄せようと、米政府はEB−5プログラム(アメリカ国内の地域開発事業に50万ドル以上投資した外国人に永住権を与える)の一環として、中国人6895人に移民ビザを発給。発給件数2位は韓国人だが、こちらは364人にとどまっている。
中国人はかなり高級志向のようで、中国人向けの住宅価格の中央値は52万3148ドル(カナダ人向けの住宅価格は平均21万2500ドル)。彼らは、中国人向けの物件(風水に基づいて設計されているなど)を専門に扱う業者を利用する。例えば不動産検索サイトのジロウ・ドットコムは北京の不動産検索サイトと提携し、中国人バイヤーに情報提供している。真のグローバル不動産市場の誕生だと、ニューヨーカー誌のジェームズ・スロウィッキーは5月のコラムで書いた。
こうした状況は、80年代後半のジャパンマネーによる米有名不動産の買いあさりを思い起こさせるかもしれない。ニューヨークのロックフェラーセンターやカリフォルニアの名門ゴルフ場が相次いで買収され、「日本株式会社」がアメリカを席巻するのではないかと懸念する声も上がった。ところがその後、日本の資産バブルが崩壊、以来20年間、日本経済は低迷したままだ。今回も騒ぎ過ぎだと主張する専門家もいる。
汚職取り締まりの影響も
11年にニューヨークのパークアベニュープラザの株式の49%を中国の不動産グループ、SOHO中国が取得したケースなどはあくまでも例外だ。「中国マネーが象徴する資本流出はジャパンマネーのときとはタイプが異なる。企業ではなく一族や個人が原動力になっている」と、チョバネクは言う。
きれいな空気と優れた教育システムを求めて、中国の富裕層(資産総額160万ドル以上)の64%が既に国外に移住しているか、移住を計画している。習近平(シ―・チーピン)国家主席が昨年の就任以降、汚職取り締まりに意欲的で、高級住宅を複数所有するなど富を誇示する官僚を罰していることも、海外資産購入に拍車を掛けている。
「反汚職キャンペーンのせいで資産状況を曖昧にしたがっている中国人が多い」と、チョバネクは言う。
かつて「世界の工場」だった中国には外国からの投資が流れ込み、世界第2の経済大国に成長する追い風となった。しかし資本規制が緩和された結果、12年には資本収支が赤字に。中国政府は一層の規制緩和をほのめかしており、資本逃避を招く恐れがあるとIMF(国際通貨基金)は警告している。
そうなれば海外の中国マネー(大半が不動産に投資されている)が、住宅費高騰が議論を呼んでいるニューヨークのような市場に及ぼす影響ははるかに大きくなるはずだと、チョバネクは言う。ニューヨークの不動産に中国マネーが殺到すれば、既に不動産を所有している人には朗報だろうが、これから買いたい人は不利になる。「こうした資本流出の受け皿になるのはどんな資産かといえば、主に不動産だ」
GDPの伸びはどうあれ、中国人の海外投資熱は今も健在だ。「中国がいまホットだとか、アメリカが中国に完敗するとか、中国が世界第1位の経済大国になるとか言われているが、非常に多くの中国人が資金を国外に出したがっていることは覚えておくといい」
[2014.10.28号掲載]
マット・スキヤベンザ
住宅価格が下がり続ければ、中国経済全体に重大な脅威となるだろうと専門家は懸念を示す。しかも国外で不動産を購入する中国人が増えている中、中国の不動産市場が崩壊すれば大量の資金が国外流出し、バンクーバーやニューヨークやシドニーのように遠く離れた市場でも住宅価格が上昇する恐れがある。
中国は不動産部門に依存しており、GDPの伸びの16〜20%が不動産投資によるものだ。近年、輸出競争力が低下するなか、固定資産への投資によって高い経済成長率を維持してきた。
どんな仕組みか説明しよう。国有銀行が地方政府への融資を拡大、地方政府はその資金を不動産開発業者に貸し、都市部に近代的な高層マンションが建設される。市民は国内の不安定な株式市場に投資する代わりに貯金をはたいて不動産を買い、富裕層は投機目的で複数のマンションを買いあさる......。
この繰り返しが中国の開発業者を儲けさせ、建設ラッシュを招き、好況を維持してきた。その一方で住宅ブームはバブルの懸念をあおってもいる。不動産ブームの過熱を抑制しようと、中国の主要都市では過去1年間、住宅購入が制限され、2軒目の頭金の最低比率が引き上げられている。
海外の高級物件が人気
しかし不動産市場が冷え込んだら、これからも住宅を買いたい中国人はどこに投資すればいいのか。
投資先として魅力を増しているのは外国だ。中国政府は市民が国外に持ち出せる金額を1人5万ドルまでに厳しく制限しているが、他人と協力して規制をかいくぐることはできる。「銀行口座を交換するなどの方法で最大100万ドルを国外に持ち出せることも多い」と、中国経済に詳しいエコノミストのパトリック・チョバネクは言う。
現に過去1年間、アメリカで住宅を購入する中国人が急増している。中国人による不動産購入は今年3月までに50%増加し、時価総額は現在220億ドルに達している。中国人富裕層を引き寄せようと、米政府はEB−5プログラム(アメリカ国内の地域開発事業に50万ドル以上投資した外国人に永住権を与える)の一環として、中国人6895人に移民ビザを発給。発給件数2位は韓国人だが、こちらは364人にとどまっている。
中国人はかなり高級志向のようで、中国人向けの住宅価格の中央値は52万3148ドル(カナダ人向けの住宅価格は平均21万2500ドル)。彼らは、中国人向けの物件(風水に基づいて設計されているなど)を専門に扱う業者を利用する。例えば不動産検索サイトのジロウ・ドットコムは北京の不動産検索サイトと提携し、中国人バイヤーに情報提供している。真のグローバル不動産市場の誕生だと、ニューヨーカー誌のジェームズ・スロウィッキーは5月のコラムで書いた。
こうした状況は、80年代後半のジャパンマネーによる米有名不動産の買いあさりを思い起こさせるかもしれない。ニューヨークのロックフェラーセンターやカリフォルニアの名門ゴルフ場が相次いで買収され、「日本株式会社」がアメリカを席巻するのではないかと懸念する声も上がった。ところがその後、日本の資産バブルが崩壊、以来20年間、日本経済は低迷したままだ。今回も騒ぎ過ぎだと主張する専門家もいる。
汚職取り締まりの影響も
11年にニューヨークのパークアベニュープラザの株式の49%を中国の不動産グループ、SOHO中国が取得したケースなどはあくまでも例外だ。「中国マネーが象徴する資本流出はジャパンマネーのときとはタイプが異なる。企業ではなく一族や個人が原動力になっている」と、チョバネクは言う。
きれいな空気と優れた教育システムを求めて、中国の富裕層(資産総額160万ドル以上)の64%が既に国外に移住しているか、移住を計画している。習近平(シ―・チーピン)国家主席が昨年の就任以降、汚職取り締まりに意欲的で、高級住宅を複数所有するなど富を誇示する官僚を罰していることも、海外資産購入に拍車を掛けている。
「反汚職キャンペーンのせいで資産状況を曖昧にしたがっている中国人が多い」と、チョバネクは言う。
かつて「世界の工場」だった中国には外国からの投資が流れ込み、世界第2の経済大国に成長する追い風となった。しかし資本規制が緩和された結果、12年には資本収支が赤字に。中国政府は一層の規制緩和をほのめかしており、資本逃避を招く恐れがあるとIMF(国際通貨基金)は警告している。
そうなれば海外の中国マネー(大半が不動産に投資されている)が、住宅費高騰が議論を呼んでいるニューヨークのような市場に及ぼす影響ははるかに大きくなるはずだと、チョバネクは言う。ニューヨークの不動産に中国マネーが殺到すれば、既に不動産を所有している人には朗報だろうが、これから買いたい人は不利になる。「こうした資本流出の受け皿になるのはどんな資産かといえば、主に不動産だ」
GDPの伸びはどうあれ、中国人の海外投資熱は今も健在だ。「中国がいまホットだとか、アメリカが中国に完敗するとか、中国が世界第1位の経済大国になるとか言われているが、非常に多くの中国人が資金を国外に出したがっていることは覚えておくといい」
[2014.10.28号掲載]
マット・スキヤベンザ