安倍首相は18日夜に記者会見し、消費税の増税を先送りして衆議院を解散することを表明した。彼は財政健全化目標については「来年夏までに達成に向けた具体的案計画を策定いたします」というだけで目標を示さなかったが、彼のブレーンである浜田宏一氏(内閣官房参与)は、ロイターのインタビューに次のように答えている。
[政府債務は]実現可能なネズミ講システムだ。普通のネズミ講はどこかで終わって破綻するが、どこの政府でも次の納税者は必ずあらわれる。政府が自転車操業でお金を借りまくることはいいことではないが、政府と民間を合わせれば、消費税を先送りしても信頼が崩れることはない。
「ネズミ講」は原文ではPonzi schemeとなっており、バーナード・マドフなどの行なった出資金詐欺をさす。これは出資者に高い運用利回りを約束するが、実際には運用益は上がっておらず、新しい出資者の資金を利益として分配し、その元本を食いつぶす犯罪である。政府関係者が「詐欺をやっている」と認めるのは珍しい。
ここで既存の出資者を現在の年金受給者、新しい出資者を将来の納税者に置き換えると、このしくみは納税者が無限に増えれば維持できる。国債を返済しないで借り換え、その金利負担を将来の納税者に先送りすればいい。つまり浜田氏は「自転車操業」を永遠に続ければ、財政健全化は必要ないと言っているのだ。
政府債務が膨張しても、日銀がその国債を買えば金利上昇は防げる。極端な話、日銀が国債を100%買い占めれば、税金は必要なくなる。これが「バーナンキの背理法」と呼ばれるもので、論理的には正しい。もしそれが可能なら、中央銀行が財政を維持する「無税国家」が可能になる。
もちろん、そんなことはありえない。国債の残高が増えると金利負担が増え、インフレになる。どこかで納税者が負担に耐えられなくなると、ネズミ講は終わる。終わったとき清算すると、年金生活者などに分配してしまった金は返ってこないので、財政には大きな穴があく。問題は、このネズミ講がどこで終わるかである。
日本の政府債務は1038兆円だが、これをすべて返済する必要はない。政府債務が一定の水準で安定すれば、金利が大きく上がらない限り借り換えることができる。その基準をプライマリーバランス(基礎的財政収支=PB)と呼び、これを黒字にする目標が中期財政計画の財政健全化目標だ。
今の目標では2020年にPBを黒字にすることになっているが、これは名目成長率3.3%という非常に高い成長を想定しても実現しない(過去20年の平均は約1%)。今年はマイナス成長とみられているので、消費税8%ではPBの赤字は増え、政府債務は発散する。それはいつごろまで維持できるだろうか。
歴史上、GDP(国内総生産)の2倍を超える政府債務を(政権が倒れないで)返済したのは、イギリスだけである。特に第2次大戦でGDPの2.5倍の借金を抱え、これを0.5倍まで減らすのに30年以上かかった。
イギリスの政府債務のGDP比(青)と金利(赤)出所:イングランド銀行
これは金利を規制で低く抑えるするととともに通貨を大量に供給し、人為的インフレでマイナス金利にする金融抑圧のおかげだ。このため1970年代には、図のように国債の金利は15%を超え、20%を超えるインフレが起こって、イギリスはヨーロッパの最貧国になった。
いま日銀のやっているのも、ゼロ金利のもとでマネタリーベース(資金残高)を膨張させ、実質金利をマイナスにする金融抑圧である。このように国債を引き受けて財政を支える財政ファイナンスは中央銀行のタブーだが、別に違法ではない。「これは財政ファイナンスです」と宣言して行なわれることもない。
このまま日銀が国債を買い続けると、来年はマネタリーベースがGDPの70%を超え、2030年にはGDPの4倍になる。そこまでに必ずインフレが起こり、円が暴落して金利が上昇するだろう。これによって日銀も金融機関も多額の評価損を抱えるが、これも最終的には税金で穴埋めされる。
ただ日本国債は90%以上を国内の金融機関が保有しているので、円安でも対外債務が膨張せず、コントロールしやすい。日銀は金融抑圧のシミュレーションもしており、消費税を10%に上げれば徐々に国債を売って退却できると計算していたのだろう。ところが安倍首相は、その増税を先送りしてしまった。
黒田総裁は19日の記者会見で「財政規律が失われると、財政の重要な機能である公共サービスの提供、所得の再分配、景気調整機能、すべてについてさまざまな問題が生じうる。財政規律はきわめて重要。それを守っていかれることを強く期待する」と懸念を表明した。政府と日銀の歯車が狂い始めた今、ネズミ講の終わりは意外に近いかも知れない。
[政府債務は]実現可能なネズミ講システムだ。普通のネズミ講はどこかで終わって破綻するが、どこの政府でも次の納税者は必ずあらわれる。政府が自転車操業でお金を借りまくることはいいことではないが、政府と民間を合わせれば、消費税を先送りしても信頼が崩れることはない。
「ネズミ講」は原文ではPonzi schemeとなっており、バーナード・マドフなどの行なった出資金詐欺をさす。これは出資者に高い運用利回りを約束するが、実際には運用益は上がっておらず、新しい出資者の資金を利益として分配し、その元本を食いつぶす犯罪である。政府関係者が「詐欺をやっている」と認めるのは珍しい。
ここで既存の出資者を現在の年金受給者、新しい出資者を将来の納税者に置き換えると、このしくみは納税者が無限に増えれば維持できる。国債を返済しないで借り換え、その金利負担を将来の納税者に先送りすればいい。つまり浜田氏は「自転車操業」を永遠に続ければ、財政健全化は必要ないと言っているのだ。
政府債務が膨張しても、日銀がその国債を買えば金利上昇は防げる。極端な話、日銀が国債を100%買い占めれば、税金は必要なくなる。これが「バーナンキの背理法」と呼ばれるもので、論理的には正しい。もしそれが可能なら、中央銀行が財政を維持する「無税国家」が可能になる。
もちろん、そんなことはありえない。国債の残高が増えると金利負担が増え、インフレになる。どこかで納税者が負担に耐えられなくなると、ネズミ講は終わる。終わったとき清算すると、年金生活者などに分配してしまった金は返ってこないので、財政には大きな穴があく。問題は、このネズミ講がどこで終わるかである。
日本の政府債務は1038兆円だが、これをすべて返済する必要はない。政府債務が一定の水準で安定すれば、金利が大きく上がらない限り借り換えることができる。その基準をプライマリーバランス(基礎的財政収支=PB)と呼び、これを黒字にする目標が中期財政計画の財政健全化目標だ。
今の目標では2020年にPBを黒字にすることになっているが、これは名目成長率3.3%という非常に高い成長を想定しても実現しない(過去20年の平均は約1%)。今年はマイナス成長とみられているので、消費税8%ではPBの赤字は増え、政府債務は発散する。それはいつごろまで維持できるだろうか。
歴史上、GDP(国内総生産)の2倍を超える政府債務を(政権が倒れないで)返済したのは、イギリスだけである。特に第2次大戦でGDPの2.5倍の借金を抱え、これを0.5倍まで減らすのに30年以上かかった。
イギリスの政府債務のGDP比(青)と金利(赤)出所:イングランド銀行
これは金利を規制で低く抑えるするととともに通貨を大量に供給し、人為的インフレでマイナス金利にする金融抑圧のおかげだ。このため1970年代には、図のように国債の金利は15%を超え、20%を超えるインフレが起こって、イギリスはヨーロッパの最貧国になった。
いま日銀のやっているのも、ゼロ金利のもとでマネタリーベース(資金残高)を膨張させ、実質金利をマイナスにする金融抑圧である。このように国債を引き受けて財政を支える財政ファイナンスは中央銀行のタブーだが、別に違法ではない。「これは財政ファイナンスです」と宣言して行なわれることもない。
このまま日銀が国債を買い続けると、来年はマネタリーベースがGDPの70%を超え、2030年にはGDPの4倍になる。そこまでに必ずインフレが起こり、円が暴落して金利が上昇するだろう。これによって日銀も金融機関も多額の評価損を抱えるが、これも最終的には税金で穴埋めされる。
ただ日本国債は90%以上を国内の金融機関が保有しているので、円安でも対外債務が膨張せず、コントロールしやすい。日銀は金融抑圧のシミュレーションもしており、消費税を10%に上げれば徐々に国債を売って退却できると計算していたのだろう。ところが安倍首相は、その増税を先送りしてしまった。
黒田総裁は19日の記者会見で「財政規律が失われると、財政の重要な機能である公共サービスの提供、所得の再分配、景気調整機能、すべてについてさまざまな問題が生じうる。財政規律はきわめて重要。それを守っていかれることを強く期待する」と懸念を表明した。政府と日銀の歯車が狂い始めた今、ネズミ講の終わりは意外に近いかも知れない。