原油価格が暴落している。特に11月27日のOPEC(石油輸出国機構)総会で減産が見送られたあと、1バレル60ドル台になり、ここ半年で106ドル台から約40%下がった。この動きは次の図のように、日銀の指標にしているコアCPI(生鮮食品を除く総合物価指数)上昇率の動きとかなり重なる。
コアCPI上昇率(前年同月比・消費税抜き)と原油価格(右軸)
日銀の黒田総裁は10月末に「原油価格の下落が物価の下押し要因となっている」として追加緩和を決めたが、市場では「原油価格の値下がりを止めるなら、日銀が原油先物を買ったほうがいい」と笑い物になった。コアCPIが量的緩和で上がったようにみえるのは錯覚で、上の図でもわかるように、そのほとんどはエネルギー価格(特に原油)の上昇によるものだ。エネルギー価格を除くコアコアCPIは、ほとんど変化していない。
ところが追加緩和には、9人の政策委員のうち正副総裁以外に、宮尾龍蔵氏(神戸大学名誉教授)と白井さゆり氏(慶応大学教授)が賛成して5対4の多数決になった。宮尾氏は、記者会見で賛成の理由を「原油価格の下落の影響だ」と説明し、記者に「今まで原油価格のことは何もいわなかったのに、10月末に突然いい出したのはなぜか」と質問されて、言葉に詰まってしまった。
白井さゆり氏は記者会見で「予想物価上昇率が下がっている時に、金融政策運営者としては放置できない。それはマネタイゼーションへの懸念を越えて重要な問題だ」と述べて、大きな話題を呼んだ。マネタイゼーションとは、日銀が実質的に国債を引き受けて財政の穴埋めをする「財政ファイナンス」のことだ。
これは周知の事実だが、政策委員が公の場でマネタイゼーションを肯定したのは初めてだ。そして安倍首相は、財政への懸念が深まるのをよそに、消費税の増税を先送りし、野党もそれにまったく反対しない。これを受けて大手格付け会社ムーディーズは、日本国債の格付けを1段階下げた。
要するに、お札を印刷すればインフレになって景気がよくなるというアベノミクスとは逆に、日銀が史上最大の量的緩和をしたのに、インフレ率は下がったのだ。上の図で見ると、コアCPI上昇率が前年比0.9%になった10月末の原油価格は、まだ80ドル台だった。原油価格は絶対的に下落しているので、来年はデフレに戻る可能性もある。
しかし問題は、インフレかデフレかではない。エネルギーの96%を輸入している日本経済にとって、原油暴落は朗報だ。不況の最大の原因は3%の消費増税ではなく、2年で40%以上の大幅な円安である。原油価格が40%も下がったのに、円安(ドル高)がそれを打ち消してしまった。政府は「これ以上の円安を止める」という方針を発表し、日銀も量的緩和を手じまうべきだ。
原油安のメリットは半年から1年ぐらい遅れて出てくるので、来年後半にはコアCPIはゼロに近づくが、景気が回復するだろう。特に原発を止められたまま大赤字を抱えている電力会社の経営が好転し、電気代の上昇が抑えられる。
物価は実体経済の変化を反映して動くのであって、その逆ではない。鏡を曲げて実物を曲げることはできないのだ。混乱した金融政策が続く原因は、エネルギー価格を含むコアCPIというゆがんだ鏡にある。世界の中央銀行では、エネルギー価格を除外した物価を基準にするのが普通だ。日銀はゆがんだ鏡をやめ、コアコアCPIを基準にして金融政策を運営すべきである。
コアCPI上昇率(前年同月比・消費税抜き)と原油価格(右軸)
日銀の黒田総裁は10月末に「原油価格の下落が物価の下押し要因となっている」として追加緩和を決めたが、市場では「原油価格の値下がりを止めるなら、日銀が原油先物を買ったほうがいい」と笑い物になった。コアCPIが量的緩和で上がったようにみえるのは錯覚で、上の図でもわかるように、そのほとんどはエネルギー価格(特に原油)の上昇によるものだ。エネルギー価格を除くコアコアCPIは、ほとんど変化していない。
ところが追加緩和には、9人の政策委員のうち正副総裁以外に、宮尾龍蔵氏(神戸大学名誉教授)と白井さゆり氏(慶応大学教授)が賛成して5対4の多数決になった。宮尾氏は、記者会見で賛成の理由を「原油価格の下落の影響だ」と説明し、記者に「今まで原油価格のことは何もいわなかったのに、10月末に突然いい出したのはなぜか」と質問されて、言葉に詰まってしまった。
白井さゆり氏は記者会見で「予想物価上昇率が下がっている時に、金融政策運営者としては放置できない。それはマネタイゼーションへの懸念を越えて重要な問題だ」と述べて、大きな話題を呼んだ。マネタイゼーションとは、日銀が実質的に国債を引き受けて財政の穴埋めをする「財政ファイナンス」のことだ。
これは周知の事実だが、政策委員が公の場でマネタイゼーションを肯定したのは初めてだ。そして安倍首相は、財政への懸念が深まるのをよそに、消費税の増税を先送りし、野党もそれにまったく反対しない。これを受けて大手格付け会社ムーディーズは、日本国債の格付けを1段階下げた。
要するに、お札を印刷すればインフレになって景気がよくなるというアベノミクスとは逆に、日銀が史上最大の量的緩和をしたのに、インフレ率は下がったのだ。上の図で見ると、コアCPI上昇率が前年比0.9%になった10月末の原油価格は、まだ80ドル台だった。原油価格は絶対的に下落しているので、来年はデフレに戻る可能性もある。
しかし問題は、インフレかデフレかではない。エネルギーの96%を輸入している日本経済にとって、原油暴落は朗報だ。不況の最大の原因は3%の消費増税ではなく、2年で40%以上の大幅な円安である。原油価格が40%も下がったのに、円安(ドル高)がそれを打ち消してしまった。政府は「これ以上の円安を止める」という方針を発表し、日銀も量的緩和を手じまうべきだ。
原油安のメリットは半年から1年ぐらい遅れて出てくるので、来年後半にはコアCPIはゼロに近づくが、景気が回復するだろう。特に原発を止められたまま大赤字を抱えている電力会社の経営が好転し、電気代の上昇が抑えられる。
物価は実体経済の変化を反映して動くのであって、その逆ではない。鏡を曲げて実物を曲げることはできないのだ。混乱した金融政策が続く原因は、エネルギー価格を含むコアCPIというゆがんだ鏡にある。世界の中央銀行では、エネルギー価格を除外した物価を基準にするのが普通だ。日銀はゆがんだ鏡をやめ、コアコアCPIを基準にして金融政策を運営すべきである。