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黒人青年射殺事件「不起訴」の衝撃 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2014年11月25日 13時4分

 今年8月の発生以来、深刻な人種間対立を招いていたミズーリ州ファーガソンの白人警官ダレン・ウィルソンによる黒人青年マイケル・ブラウン氏射殺事件について、アメリカ時間の11月24日夜、大陪審の審理が終了しウィルソンは不起訴となりました。

 大陪審というのは、有罪無罪を決定する法廷ではなく、この事件に関する「起訴・不起訴」を決定するだけの審理です。それに3カ月も要したというのは、要するに陪審員の合意形成に難航したということなのだと思います。

 基本的な構図としては、黒人住民の認識としては「武装していないブラウン氏をウィルソンが一方的に射殺した」として、「人種差別事件」だと猛抗議を続けているわけです。また市警察の側としては、ブラウン氏が暴力的な態度を取るなど、身の危険を感じた場合は「相手を無害化する護身措置」を取るのは警察官として当然であり、ミズーリ州法によれば犯罪を構成せず、従って逮捕拘束の措置もしなかったという立場です。

 8月には大規模なデモが起きる中で、警官が1人の黒人を射殺するなど多くのトラブルが続きました。そうした流れを受けて、決定直前の時点では、暴動による商店などの襲撃を警戒して「銃を購入する動き」が活発化するなど極めて不穏な雰囲気が高まっていました。また暴動の激化を恐れて厳重な警備が敷かれる一方、周辺の学区では翌日の休校を決めています。

 ブラウン氏の遺族は「起訴・不起訴の決定が発表されても、まず4分半の黙祷を行って、デモ活動はその後にしてほしい」と冷静な対応を呼びかけていました。さらにミズーリ州のジェイ・ニクソン知事(民主)は「とにかく人命を守りきろう」と呼びかけ、事態の深刻化に備えて教会などの「シェルター」を用意したと発表しつつ、同時に平静を呼びかけていました。

 現地の警察は「デモは平和裡に徹底して保護する。だが、私有財産の損壊等は絶対に許さない」と声明を出しています。警備体制としては重武装の州兵が遠巻きに構える中で、軽武装の警察が前面に出て警備を行うという方式です。

 一方のウィルソン警官ですが、完全に雲隠れし、警察の同僚女性と静かに結婚式を挙げたということです。市警察はウィルソンに関して「不起訴の場合は辞職して州外へ転居」という「対応」を考慮しているという報道もありました。



 こうした中で、地区検事から不起訴の発表があったわけです。検事のコメントは、30分以上にわたっており、事件の詳細から捜査の過程、審議の過程を説明しながら、SNSによる様々な意見の拡散、そして常にニュースに飢えている「24時間ニュース局」に対しても批判を行い、目撃者の証言がクルクル変わったなどの事情にも混乱の責任の一端があるという批判を加えていました。

 極めて異例な発表と言わざるをえませんが、不起訴という発表を受けて、検事局前に詰めかけていた群衆は早速抗議デモをスタートさせています。同時にニューヨーク市でも抗議行動が始まりました。発表直後の時点では、とりあえず抗議行動は平和裡に行われているようです。

 この事件、問題は人種の偏見ということよりも、アメリカ社会に銃が溢れていることを前提に、警官は身の危険を感じたら相手を射殺して良いという法制や慣行が定着してしまっていることに根本的な問題があるように思います。ですが、そうした見解はアメリカのメディアではほとんど見られません。

 オバマ大統領は、今回ローカルな事件であるにもかかわらず、人種対立の激化を恐れて連邦司法省を動かし、ホルダー司法長官を現地に派遣すると共にFBIを投入し、政府として色々な努力をしたことは事実です。

 最終的に不起訴という決定を受けて、オバマは緊急会見をしています。自分の権威が低下していることをふまえて、「ブラウン氏の両親の思いを無駄にするな」というあくまで遺族の意向を前面に出しながらの声明には明らかに苦渋がにじんでいました。

 オバマは「決定への怒りは理解できる」としながら「行動はあくまで非暴力で」と訴えていました。もちろん大統領ですから、警察当局の努力も評価しつつ、その一方で地域の警察と有色人種コミュニティーの間に正常な信頼関係が築けていないことを指摘し、とにかく今回の事件を受けて前向きの和解を呼びかける内容でした。

 オバマは、途中から原稿から目を離してアドリブで必死に訴え、質問にも少しだけ答えるなど誠実な姿勢を見せましたが、カリスマ性の喪失は明らかでした。まさにその会見の最中に、デモ隊は警察車両をひっくり返そうという挑発行為に走り、それを契機に警察は催涙弾の使用を開始しています。銃声が聞こえたという報道もあります。オバマの言う「非暴力」を果たして保っていけるのか、これも大統領の威信を左右することになります。

 ファーガソンでは、まだまだ目が離せない状況が続きそうです。 

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