急に解散・総選挙のムードが強まってきた。前の総選挙から2年しかたっていないが、解散があるので、衆議院議員の平均在職年数は2年9ヶ月だ。2年過ぎたら、解散してもいいとされる。衆議院の任期は2016年末まであるが、歴史的には任期ぎりぎりで追い込まれて解散すると、自民党が負けることが多い。2009年の麻生内閣がそのパターンで、「解散の時期を逸した」と批判を浴びた。
総選挙での自民党の得票率は、経験的には解散したときの内閣支持率にほぼ比例する。安倍内閣の支持率は落ちてきたが、まだ40%台と高く、2005年の郵政解散のときの小泉内閣に近い。いま解散・総選挙をしても2012年の294議席には及ばないと予想されているが、野党は選挙協力ができていないので、やるなら今のうちだ。
来年9月の自民党総裁選挙で再選を果たすのが安倍首相の目的なので、それまでに党内で「安倍おろし」が出るような事態は避けたいところだろう。来年4月の統一地方選挙と同時という説もあるが、これから支持率の上がる材料はない。むしろ原発の再稼動など、下がる材料が多い。アベノミクスの偽薬効果が残っているうちに解散するのは、政治的には悪くない。
しかし増税の予定は、来年10月である。いま延期しても、実体経済に何も影響はない。景気が悪くなった原因はエネルギー価格の上昇や人手不足による供給制約だから、増税延期で需要を増やしても意味がない。「今は増税の時期ではない」というが、1年半先送りして2017年4月にしても景気がよくなっている保証はない。IMF(国際通貨基金)の見通しでは、2015年の日本の成長率は0.8%と、今年の0.9%より低くなる。
安倍首相は「税率を上げて税収が減ったら元も子もない」というが、1997年の消費増税のあと税収が減ったのは、所得減税をしたからだ。「増税しないでインフレにしたら名目成長率が上がって財政収支が黒字になる」という楽観論もあるが、増税しないで財政を黒字化するには、5%以上の名目成長率が必要だ。人口の減少する日本経済では、先送りするほど一人当りの負担は重くなる。
10月に行なわれた日銀の追加緩和で金融政策の弾は撃ち尽くし、それに加えて禁じ手の増税延期までやると、来年さらに景気が落ち込んだとき、もう打つ手がない。来年10月に増税する場合には7~9月期に駆け込み需要が出るが、延期するとそれもなくなる。つまり来年9月の総裁選のときには、大不況の最中になっている可能性があるのだ。
選挙が近づくと財政出動と金融政策でインフレになり、選挙が終わると引き締めで不況になる現象を政治的な景気循環と呼ぶが、政治日程は景気循環の波と一致しないので、かえって循環を増幅することが多い。最近では「エコポイント」がその例で、リーマン・ショックのあと電機製品に補助金を出したが、打ち切られると電機メーカーが経営危機に直面した。安倍首相の先送り政策も、不況を増幅するおそれが強い。
このように増税延期の景気への効果は疑問だが、確実に起こるのは財政赤字の膨張である。来年度予算は年度後半の増税を見込んで編成されているが、それが延期されると予算を減額するか国債を増発するしかない。追加緩和は増税が前提で、黒田総裁も「増税を延期したら責任はもてない」といっている。
「今は景気が悪いから増税を延期する」という前例をつくったら、増税は際限なく先送りされるだろう。第2次大戦後に、日本と同じようにGDPの2倍を超える政府債務を抱えたイギリスは、金利を規制して人為的にインフレにする「金融抑圧」で債務を減らしたが、所得税率は最高83%に達し、消費税率は20%でも足りなくなった。1970年代には高率のインフレで金利が20%まで上昇し、経済が崩壊した。
日本経済も、同じ「英国病」の道を歩んでいる。いやなことを先送りし、目先の景気対策で再選をねらうのは民主政治の常だが、先送りされた負担と荒廃した経済を引き継ぐのは次の世代である。増税延期は世代間の戦争だが、若い世代に勝ち目はない。日本の投票者の年齢の中央値は60歳を超えているからだ。
総選挙での自民党の得票率は、経験的には解散したときの内閣支持率にほぼ比例する。安倍内閣の支持率は落ちてきたが、まだ40%台と高く、2005年の郵政解散のときの小泉内閣に近い。いま解散・総選挙をしても2012年の294議席には及ばないと予想されているが、野党は選挙協力ができていないので、やるなら今のうちだ。
来年9月の自民党総裁選挙で再選を果たすのが安倍首相の目的なので、それまでに党内で「安倍おろし」が出るような事態は避けたいところだろう。来年4月の統一地方選挙と同時という説もあるが、これから支持率の上がる材料はない。むしろ原発の再稼動など、下がる材料が多い。アベノミクスの偽薬効果が残っているうちに解散するのは、政治的には悪くない。
しかし増税の予定は、来年10月である。いま延期しても、実体経済に何も影響はない。景気が悪くなった原因はエネルギー価格の上昇や人手不足による供給制約だから、増税延期で需要を増やしても意味がない。「今は増税の時期ではない」というが、1年半先送りして2017年4月にしても景気がよくなっている保証はない。IMF(国際通貨基金)の見通しでは、2015年の日本の成長率は0.8%と、今年の0.9%より低くなる。
安倍首相は「税率を上げて税収が減ったら元も子もない」というが、1997年の消費増税のあと税収が減ったのは、所得減税をしたからだ。「増税しないでインフレにしたら名目成長率が上がって財政収支が黒字になる」という楽観論もあるが、増税しないで財政を黒字化するには、5%以上の名目成長率が必要だ。人口の減少する日本経済では、先送りするほど一人当りの負担は重くなる。
10月に行なわれた日銀の追加緩和で金融政策の弾は撃ち尽くし、それに加えて禁じ手の増税延期までやると、来年さらに景気が落ち込んだとき、もう打つ手がない。来年10月に増税する場合には7~9月期に駆け込み需要が出るが、延期するとそれもなくなる。つまり来年9月の総裁選のときには、大不況の最中になっている可能性があるのだ。
選挙が近づくと財政出動と金融政策でインフレになり、選挙が終わると引き締めで不況になる現象を政治的な景気循環と呼ぶが、政治日程は景気循環の波と一致しないので、かえって循環を増幅することが多い。最近では「エコポイント」がその例で、リーマン・ショックのあと電機製品に補助金を出したが、打ち切られると電機メーカーが経営危機に直面した。安倍首相の先送り政策も、不況を増幅するおそれが強い。
このように増税延期の景気への効果は疑問だが、確実に起こるのは財政赤字の膨張である。来年度予算は年度後半の増税を見込んで編成されているが、それが延期されると予算を減額するか国債を増発するしかない。追加緩和は増税が前提で、黒田総裁も「増税を延期したら責任はもてない」といっている。
「今は景気が悪いから増税を延期する」という前例をつくったら、増税は際限なく先送りされるだろう。第2次大戦後に、日本と同じようにGDPの2倍を超える政府債務を抱えたイギリスは、金利を規制して人為的にインフレにする「金融抑圧」で債務を減らしたが、所得税率は最高83%に達し、消費税率は20%でも足りなくなった。1970年代には高率のインフレで金利が20%まで上昇し、経済が崩壊した。
日本経済も、同じ「英国病」の道を歩んでいる。いやなことを先送りし、目先の景気対策で再選をねらうのは民主政治の常だが、先送りされた負担と荒廃した経済を引き継ぐのは次の世代である。増税延期は世代間の戦争だが、若い世代に勝ち目はない。日本の投票者の年齢の中央値は60歳を超えているからだ。