今月9日に米上院情報特別委員会が公表した、ブッシュ政権下のCIAにおける「拷問」問題のレポートは、1つの時代の終わりを告げるものだと言えます。それは、「ポスト9・11」という言い方で「テロを防止するためには手段を選ばない」という姿勢を掲げた、いわゆる「対テロ戦争」の時代の終わりです。
大統領選を通じて「チェンジ」つまり改革を訴えてきたオバマ大統領ですが、この「対テロ戦争の時代を終わらせる」というテーマについては、とりあえず実現を見たと言っていいでしょう。つまり「グアンタナモにおけるテロ容疑者の超法規的収容」を終わらせること、そしてブッシュ政権以来のアメリカの「暗部」と言って良い「CIAによる拷問」問題を白日のもとに晒すこと、この2つはようやく達成されたと言えます。
本当は、この2つに加えて「NSA(国家安全保障局)による国内外の電子メールや通話の全面的な盗聴行為」に関しても、自身の手で終わらせるべきでした。ですが、こちらの方はエドワード・スノーデンの暴露と、これを契機としてアップル社などIT企業が非協力に転じることで、オバマ政権自身の成果として「終わらせる」ことはできなかった事情があります。
さて、今回の報告書ですが、予想を上回る内容となりました。テロ容疑者に対して溺死の恐怖を味合わせる「水責め」が極めて頻繁に実施されていたこと、さらには銃口を突きつけて情報提供を迫る、あるいは性的拷問を加えて自尊心を破壊するなどといった行為が日常化していたというのです。拷問のために落命した被疑者の存在も具体的に明らかになりました。
報告書は「拷問の結果、苦痛から逃れたい一心で偽の情報を口にする被疑者があった」など「拷問の効果は疑問」であったと結論付けています。また、オバマ大統領がその成果だとしている「ウサマ・ビンラディンの潜伏先」発見に関しては、映画『ゼロ・ダーク・サーティ』(キャサリン・ビグロー監督、2012年)が示唆していたような「拷問の結果として得られた情報から導かれた」というストーリーを否定しています。
この点からも感じられるように、今回の「報告書発表」には、民主党が過半数を失う前の議会会期末において、オバマ大統領がダイアン・ファインスタイン委員長(上院情報特別委員会)と計って、「ブッシュ時代の暗黒」を暴露することで、自身の政治的なレガシー(遺産)にしようとしている、そのような政治的な判断が背後にあることは否定できません。
これに加えて、私の印象としては、昨今の「米英の若者が自国への失望感からISIS(自称『イスラム国』)へ志願していく」現象を重く見たオバマ政権としては、ここで一気に「ウミを出してしまう」ことで、アメリカは「自浄作用のある国」だというイメージを広めたい、そんな計算もあるように思います。
一方で、この報告を受けて、右派のメディアであるFOXニュースなどは「反米的な政権の性格を明らかにしたもの」というようなイデオロギー的な論評を加えています。さらに、そのブッシュ政権下でNSA長官そしてCIA長官を務めたマイケル・ヘイデン氏は、NBCのインタビューで「当時の法制度からは合法であり、一切恥じることはない」と述べています。
ですが、やはりブッシュ時代の「拷問に頼った情報収集活動」というのは異様です。これはスパイ組織が陥った腐敗と言っても過言ではないでしょう。では、どうしてスパイ組織はそのような腐敗に陥るのでしょうか?
ブッシュ政権は「9・11同時多発テロ」という前代未聞の事件に直面する中で、1つの判断をしました。それは従来型の「ヒューミント」つまり人間による諜報活動によって収集された情報は信用ができないという判断です。
90年代までのCIAというのは、全世界を対象として「スパイを潜伏させ、現地の協力者を利用しながら情報収集を行う」というアプローチをメインに活動してきました。ですが、その結果としては「9・11は防止できなかった」のです。ブッシュ政権はこのことを重く見て、諜報活動の戦略を変えていきました。
それはまず「シギント」、つまり電子情報を通じて収集した諜報、つまり電話回線、携帯電話の信号、そしてインターネットに関して世界中から情報を集め、これに偵察衛星による微細なデータを重ね合わせる、さらに身柄を拘束したテロ容疑者に拷問を与えて自白させた諜報を突き合わせる、そうした作業によりテロ情報を収集しようとしたのです。
どうしてヒューミント、つまり生きた人間のスパイの比重を下げていったのかというと、それは「相手国の中で活動しているCIAエージェントは大なり小なり相手の文化に染まってしまい、100%米国の利害で動いてくれるか信用できない」からでした。また、電子諜報に過度に頼った背景には、2000年のITバブル崩壊後に軍需産業に転じて延命を図ろうとした一部のIT企業との癒着があったと見ることができます。
いずれにしても、今回暴露された「CIAによる拷問行為」の背景には、相手国に潜入させた工作員やその周囲に存在する協力者などへの「不信」があると言えます。
相手国において、明らかに自国の国益を損なうような危険な動きがあるのであれば、何よりも公表された情報を整理し、相手国政府との正当な外交関係の中で、あるいは官民挙げた相手国との関係の中で、危険除去の努力、あるいは情報収集の努力をすればいいのです。
そうした正規の外交ルートでの情報収集も、そして生身の人間として派遣したスパイも信用できないというところから、ブッシュの「拷問と盗聴」に頼るスパイ組織の腐敗が起きたのです。
大統領選を通じて「チェンジ」つまり改革を訴えてきたオバマ大統領ですが、この「対テロ戦争の時代を終わらせる」というテーマについては、とりあえず実現を見たと言っていいでしょう。つまり「グアンタナモにおけるテロ容疑者の超法規的収容」を終わらせること、そしてブッシュ政権以来のアメリカの「暗部」と言って良い「CIAによる拷問」問題を白日のもとに晒すこと、この2つはようやく達成されたと言えます。
本当は、この2つに加えて「NSA(国家安全保障局)による国内外の電子メールや通話の全面的な盗聴行為」に関しても、自身の手で終わらせるべきでした。ですが、こちらの方はエドワード・スノーデンの暴露と、これを契機としてアップル社などIT企業が非協力に転じることで、オバマ政権自身の成果として「終わらせる」ことはできなかった事情があります。
さて、今回の報告書ですが、予想を上回る内容となりました。テロ容疑者に対して溺死の恐怖を味合わせる「水責め」が極めて頻繁に実施されていたこと、さらには銃口を突きつけて情報提供を迫る、あるいは性的拷問を加えて自尊心を破壊するなどといった行為が日常化していたというのです。拷問のために落命した被疑者の存在も具体的に明らかになりました。
報告書は「拷問の結果、苦痛から逃れたい一心で偽の情報を口にする被疑者があった」など「拷問の効果は疑問」であったと結論付けています。また、オバマ大統領がその成果だとしている「ウサマ・ビンラディンの潜伏先」発見に関しては、映画『ゼロ・ダーク・サーティ』(キャサリン・ビグロー監督、2012年)が示唆していたような「拷問の結果として得られた情報から導かれた」というストーリーを否定しています。
この点からも感じられるように、今回の「報告書発表」には、民主党が過半数を失う前の議会会期末において、オバマ大統領がダイアン・ファインスタイン委員長(上院情報特別委員会)と計って、「ブッシュ時代の暗黒」を暴露することで、自身の政治的なレガシー(遺産)にしようとしている、そのような政治的な判断が背後にあることは否定できません。
これに加えて、私の印象としては、昨今の「米英の若者が自国への失望感からISIS(自称『イスラム国』)へ志願していく」現象を重く見たオバマ政権としては、ここで一気に「ウミを出してしまう」ことで、アメリカは「自浄作用のある国」だというイメージを広めたい、そんな計算もあるように思います。
一方で、この報告を受けて、右派のメディアであるFOXニュースなどは「反米的な政権の性格を明らかにしたもの」というようなイデオロギー的な論評を加えています。さらに、そのブッシュ政権下でNSA長官そしてCIA長官を務めたマイケル・ヘイデン氏は、NBCのインタビューで「当時の法制度からは合法であり、一切恥じることはない」と述べています。
ですが、やはりブッシュ時代の「拷問に頼った情報収集活動」というのは異様です。これはスパイ組織が陥った腐敗と言っても過言ではないでしょう。では、どうしてスパイ組織はそのような腐敗に陥るのでしょうか?
ブッシュ政権は「9・11同時多発テロ」という前代未聞の事件に直面する中で、1つの判断をしました。それは従来型の「ヒューミント」つまり人間による諜報活動によって収集された情報は信用ができないという判断です。
90年代までのCIAというのは、全世界を対象として「スパイを潜伏させ、現地の協力者を利用しながら情報収集を行う」というアプローチをメインに活動してきました。ですが、その結果としては「9・11は防止できなかった」のです。ブッシュ政権はこのことを重く見て、諜報活動の戦略を変えていきました。
それはまず「シギント」、つまり電子情報を通じて収集した諜報、つまり電話回線、携帯電話の信号、そしてインターネットに関して世界中から情報を集め、これに偵察衛星による微細なデータを重ね合わせる、さらに身柄を拘束したテロ容疑者に拷問を与えて自白させた諜報を突き合わせる、そうした作業によりテロ情報を収集しようとしたのです。
どうしてヒューミント、つまり生きた人間のスパイの比重を下げていったのかというと、それは「相手国の中で活動しているCIAエージェントは大なり小なり相手の文化に染まってしまい、100%米国の利害で動いてくれるか信用できない」からでした。また、電子諜報に過度に頼った背景には、2000年のITバブル崩壊後に軍需産業に転じて延命を図ろうとした一部のIT企業との癒着があったと見ることができます。
いずれにしても、今回暴露された「CIAによる拷問行為」の背景には、相手国に潜入させた工作員やその周囲に存在する協力者などへの「不信」があると言えます。
相手国において、明らかに自国の国益を損なうような危険な動きがあるのであれば、何よりも公表された情報を整理し、相手国政府との正当な外交関係の中で、あるいは官民挙げた相手国との関係の中で、危険除去の努力、あるいは情報収集の努力をすればいいのです。
そうした正規の外交ルートでの情報収集も、そして生身の人間として派遣したスパイも信用できないというところから、ブッシュの「拷問と盗聴」に頼るスパイ組織の腐敗が起きたのです。